第十二話 因縁
ユル爺宅にて朝飯を頂き、準備を整えて外へ出た。
準備と言っても、特にする事はなかったが。
精霊への供え物は、昨日のうちに俺が収納していたからだ。
ユル爺達ならそれくらい話しても良いだろうと判断した為、供え物の運搬を買って出たのだ。
「さて、それでは行くかの。」
ユル爺が髭を撫でながらそう言った。
俺達はユル爺に案内され、里の入り口とは逆に裏の方へと向かっていく。
民家が少なくなっていき、やがて木造の門のようなものが見えた。
その門の前には一人のエルフが仁王立ちしており、まるで俺達の妨害をしようとしているかのようだった。
というか、事実妨害をしようとしているのだろう。
その若いエルフには見覚えがあった。
嫌悪の色を隠そうともせず、こちらを睨み付けてくるある意味意志の強い瞳。
しかし、神眼によるとやはり何かしらの焦燥を抱いている。
この一週間、何度も因縁をつけてきてはサリスに撃退され、それでも諦めない男。
エルの幼馴染み、ノールである。
ユル爺はノールに近寄ると、歩みを止めた。
「ふむ……ノールや、こんな所でどうしたのじゃ?」
「長老様、その者達を霊樹に連れて行くべきではありません。」
「それはまたどうしてじゃ?君がここ最近ネクロ達に意味もわからぬ因縁をつけているのは聞いておるぞ。それと何か関係があるのかの?」
ユル爺が髭を撫でながらそう言うと、ノールは歯を食いしばって悔しそうな顔をした。
「それは………長老様、お言葉ですが、私は何故長老様がそやつらを信用なさっているのか、理解できませぬ。」
「お主はまだ若い。人の本質というものがわかっておらぬのじゃ。」
「私にはわかりません。誇り高きエルフである我々が、何故人間如きに教えを乞い、友宜を結ぼうとなさるのか。」
「儂にもわからぬよ。何故君がそれほどまでにネクロ達を里から追い出そうとするのか。」
暫しの沈黙。
何故ノールがここまで頑なになるのかわからないが、退く気はないようだった。
俺は溜め息をついて前に出た。
「ユル爺、早く霊樹を見に行こう。こいつとの話は後でも良いだろう?」
「そうじゃな、行こうか。ノールや、暫く頭を冷やしておれ。」
そう言って俺達はノールの隣を通り過ぎようとする。
ノールは俯いていたかと思うと、急に顔を上げた。
そしてーーー
「ふ……ふざけるなっ!!ここは絶対に通さないぞ!!」
ーーー叫び声を上げて、剣を抜いて襲いかかってきた。