僕と壁の中の彼女
※キチガイです。
僕が彼女に出会ったのは今から丁度一年前、まだ地面に雪が残っていた頃だ。
彼女は右も左もわからない僕に手を差し伸べてくれた。
それから間もなくして彼女と僕は結ばれた。そこはかとなく楽しい毎日であったが、それも長くは続かなかった。
「藤次郎さん、私は人間ではありません」
その告白に僕は平然としていられなかった。この頃の日本ではUMAブームが勃発しており、捕獲したら数十万円の賞金が付けられているUMAも数多く存在していた。
「――えっ」
僕はその時、言葉を失ってしまった。
僕の脳はこれから起こり得ることを想像してしまった。
もしも彼女が人間ではないと、ばれてしまったら彼女は捕獲又は誘拐、拉致されて様々な実験を行われて動物園行か、剥製にされてしまうだろう……そんな事は嫌だ。
僕は決断した。
「逃げよう花奈子さん」
正直、これは良い選択とは言えない。
しかし、今の僕にはこれしか思いつかなかった。いや、思いつけなかった。
しかし、彼女の反応は違った。
「藤次郎さん、それは出来ません」
その言葉に僕の脳は誤作動を起こしそうになってしまった。
「なっ何でなんだい?花奈子さん。僕は花奈子さんとずっと一緒に居たいんだ。たとへそこが森の中だろうとジャングルだろうが、また人類最後の秘境だろうと、僕は花奈子さんを護るよ。決死の覚悟で」
加奈子さんは涙を流しながら笑っていた。
「ふふふ、変わらないね藤次郎さんは。違うんだよ、私はペッタンコっていう種族……生物で壁の中または壁に扮して生活をするんだ。でもね、私達には弱点というか、欠点があってね。一年間しか人間の姿で壁以外のところに行けないんだ。それ以上いようとすると壁に吸い込まれちゃうの。だからここでお別れなの。ほら、時計を見て、もう少しで深夜零時を迎えるわ。そうしたらもう会えないの。だからいま言ったの。今まで黙っててごめんなさい。藤次郎さんといた時間は本当に楽しかったわ。ありがとう。私は居なくなっちゃうけど私の事なんかわすれ――」
と、花奈子さんが言いかけた時、僕は叫んだ。
「嫌だよ。そんな事は言わないでよ。僕はもっと花奈子さんと一緒に居たいよ。もっと一緒にお話ししたりしたいよ」
僕は涙を流し、顔をくしゃくしゃにしながらも叫んだ。
しかし、その時は来てしまった。
ゴーンゴーンという鐘の音と共に彼女は壁に吸い込まれていってしまった。
「藤次郎さん、愛してる」
加奈子さんは僕に対してそう言い残すと壁の中に消えてしまった。
僕は壁をペシペシと叩いた。
「行かないでよ花奈子さん。まだ僕と一緒に居てよ、僕を一人にしないでよ。僕とずっと一緒に居てよ」
僕は数時間泣きながら壁に嘆き続けた。
「……てよ。いっしょ に いて よ」
この思いは叶わなかったが、この壁にはきっと花奈子さんがいる。そう思いながら僕はこの壁を絶やさない。花奈子さんとの思い出も一緒に。
人前で実際にやると引かれます。←やってみた。