第八話 エルフ米
「お主達を霊樹へ連れていくのは一週間後じゃ。それまでは自由に過ごしてもらって構わんぞい。」
「一週間後?何でそんなに遅いんだ?」
「貢ぎ物の準備などがあるからじゃよ。精霊様へお目通りを願うというのに手ぶらでは行けないのでの。五日後が田の収穫じゃ。そこで獲れた穀物と森の果物を供えようかと思うての。」
「へぇ、そういうもんなのか。田の穀物…………稲か?」
「良く知っとるの。人間には米を食う習慣はないと思うていたのじゃが?」
「あぁ、少なくとも王国でも公国でも米は見なかったな。俺は………かなり遠い、違う大陸の育ちなんだ。そこでは米が主食だった。」
「ほうほう、そのような国があったのか。儂らも主食は米じゃよ。」
「米か………良いな。」
もう長いこと米を食べていない。
パンも嫌いではないが、やはり日本人は米が好きなのだ。
米…………食べたいな。
と考えていたが、普通にその日の朝食で米が出た。
長老の賓客という事なので、食事もちゃんと出されるようだ。
真っ白で円形の米。
噛むとふんわりと柔らかく、弾力と粘り気がある。
エルフの米は、日本人に馴染みの深いジャポニカ米と同じような米だった。
炊きたてでやや癖のある匂いを嗅ぐと、懐かしさに涙が出そうになった。
これまたエルフ特有の食器だと言う箸を使って、米を口に入れた。
一口二口と噛む度に、米の自然な甘さが味覚と心を震わせる。
耐えたはずの涙が溢れ出し、自らが日本人である事を実感させられた。
異世界に来て、屍霊になって、亜神となった。
それでも自分は日本人なのだ、と心からそう思った。
用意されたおかずには目もくれず、ただひたすらに米だけを味わい続けた朝食であった。
余談だが、セレス達には炊きたての米の匂いが不評であり、あまり食が進んだ様子はなかった。
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午後は指導する予定の狩人達に顔合わせをする事となった。
あちこちからこちらを盗み見る多数の視線を無視し、狩人達の鍛練場となっている広場へ向かう。
広場には三十人程のエルフがいた。
総数の少ないエルフだとしてもこれはあまりにも少なすぎる。
狩人というのが特に選ばれたエルフである事の証明なのか。
ほとんどのエルフは俺達にあまり良い感情を抱いてはいないようだ。
数える程ではあるが、尊敬の混じった目を向けてくる者もいたが、それらは俺とノールの戦闘を見ていたエルフ達だった。
俺達が近付くと、集団からウルが前に出てきた。
「良く来てくれたな。いつまでになるかわからんが、ネクロ達が里を発つまで、宜しく頼むぞ。」
「あぁ、こちらこそ宜しくな。」
「それじゃ早速だがーーー」
「ちょっと待って下さい。」
ウルが何かを言おうとしていたところに、後ろから一人のエルフが割り込んで来た。
………何か既視感のある展開だな。
「何だ?」
「いくらウルさんの言う事でも、やっぱり人間に指導を受けるなんてどうかしてますよ!それも………」
そのエルフは明らかに俺達を見下したような目を向けてきた。
「こんな、得体の知れない奴らなんかに。」
フードを被った男、メイド、女執事、チンピラ。
得体の知れない、という言葉に反論はできなかった。
「この男がノールに勝ったというのも信じられません。あいつは若くとも狩人です。こんな奴に簡単に負けたなんて………馬鹿馬鹿しい。」
エルフは俺を指差してウルに抗議する。
そこまで言われては俺も黙っている訳にはいかない。
が、俺よりも先に我慢の限界を迎えた者がいた。
「おい貴様、言いたい事はそれだけか?ご主人様を侮辱する者は僕がこの手で殺してやる。前に出ろ。」




