2. 手と手
白い人間が倒れた後、リョウがどうすることもできなくなりオロオロしていると、コンビニの店員が出てきた。
店員は細い目にメガネをかけ、ツーブロックの茶髪である。身長は170ちょいで、細身だ。彼はいつもならやる気なくレジを打ち、悪態を突いてくる嫌な奴であり、あまり関わりたくないタイプの男である。しかし今日は私の危機に颯爽と現れ、背後に菩薩が見えた。もう、すごく輝いてる。
「大丈夫ですか?」
リョウの顔を伺いながら、白人間の体を起こし、真っ赤に染まる顔を濡れティッシュで拭いてくれた。
「大丈夫です…」
白人間から少し距離を取り、小さく頷く。
そして、店員と酔っ払いの二人に感謝の言葉を伝えた。実は定員を呼んでくれたのは酔っ払いのじじいであり、意外にいいおじさんだった。
お前のせいで、こんなことになったんだけどな、とか捻くれた考えを心の綺麗なリョウはしないのである。ないのである。
いろいろな人が集まって、救急車を呼ぶかどうかという話になったとき、白人間はうっすら目を開けた。
「…………ワーダー」
白い人間はそういうとリョウが持っているペットボトルに手を伸ばした。このペットボトルは店員から渡されたものである。人の優しさを感じた証である。
「……ワーダー」
みんなの視線がリョウにそそがれる。
「ワーダーって何?」
リョウがそういうと定員もペットボトルを指差した。うん、なんとなく分かってた。
「水のことです」
分かってるよ。うん、分かってる、分かってるんだけど。
店員の言葉にペットボトルを渡す雰囲気になり、リョウは渋々手渡した。
(間接キスじゃね?とか、考えてませんよ)
白い人間はリョウから水を受け取ると、コクコクと喉を鳴らして飲みほした。白人間がにっこり笑う。
ドキリと、心臓が音を立てる。……というのは気のせいだ。気のせいに違いない。
「ありがとう」
そして冷める。これはマジで。
「日本語喋れるのかよ」
リョウがジト目で白人間を見ると、ソイツは驚いたような顔をしてクスッと笑った。
(ん?何笑ってやがる?ワーターって何よ。お前、何キャラだよ。どういう立ち位置だよ)
怒りが込み上げるが、自力で押さえ込み、ニッコリ笑顔を返した。
コンビニから漏れる白い電気にうつされた白人間の目は、青みどりに光っていた。
白人間が「大丈夫です」と言うと周りも少ししてから、元の場所へ戻って行った。
コンビニの駐車場で白い人間と二人きりになる。遠くから数人の目を感じるが、気にしない。
白人間はリョウの目をジッと見つめた。
「えっと、その…」
リョウがまたオロオロとていると、白い手がにゅっとこちらに向けられる。
その手は生気を失っており、青い血管が見えるほど肌が透明色だった。
「僕はソウです」
リョウは戸惑いながらも、差し出された手をつかんだ。
「私はリョウ……女です」
大事なことなので、伝えておく。
ソウは首を傾げてにこりと笑い、男です、と宣言する。
「ヨロシク」
何故かヨロシクされたリョウは、ハハッと軽い笑みを返すだけだった。
「ところで、リョウは『月影瞬』って知ってる?」
リョウはその名前に一人の少年が頭に浮かんだ。
黒髪で女と見紛うほど、可愛らしい作りをした外見の少年。
月影瞬、彼はリョウの幼馴染の名前だった。