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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生者殺し

作者: 浅葱零




これは『私』が、『転生者』を殺す物語である。




◇ ◇ ◇




この世界は、有名な国産RPGシリーズである『ロード・オブ・ドラグーン』の舞台であるゲーム世界そのものだ。


『ロード・オブ・ドラグーン』、略して『ロードラ』は、プレイする度に歴史が書き換えられる自由度の高いストーリーに、豊富な職種と育てがいのあるスキルシステムで人気の高いゲームである。


私は死んだ後、『ロードラ』の世界に転生してきたのだ。


転生して来る前に、散々とやり尽くしたタイトルである。

新ハードへの移植版、携帯機への移植版も、それぞれ一度はクリアしている。必ず、新しい要素が盛り込まれるので、やらないわけにはいかないのだ。


そのくらい思い入れのある世界に転生したのだ。

言葉どおり意のままに、私はこの世界を生きることができた。


私は、魔王軍の下級魔族として転生した。


最初は苦労も多かったが、勝手知ったる世界でのことである。努力の先にある結果が見えていたから、モチベーションを失うこともなく、魔族としての人生を成り上がることができた。


今では、一つの大陸の、三つのダンジョンを任される、立派なボスキャラである。


しばらく、私の勢力を脅かすような、レベルの高い冒険者パーティも現れなかったので、じっくりと配下の魔軍を充実させることができた。


すべては磐石に思えていた。


変化が起きたのは、ここ最近のことである。


まずは私のダンジョンの一つが落とされた。

これは考えられないことだ。

この世界の登場人物たちの思考回路(AI)では、決して最終層には辿り着けない構造に建設された難攻不落のダンジョンだったのだ。


一度なら、偶然ということもあるかもしれない。


しかし、もう一つのダンジョンが落とされたことで、私の疑惑は確信へと変わった。



転生者がいる!



このゲームをそれなりにやり込んだ人間が、転生者としてやって来て、私のダンジョンを攻略している。

まずそれ以外に、考えられない。


これを排除しなければ、私がこの世界で手に入れた全てのものが危ういことになる。

幸いなことに、配下の報告から、私のダンジョンを落とした6人パーティを特定することはできた。


試しに、配下のうち選りすぐりの精鋭を送ってみたが、あえなく返り討ちにされた。


私がやるしかない。


私の手で、転生者を殺すのだ。

元は人間だとしても、この世界にはこの世界の(ことわり)がある。

邪魔者を消すことに躊躇(ためら)いは無い。


私は行動を開始した──────。



◇ ◇ ◇



「あんたが依頼人かい?」


武装した若者が、酒場のテーブル席に一人で座っている私に声を掛けた。


「そうだ。私が、依頼人のジョセフだよ。商人をしている」

「よろしく。あんたを護衛しながら、北の塔の魔物に奪われた、あんたの財宝を取り戻すのが依頼だな」

「その通りだ。成功すれば依頼料には色をつけてやろう。頼めるかな」


若者は屈託なく笑う。

爽やかなオーラを身に(まと)っている。


リア充の匂いがする。

苦手なタイプだ。


「どうせ北の塔には挑むところだ。ついでにあんたを護りながら連れていくだけで、たっぷりゴールドが稼げるんだ。遠慮なく、やらせてもらうよ」

「ならば、契約成立だ。塔までよろしく頼む」


私と若者は、かっちりと握手を交わした。

心の奥で舌打ちしながら。


まずは疑われている様子はない。

うまく、パーティに同行するNPC(ノンプレイキャラクター)の立場に、収まることができたようだ。


護衛シナリオは、このゲームにおける自動生成系ランダム・シナリオの中でも稼ぎ効率のいい代表格だ。

ただ戦闘力のない足手まといを死亡しないようにだけ気をつけて連れていくだけの、簡単なシナリオである。


私は、そのシナリオの依頼人に成り済まして、冒険者パーティに潜り込むことに成功したのである。


若者は、勇者アルベルトと名乗った。


オレ主人公じゃん?的な、ツンツンした髪形をして、身長並みの長さの大き過ぎる剣を背負っている。


こいつが転生者だろうか?

