第二十話 情報整理
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俺はいま、数週間前にフィヨルドから貰った家で本を読みながら寛いでいた。
現代における広めの一軒家くらいの規模である。
俺達が指定傭兵団【屍霊祭】を結成して、一ヶ月が経過した。
この一ヶ月、俺達は公国内に蔓延る盗賊達を殲滅し続けた。
お陰で大きな盗賊団のほとんどは壊滅した。
そのせいで俺達の事を『盗賊狩り』と呼ぶ者まで出てきている。
【暴食の虎】の一件で名が広まった俺達は、連日の盗賊団討伐によって更に目立つようになっていた。
既に【屍霊祭】の名前は公国内はもちろん、他国にすら広まっている。
曰く、地形を変えてしまうほどの凶悪な魔術を放つメイドがいる。
曰く、見る者の心を凍てつかせるほどの鋭い剣筋にて剣を振るう女執事がいる。
曰く、下っ端な雰囲気を纏う傾奇者がいる。
曰く、黄金の鬣を持つ八本脚の馬がいる。
曰く、フードを被った化け物が団長である。
曰く、彼らに敵対する者は如何なる身分にあろうと無事では済まない。
そんな噂が流れているらしい。
早くも吟遊詩人達が俺達の物語を想像、創作して各地で語っているようだ。
…………何か、俺とレイだけおかしくないか?
俺は化け物とか言われてるし、レイに至っては下っ端扱いだ。
恐らく、前者は噂を聞いて勝負を挑んできた腕自慢を俺が片っ端から叩き伏せてきたからだろう。
地方ではそれなりに名の売れているであろう者達を全員一発でKOしていれば、確かに化け物と言われてもおかしくはないのかもしれない。
レイに関しては、人前で戦う事がないのが原因であると思われる。
レイの得意分野は人の目に触れない………触れてはいけないものだから、当然の帰結ではあった。
………閑話休題。
この一ヶ月、盗賊団討伐以外に、大陸内の様々な情報を収集、整理していた。
主にレイが。
レイの分身が、遂に大陸内の全ての国に到着したのだ。
そのお陰で様々な情報を得る事ができた。
まず、現在俺達がいる西のミュートラル公国。
商人が多く、四ヵ国内で最も経済的に栄えている。
公国領土の北西には広大な森林が広がっており、その中にはエルフと呼ばれる亜人が集落を形成している。
公国は亜人に対して友好を図ろうとしているが、エルフは他種族を見下す者が多く、なかなか友宜は結ばれないようだ。
次に、北のアルモンテ帝国。
武力第一の軍事国家で、貴族はおらず、国のトップである皇帝が独裁権力を持っており、その下に騎士団がいる。
帝国領土の南西には巨大な山脈が連なっており、そこにはドワーフと呼ばれる亜人が集落を形成している。
帝国は亜人をやや見下す傾向にあるが、ドワーフは鍛冶を得意としている為、軍事国家である帝国もドワーフに対しては友好的である事が多い。
公国の森林と帝国の山脈は隣り合っており、その境が国境となっている。
帝国の首都である帝都には、大きな闘技場があり、そこでは連日熱い戦いが繰り広げられているという。
年に一回、その闘技場で大規模なトーナメントが行われるらしく、今年の開催は三ヶ月後となっている。
次に、南のホライズ教国。
この国は帝国と同様に貴族が存在しない。
国そのものが教会のようになっており、上から教皇、枢機卿、主教、司教、司祭という風に位が決まっている。
これらの人間が他国における貴族の役割を果たしているのだ。
それらとは別に『聖女』と呼ばれる役職もあるらしく、地位的には枢機卿以上教皇以下といった感じらしい。
最後は、俺達異世界人が召喚されたクリストル王国。
今更王国について語る事は特にないだろう。
王国に送った分身には、主に異世界人の事を探らせた。
分身からの情報によると、秋人達は現在、王都での修行を終えて幾人ずつの組を作り、それぞれ各地で魔物討伐をしているらしい。
各地とは言ってもほとんどの組は王国内で活動しており、国外に出ているのは数える程だとか。
秋人、春香、真冬、浅黄の四人が組んでいるようだ。
その三人の中に浅黄が入っている事に多少驚いたが、バランスとしては最高だと思えた。
秋人達の組は王都を中心に活動しているらしく、会う為にはそちらへ行かなければならない。
………その内、行かないとな。
赤瀬はお馴染みの組で活動している。
秋人達と同じく、王都を拠点にしているようだ。
………その内、行かないとな。
……………とまぁこんな感じに各地の情報を仕入れていた訳だが、それ以外にも俺達は各自で行動する時間なども作っていた。
俺は公国内にある迷宮へ行ったりしてみた。
とは言っても、数える程しかない上にどれも大した難度ではなかった為、攻略するのに然程時間はかからなかった。
それでも他人から見ると異常な速度だったようで、俺が化け物と呼ばれる要因の一つとなるのであった。
セレスは料理の勉強をしているようで、連日あれこれと材料を買ってきては色々な料理を作っている。
腕前は順調に上がっており、現在では十分に旨いと言えるものになっている。
サリスはフィヨルドに頼まれて一度騎士団に顔を出して以来、ほぼ毎日通って騎士達を鍛えている。
最初はサリスを舐めていた騎士達も、初日で全員纏めて半殺しにされてからは尊敬と恐怖の眼差しを向けるようになった。
今では騎士達の中でサリスは鬼軍曹と呼ばれているのだとか。
レイは各地の情報収集に励む傍ら、博打にハマっているようだった。
今ではスラムの裏賭博場にまで足を運んだりしている。
元金は自分で稼いでいるようだから特に止めたりはしていないが、程々にしろよとは軽く言っている。
そんなこんなで早一ヶ月。
そろそろ移動しても良い頃合いかもしれない。
その夜、セレス達に出立の意を伝え、了承を得た。
数日後、フィヨルドやヨハネスに挨拶をし、旅の準備を整えた俺達は多くの注目を集めながら、公都を旅立った。
「何だか旅に出るのも久々な気がするな。公都に滞在してたのもたった一ヶ月程度なのに。」
「そうですね。なかなか住みやすい街でしたから。」
「またいつか、来たいものですね。」
「俺達ならいつでも来れるっすよ。グラニもいるっすから。」
「ブルルッ!」
「そうだな……またいつか、必ず来よう。」
………それでは行きますか。
ーーーいざ、大森林エルフの里へ。
花粉症と風邪と二日酔いを併発して寝込んでおりますです。
勝手ながら、明日から三日間ほど更新を休ませていただきます。
誠に申し訳ありません。