第四話 幼女の感謝
いつもより少ないかもです。
え、いつもと変わらない?
それは禁句ですぜ旦那。
「ほぉ、これが地神の結界とやらか。………綺麗だな。」
エルの案内にて暫し進み、やがて半透明な壁が見えた。
どうやら広範囲をドーム状に覆っているようだ。
幻想的な光景に思わず呟くと、前にいたエルがバッとこちらを振り向いた。
「ネ、ネクロさん!あれが見えるんですか!?」
何やら慌てている様子だ。
「あれって………あれか?」
半透明な結界を指さす。
すると、エルが凄い勢いでコクコクと頷いた。
「そりゃ見えるだろ。何を言っているんだ?」
「ふ、普通は見えませんよ!どうしてみえるんですか!?」
「いや………さぁ?」
「何でわからないんですか!!」
そんな事を言われても、わからんものはわからんだろう。
「なぁ、お前達も見えるよな?」
不思議に思ってセレス達に聞いてみた。
すると、セレスとサリスは首を捻り、レイは頭をポリポリと掻いた。
「えっと………申し訳ありませんご主人様、何の事でしょう?」
「ご主人様、僕達には何も特別なものは見えませんが……。」
「自分も見えないっす。でも、結界の存在自体は感じてるっすよ。」
どうやらセレスとサリスは何も見えないらしい。
レイだけは、その並外れた感知能力で結界の存在を感知しているようであるが。
「そうなのか………お前達でも見えないのか。」
「見えないのが普通なんですよ……どうしてネクロさんは見えてるんですか………。」
たぶん、俺が亜神だからではなかろうか。
そんな事を教える訳にもいかないが。
それにしても、最上級魔物であり、亜神の眷属でもある三人にも見る事ができないなんて、流石は地神の結界と言ったところか。
ジーーーーーーーッ
…………………さて、それよりも気になる事があるのだが。
ジーーーーーーーッ
…………………何というか、見られているんだ。
ジーーーーーーーッ
…………………気にしないようにはしようと思っていたんだ。
ジーーーーーーーッ
…………………でも、これはもうちょっと………
「見すぎだろ。何か用なのか?」
歩きながらもこちらを凝視していたニルにそう言うと、一瞬でエルの後ろに隠れてしまった。
「あ、あらこの娘ったら……どうしたんでしょう?」
エルが困惑したように首を傾げる。
「なぁ、えっと……ニル?顔を見せてくれないか?」
膝に手を付き、なるべく優しい声音を意識してニルに話しかける。
後ろでレイが爆笑しているのが聞こえた。
何がおかしいんだてめぇ。
とにかく今は無視しよう。
「頼むよニル、お前と話がしたいんだ。」
再度顔を見せるように頼むと、恐る恐るニルが顔を出した。
その目はやや不安げに、しかししっかりと俺の目を見返していた。
「ニル、さっきも言ったが、俺の名前はネクロだ。宜しくな。」
目を見詰めて暫し待つ。
「……私………ニルシアル…………よろ……しく。」
やがて、辿々しくも返してくれた。
「ありがとうニル。それで、俺に何か言いたい事でもあるんじゃないのか?」
「う………えっと………その…………」
「急がなくて良いぞ。ゆっくりで良いから、言ってみろ。」
「う、うん…………その…………た、助けてくれて………ありがと。」
ニルは、消えそうな声でそう言った。
もしかしたら、ずっと感謝を述べたかったのかもしれない。
だが、あっという間に話が進み、口下手であろうこの幼女は礼も言えずに悩んでいたのだろう。
「………あぁ、どういたしまして。ちゃんと礼が言えるなんて、偉いな。」
そう言ってサラサラとした髪を撫でた。
「あっ…………にひひ………」
頭を撫でられて呆然としたニルは、悪戯っぽく笑った。
それを見てエルが驚愕の声を上げる。
「ニルがこんなに早く懐くなんて…………ネクロさん、一体何者………?」
何者でもねぇよ、少なくともこの件に関しては。
「子どもの相手は慣れてるからな。」
「妹さんでもいらっしゃるんです?」
「いや、俺は孤児なんだ。孤児院には、年下もいっぱいいたからな。」
「あっ………す、すみませんでした。不躾に………」
「いや、気にしなくて良いさ。………さて、それじゃ行こうぜ。結界を越えれば、もうすぐなんだろ?」
「あ、は、はい!結界を越えれば一時間もかかりません!」
「なら行こう。早くエルフの里を見てみたい。」