勇者ということは、本来のゲームならば、プレイキャラクターとして操作することになるポジションの登場人物である。


可能性は大いにありそうだが、今はまだ決め手に欠く。


しばらくは、大人しく依頼人を装って、パーティメンバーを観察することにしよう。


私は、勇者アルベルトの後ろに並ぶ面々を見回す。

個性的な連中だ。


この中に私の狙いの転生者がいる。

それだけは確かである。



◇ ◇ ◇



アルベルト

勇者

人間

Lv27

HP211

MP78


セリーナ

戦士

人間

Lv28

HP253

MP0


リースン

魔法使い

エルフ

Lv27

HP143

MP288


ナターシャ

僧侶

人間

Lv28

HP177

MP231


カトーサン

サムライ

人間

Lv26

HP201

MP55


シルフィナ

盗賊

ハーフエルフ

Lv28

HP189

MP0



◇ ◇ ◇



絵に描いたような冒険者の6人パーティだ。


男と女が3人ずつ。

合コンかよ。


まだラスボスには勝てないだろうが、しっかり鍛えられた上にバランスも取れたいいパーティだと評価できないこともない。


HPMP満タンで挑まれたら、私も単独では、危ういかもしれない。

だから正体がばれないように、慎重に行動して転生者を特定し、仕留めなくてはいけない。


配下の魔物たちには順次、パーティを襲うように仕込ませてある。

戦闘の中で、転生者とわかる行動が見られるかもしれない。

焦ることはない。


一人一人を見ていけばいいのだ。



◇ ◇ ◇



勇者アルベルトは、基本ポジティブ能天気野郎だ。

あまり深く考えずに行動して、仲間にフォローされるタイプのリーダーといえる。


私の考えている、転生者像からは程遠い。

これが演技なら相当なものだが、一番に有力な候補からは外させてもらった。


とはいっても、完全に否定するにはまだ早い。

他の仲間の方が、怪しいというだけのことだ。



戦士セリーナについては、戦闘を観察するうちに有力候補からは完全に外した。


まず、彼女は自分の思考で行動していない。

戦闘では仲間に言われるがままに、パーティの壁の役割を果たしている。


ある戦闘でのことだ。


戦闘中のダメージの蓄積によって、セリーナのビキニアーマーが砕け散り、形のいいたわわな胸が姿を現した瞬間、私はサービスシーンを目に焼き付けると同時に、彼女が転生者では有り得ないことを確信した。


転生者なら、壊れる前に装備を換えているだろう。

それとも、あれは自作自演のサービスシーンだったとでもいうのか。

何のために?


セリーナが転生者である確率は、他の者に比べてかなり低いと思えた。



サムライのカトーサンも除外していいのではないだろうか。

彼は寡黙で、頼れる戦力ではあるが、パーティのあらゆる行動に関して全く口を出すことをしていない。


私のダンジョンをクリアするには、ある程度、パーティの頭脳として行動に意見している必要があるはずなのだ。



とすれば、(おの)ずと、リースン、シルフィナ、ナターシャの3人が怪しいことになる。


基本、パーティの行動はリースンとシルフィナのエルフ&ハーフエルフコンビで決められている。

これに、要所を軌道修正する役割で、ナターシャが口を挟む。


本命はナターシャだろうか。


私が、自らの手で殺すべき相手は、彼女なのだろうか?



