第十九話 屍霊祭
「おっ、そろそろみたいっすよ!」
長き話し合いの果てにようやく傭兵団の名前が決まったという時、グラニの身体を纏っていた光が薄れていくのにレイが気付いた。
俺達はグラニを囲うように近寄り、その様子を眺める。
光の粒子が宙に消えていき、やがてグラニがその姿を現した。
一回り大きくなった身体は、褐色から青色がかった灰色……というような色へと変化していた。
その不思議な色合いが、より一層輝きを増した黄金の鬣を上手く映えさせている。
群青色の瞳には深い知性が宿っている。
そして最も目を引くのはその脚。
なんと脚が八本になっているのだ。
グラニが顔を擦りつけてきたので、撫で回しながら神眼を発動してステータスを確認する。
【ステータス】
『名前』
グラニ
『種族』
スレイプニル
『スキル』
騎獣の王Lvー
疾空Lvー
衝波Lvー
『称号』
神獣
最上級魔物
名持ち魔物
ネクロの眷属
騎獣の王
晴れて五体目の最上級魔物、という訳か。
スキル『騎獣の王』は、自らが主と認めた者が騎乗している時に全能力を上げるものらしい。
これは、騎乗している者とされている者、両者に補正がかかるのだとか。
随分と便利なスキルだ。
俺を乗せて軽く走ってもらうと、その速度は進化前とは一線を画すものだった。
平地での直線移動なら、もう俺でさえグラニには勝てない………少なくとも通常時ならば。
流石に魔纏を使えば俺が勝つが、そうでもしなければ追い付けないという時点で、グラニの異常さが良くわかる。
更に、スキル『疾空』を使えば、空を走る事ができるようになる。
グラニ、単純な移動なら怖いものなしだな。
スキル『衝波』は、魔力を込めた衝撃波を放つ事ができるものだ。
威力はそこまで強くはないだろうが、それでも最上級魔物であるスレイプニルの魔力によって作られる衝撃波だ。
中級魔物くらいまでならこれだけで十分倒せるだろうな。
その上、持ち前の超高速から繰り出される突進があり、グラニも十分戦力となれる可能性がある。
既にわかっている通り知能も非常に高く、馬車を引かせる際にも口頭で説明すれば十分なので、手綱を引く必要もない。
また、嬉しい誤算ではあるのだが、神獣の主はどんなに遠く離れた場所からでも神獣を召喚する事ができるらしいのだ。
つまり、俺が呼べばグラニはどこにだって瞬時に現れるという事。
眷属が頼もしくて何よりだ。
うんうんと一人で頷いていると、セレスが話しかけてきた。
「ご主人様、そろそろ公都へ戻りませんか?」
「あぁ、そうだったな。つい考え込んでしまった。…………よし、それじゃ戻るとしようか。………あ、そうだ。折角だし、グラニに馬車を引いてもらって戻ろう。」
「賛成です!」
「異論はありません。」
「良いっすね!楽しそうっす!!」
「ブルルッ!!」
グラニは任せろ!とでも言うように短く鳴いた。
収納していた馬車を出し、紐でグラニと繋げる。
馬車の中から高速で流れる景色を眺めつつ、初の馬車を楽しむ。
………実際には初めてではない。
赤瀬とモードレッドに半殺しにされた後、【悪霊の墓】へ運ばれる時に乗った………乗せられたからだ。
だが、当然あんなのは回数には入れない。
だから馬車に乗るのは今日が初めてだ。
誰が何と言おうと初めてだ。
その初めての馬車移動の感想だが……………速い、速すぎる……それしか言えん。
…………これは馬車の感想ではなくグラニの速度に対する感想か。
馬車そのものに対する感想?
………………まぁ、普通……かな。
現代の車や電車での移動に慣れている俺としては、お世辞にも乗り心地が良いとは言えない。
それでも、大公であるフィヨルドが持っていた馬車であるのだから、他の一般的なものに比べれば遥かに良いのだろうが。
贅沢を言っても仕方ない、早く慣れるとしよう。
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………流石グラニ、である。
公都に着くのに五分もかからなかった。
進化前より遥かに速くなっている。
俺達でさえ、あの距離を五分で走り抜ける事はできないだろう。
感心しながら門をくぐる。
そこで問題が起きた。
問題というか何というか………。
目立つのだ。
当たり前だ。
出る時でさえグラニはかなり目立っていた。
黄金に輝く鬣を見て驚かない者はいない。
その美しさに見とれる者が後を絶たなかった。
それが、進化した事によって更に美しく、輝かしくなっているのだ。
目立つ、という言葉では足りない程に、俺達は注目の的であった。
だからと言って肩身を狭くする程柔な精神はしていないのだが。
俺達は堂々と街中を進み、ギルドへと向かった。
グラニをギルド横の厩舎へ置いて中に入る。
受付嬢に話を通して、ヨハネスの下へと向かう。
ヨハネスの書斎へ入ると、彼はバッと立ち上がって声を上げた。
「君達!今まで一体どこにいたんだ!?」
「どこって………外だよ。公都の外。それがどうかしたのか?」
「どうかしたのかって…………指定傭兵団として認められるというのに、数日間も現れなかったから捜していたんだよ。」
「あぁ………それは悪かったな。ちょっとした所用があって。」
「まぁ、君達の行動を縛る権限もないし、それは君達の自由なんだけど…………とにかく、現れてくれて良かった。早速手続きをしよう。」
「わかった、頼むぜ。」
指定傭兵団認定の手続きは一時間もしない内に終わった。
手続きとは言っても、幾つかの書類を書いたり、ヨハネスの様々な質問に答えるだけだった。
「…………さて、これで手続きは終了だよ。お疲れ様。…………ん?」
ヨハネスが書類を確認しながら首を捻った。
「ここの………傭兵団の名前なんだけど、随分珍しい……というか、奇妙な名前にしたね。聞いた事もないものだよ。何か意味はあるのかい?」
「…………別に、大した意味はないさ。ただ、俺達の目的と存在を表すのに、うってつけだっただけさ。」
ーーー第一目標は世界放浪を楽しむ事。
ーーー俺達は絶望と死を越えた誇り高き屍霊。
ーーーやがて歴史に名を残す伝説の傭兵団。
ーーーその名も……………
ーーー【屍霊祭】