◇ ◇ ◇



「わあっ、熱い! 痛い! 痛い!」


私はパーティを襲撃した魔物からの火炎攻撃を受けて悲鳴をあげた。

勿論、演技である。


北の塔が近づくにつれて、戦闘の頻度は増している。


魔物たちには私を遠慮なく攻撃するように指示してある。

あらぬ疑いを、転生者に抱かせないためだ。


このゲームの護衛シナリオでは、必ずといっていい程、NPCは馬鹿みたいに敵に狙われるように動くのが常だ。

私は、それに倣った行動を心掛けねばならない。


道化を演じるというのは、思ったより骨が折れる。


「い、痛いよー。助けてくでー」


わざと情けなさを出しながら私は哀願して見せる。

実際、火傷をしているので痛いのは痛い。


「ジョセフさん、しっかりして! ハイ・ヒール!」


ナターシャが私に治療魔法を掛けてくれたので、瞬く間に、火傷は完治した。

ハイ・ヒールは靴のことではなく、治療魔法ヒールの上位魔法のことである。


「もう大丈夫ですよ。痛くないですよね?」

「ありがとう、ナターシャさん、助かりました」


ナターシャは、尻餅をついている私の(そば)に両膝をつき、とても接近した位置で微笑む。


綺麗な女性だ。

僧侶にあるまじき、肌色の面積が広めの装備をしているので、近くにこられるとドキドキしてしまう。


女性キャラに慣れていないわけでもない。


魔物の配下の中にも、女性キャラはいる。

半獣人の魔物娘を二匹、猫耳と兎耳をいつも側に置いているのだが、やはり完全な人間の女性は違うものだ。

ついつい前の世界にいた頃を思い出してしまう。


前の世界では、貪るように私は『ロードラ』を遊んだものだ。


ナターシャのような女性キャラが非常に可愛いところも、『ロードラ』の良いところだった。

イラストレーターが素晴らしい人なのだ。

透明感のある絵柄ながら、クールなところはクールに、セクシーなところはセクシーに描き分けができる、まさに神絵師といった感じだ。


しかもそういう絵柄ながらも、髪の色から、顔のパーツなど、自分好みにキャラをカスタマイズできるのも良かった。

キャラ作成だけで、軽く二時間は掛けたものである。

最後に、男女合わせて36名の人気声優から、キャラボイスを選ぶところでは、耳を澄ませて何度も何度もサンプルボイスを再生したもんだった。


私は、ナターシャを見て思った。


随分とこだわったキャラメイクをしているようだ。

かなり私の理想に近いと言えるだろう。


オートで作成された雛型(ひながた)キャラとは、完成度が違う。


これは彼女こそが、転生者であることを示す、決定的な証拠と言えるのではないか。


──いや、違うな。


転生者によって、生成されたただの仲間キャラという可能性の方が高い気がする。

男性好み過ぎるのだ。ナターシャの容姿は。


だとしたら男性陣が怪しい。


最初から、リースンが一番、転生者のイメージには合うと思っていたのだ。勿論、アルベルトとカトーサンの可能性も、完全には捨てず、留保しておいた方がいいだろう。


可能性の話ならまだナターシャにもある。

ナターシャが、転生時に性転換して男性から女性に変わっている転生者なのだとしたら、容姿が男性好みなのも合点がいく。


まだだ。


まだ、様子を見た方がいい。


転生者を特定できる決定的な情報は得られていない。


ただ、はっきりしたのは、ナターシャをキャラメイクした転生者が存在しているという事実で、これは覆せない。

裏付けになった、というところか。


最終的に、転生者を排除できればいいのだ。


パーティの中の、転生者ではない誰かを、当てずっぽうで殺していっても構わないのだが、今のところ、そういう機会にも恵まれない。


せっかく警戒されず潜入できているのだ。


いたずらに転生者を警戒させるのも得策ではない。


まだ今は、様子を見ることにしよう。



◇ ◇ ◇



パーティは北の塔、地上二階に到達した。


一階の攻略で、かなりの消耗があったので、二階に上がったばかりの階段がある間で、彼らはテントを張った。

無理押しをしないのも、優れた冒険者の資質だ。


周辺の部屋に敵がいないか探ると、あとはそれぞれ思い思いの時間を過ごし始めた。


「ねえ、リースン、訊きたいことがあるんだけど」

「どうした、シルフィナ?」


古びたハードカバーの分厚い本に落としていた目線を、リースンは上げてシルフィナを見た。

魔法書を読んで新しい呪文を覚える途中だったようだ。


それを(さえぎ)ってまで、シルフィナが彼に訊きたいこととはなんだろうか。

私は気付かれないよう、無意識を装いながら、耳をそちらに集中させる。


「クロスボウ・スキルなんだけど、『連射』と『命中』のどっちを強化したほうがいいか悩んじゃって」

「それは圧倒的に『連射』に決まっている。考えてみろよ、シルフィナ。お前がクロスボウをまともに撃って外したことがあったか?」

「んー。そういゃあ、無いね」

「だろ。射撃の命中率には、『器用さ』と『素早さ』の基礎ステータスからの補正が加算されるんだ。スキルの助けが無くても、シルフィナならまず外さない。それに比べて、『連射』スキルはターン内の攻撃回数が単純に『+1』される。悪いことは言わない、『連射』を取っとけよ」


まったく、リースンの言うとおりだ。


『ロードラ』には、気を付けないと無意味な強化をしてしまうパターンが幾つかある。それに比べて、真っ先に取っておきたい効果大な必須スキルも存在している。


ゲーマーからは、スキル格差と呼ばれて一時期批判されたものだった。


って、おい、おい、おい、おい。


そういう情報は、本来はゲーム内のキャラ同士で共有されるものではない。

つまり知っている時点で、『ロードラ』をゲームとしてプレイした経験を持っていることになる。


まさか、こんな簡単に特定できてしまうとは思っていなかった。



こいつが転生者だ!



私は、興奮を外に出さないよう、自分を抑えながら、リースンを眺める。


苦労して間抜けな護衛される商人を演じた甲斐があった。

警戒されない、空気のようなNPCになってしまえれば、今のようなボロが、どこかで出てくるとは思っていたのだ。


標的(ターゲット)は定まった。


リースンさえ始末すれば、後の連中だけでこの塔をクリアすることはできないだろう。

放置してしまえばいい。


ナターシャだけは、私のお気に入りとして、お持ち帰りしても愉しいかもしれないな。


リースンが、本を閉じて立ち上がった。


「どっか行くの?」

「実は、爆炎系の攻撃魔法スキルがもう少しで上がりそうなんだ。あと、5、6回くらい、ぶっぱなせばレベルアップすると思う。騒がしいから、そっちの小部屋でちょっとやってくる」

「ふうん、まあ頑張りなよ。それでさっき、そこの部屋を調べたときに、ここがどうのとかブツブツ言ってたんだね」

「フッ、まあ、そういうことだ」


そう言い残すと、リースンはシルフィナを置いてテントから離れていった。


運が向いてくるとはこういうことなのだろうか。


上手く行きすぎて怖いくらいだ。


一人になれば、たかがレベル30にも満たない魔法使い相手に私が敗北するはずもない。

このチャンスを逃す手はないだろう。


私はゆっくりと、動き始める。


誰も私には注意を払わない。

安全圏にある護衛対象など、無視して構わないのがこのゲームだ。


おかげで誰にも邪魔されず行動が起こせそうだ。


私は、リースンの後を追った。



◇ ◇ ◇



私は部屋に入り、そっと扉を閉ざすと奥に忍び足で進む。


リースンは、爆炎系の魔法を訓練すると言っていたが、今はそんな派手な音や震動は無い。

それどころか、彼の姿まで見当たらない。


どこだ?


けして広くはない部屋だ、隠れるにしてもそんな場所はない。


「こっちだ」


背後から冷たい声が掛かり、私は振り向いた。


リースンは、入り口の扉にもたれ掛かっていた。

凍てつくような視線で、私を睨んでいる。


「演技は下手だな」

「───気づいていたのか?」


意外ではあるが、これで私を閉じ込めたとでも言いたいのだろうか。

魔力のそもそもの差を、彼は解っていない。

追い詰められたのは私ではなく彼だ。


「知っていたのさ。お前が造ったダンジョンの、この部屋に、魔法禁止の呪いが掛けられていることもな」

「なんだと」

「自分では、忘れていたんだろ?」


リースンは、哀れなものを見るような視線で私を見る。

確かにそうだ。


ここでは魔法が使えない。


完全に失念していた。

だが、それがなんだというのだ。

魔法が使えなければ条件が悪くなるのはリースンにしても同じことだろうに。


むしろ、リースンがこのダンジョンのことを知っていることの方が問題だ。

ここの設計は私のオリジナルのもので、もとのゲームには無かったはずなのだから。


「なぜ、お前がそれを知っているんだ」


私は震えを抑えきれない声で問う。


「私がどうして知っているかって? そうだな、私は色んなことを知っているよ。ゴトウユウイチ君?」


衝撃的な言葉に、私は悪寒を感じた。

ゴトウユウイチは、私の転生前の名だ。


その名を再び聞く日がくるとは考えもしなかった。

それだけに衝撃は大きい。


リースンは更に、ゴトウユウイチとは、どんな人物だったかを語った。

いじめに会った学生時代。

ブラック企業に勤めていた地獄のような日々。

数年間の、貯金を食い潰しながらのニート生活。

そして、自ら選んだ死を───。


「どうして、それを」


喘ぐように渇いた口から、私はそれだけをやっと発音した。


最早、精神的優位は完全に打ち砕かれていた。

こいつは神か何かなのだろうか。


でなければ、他に何者で───


「私もゴトウユウイチなんだ」

「なん、だと」

「そうでなければ、ゴトウユウイチの人生を知っている説明がつかないだろう。それを信じさせるために、思い出したくもない過去を語らせてもらった」


リースンが、ゴトウユウイチだと。

私自身だというのか。


そんなことが有り得るのだろうか。


私は、リースンを見る。

どこかアナログな感覚で、その眼が、私自身のものであるということが、何故か信じられた。


そうだ、そんなことが有り得るのがこの世界だ。


他ならぬ自分が、それを証明しているじゃないか。


「転生したのか?」

「そうだ。君にとっては、これから転生すると言った方がいい」


やはり、そうなのだ。


リースンとは、私がこの世界でもう一度、再転生した後の姿だったのだ。

どうやらここまでのことは全て仕組まれていたらしい。


「そうか。ここで?」


リースンは、リースンの姿をした私は頷く。

ここが下級魔族として転生した私の最期の場所ということだ。


だが悔いはない。


もう一度、この世界で生きられることが解っているなら、むしろそれを望もう。今度は、人間の側で生きられるのは、楽しみですらある。


ナターシャと冒険ができるのだ。


私が愛した、本来の『ロードラ』を生きてゆける。


この世界に私以外の転生者がいるなら、私はそれを殺して、私なりに、この世界を守るつもりだった。

だが、その転生者は、他ならぬ私自身だったのだ。


そして、もう一人の私もまた、転生者を殺す目的で私に近づいたのだ。

自分自身に、転生させるために。


では、誰が殺されるべきなのか。

そんなのは、決まりきったことだ。


「でも、どうするんだ?」

「魔法は使えないのにか? 心配ないさ、自分がどうやって殺されたかくらい覚えている」


リースンの姿をした私は、懐から巻物を取り出した。


マジック・スクロールか。

道具として使用すると、魔法の効果が得られるアイテムだが、実は魔法が使えない場所で使えたり、魔法が効かない相手でもダメージを与えられたりと例外的な扱いができる。


ただ、使いきりなのと、ゴールドがやけに掛かってしまうのが難点だ。


「高くついただろう?」

「まあな。試しに、他の死にかたでも転生できるか挑戦してもいいんだぞ?」

「冗談だろ」


そんな危険を冒す必要がどこにあるだろうか。


「冗談だと思うぞ。私も、言われたから言ってみただけだ」


なんだそれは。

じゃあ、この先、私はリースンに転生して再び同じ冗談を言うと、そういうことなのか。


それこそ冗談みたいだ。


「いくぞ。覚悟はできてるだろ」


私は、瞑想するように目蓋を閉じる。


私は私に殺されるのだ。

これもまた、自殺みたいなものかもしれないな。


私は不敵な笑いを浮かべる。

死に時に、どんな笑顔を見せたのか、また後で知ることになるだろう。


それが解っていたから、少しも怖くなかった。



やがて、相応の肉体的苦痛を経て、私に死が訪れた───









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