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死霊の異世界カーニヴァル  作者: 豚骨ラーメン太郎
第六章  ミュートラル公国
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第十七話 復讐心

グルファクシを連れた俺達は公都の外へ出て、三十キロ程離れた場所へやってきていた。


試しにグルファクシに乗って移動してみると、俺達よりは劣るが確かに速い。


三十キロ進むのにかかった時間は二十分程だ。


時速九十キロ、現代のサラブレッドよりも圧倒的に速い。


フィヨルドが推すのも納得だ。


俺とセレスがグルファクシに跨がり、サリスとレイが走りで移動した。


「ご主人様、このような所で何をなさるおつもりですか?」


グルファクシから降りたセレスが首を傾げる。


「グルファクシの乗り心地を確かめる………というだけではないのですよね?」


サリスもセレス同様、首を傾げている。


「あぁ、実はな………グルファクシに名前を付けようと思うんだ。」


「まぁ、名付けをなさるのですか?」


「こいつが俺を主と認めてくれるのならな。」


そう言ってグルファクシの瞳を見詰める。


その時、念話が届いた。


『ちょっと待ちなさい、ネクロ君。』


微妙に懐かしいな………。


「スィーリアか、突然どうしたんだ?」


『ネクロ君が名付けをしようとしていたから止めたのよ。』


「どうして止めるんだ?何かあるのか?」


『ネクロ君、もうちょっと慎重に考えた方が良いわよ。ネクロ君が魔物に対して名付けできるのは、あと一回……良くて二回しかないのよ。』


「…………は?おいおい、そんな話聞いてないぞ。」


『だって、こんなに早くポンポン名付けする魔物なんて普通いないもの。』


「いや、それは確かにそうかもしれないけど………そもそも、何でそんな事になってるんだ?名付けに回数制限なんてあるのか?」


『名付けというのは、力ある存在が自らの力の源を割譲する事で成立するのよ。それは、自らの魂を分ける事にも等しいの。貴方は既に三回、魂を分け与えたのよ。本来なら一度名付けするのだって危険なのよ?』


「どうしてそんな大事な事を言わなかったんだ?」


『既に三人の眷属を持っておいて、更に従者を作ろうとするなんて思わなかったのよ。そもそも、従者ってのは一つの存在につき三つまでしか作れないの。三つ作るのだって、普通は神でもないとできないし、しようともしないのよ。』


「従者が三つまでしか作れないって………それなら俺はこいつに名付けする事ができないんじゃないのか?こいつを従者にする事はできないんだろ?」


『従者にはできないわ。けれど、眷属にはできる。貴方がその子に名付けをすると、眷属化させてしまうの。』


……………意味がわからん。


「ちょっと待て。従者にはできないが眷属にはできる?意味がわからんぞ。」


『貴方がその子と契約を交わし、名付けする事でその子は神獣になるのよ。』


「神獣って……あのフェンリルと同じか?」


『そうよ、フェンリルは聖神の神獣。本来ならもう眷属も従者も増やせないはずだった貴方は、亜神となった事で神獣を作る事ができるようになった。けれど、それだって自らの魂を分かつ行為よ。』


「だからあと一、二回しかできないのか。」


『亜神である貴方にはそれが限界ね。だから今は止めておきなさい。良く考え直しなさい。』


「…………ありがとうスィーリア。でも、それは俺とこいつが決める事だ。」


そう言って、スィーリアとの念話を無理矢理切って、俺は再びグルファクシの瞳を見詰める。


「なぁグルファクシ、俺と契約を結ばないか?俺の……眷属になってほしいんだ。」


グルファクシはサラサラとした黄金の鬣を風に靡かせ、円らな瞳で目を合わせてくる。


その瞳に、俺の言葉に対する嫌悪感や忌避感は見えない。


しかし、どこか躊躇っているような気がした。


俺は、その理由が知りたかった。


「グルファクシ、お前は何故傷付いていたんだ?」


神眼によって、グルファクシが動揺しているのがわかった。


「………旦那、どういう事っすか?」


俺の質問の意図を掴めなかったレイが、そう問いかけてきた。


「不思議に思わなかったか?その希少性と敏捷性だけで上級魔物になるようなこいつが、傷付いて倒れていたんだぞ?こいつの走る速度はさっき見ただろう。大抵の魔物ならば、追い縋る事もできやしない。」


「た、確かに………」


「考えうるのは、そのグルファクシに勝る敏捷性を持ち、そして傷付ける事のできる力を持った上級、あるいは最上級の魔物か。」


グルファクシは何の反応も見せない。


「あるいは………狡猾な人間か。」


グルファクシの眼が僅かに泳いだ。


平静を保っているつもりだろうが、俺の神眼は見逃さなかった。


「正解……か。お前を傷付けたのは、人間なんだな?」


「ちょ、ちょっと待って下さいっす旦那!さっきと言ってる事違くないっすか?大抵の魔物が追い縋る事すらできないなら、人間がどうやって傷付けるって言うんすか!?」


「レイの言う通り、人間は単純な身体能力ならば魔物とは比べるべくもなく低い。だが、人間には智恵があり、繋がりもある。レイ、人間の狡猾さについては、お前が良くわかっているはずだ。」


「えっと………つまり、旦那は複数の人間が協力して策を張り巡らせて、グルファクシを傷付けたと考えてるんすか?」


「あぁそうだ。」


「で、でもご主人様、レイさんの話だとグルファクシはかなり希少な魔物なんですよね?それを見つけて、尚且つ捕まえるなんて余程多くの人間が手を組まないと不可能ではないでしょうか?」


セレスも困惑しているようにそう言う。


「その通りだよセレス、今回の件は何か大きな組織が動いているのだと俺は思っている。」


「ご主人様、仮にその大きな組織がグルファクシを傷付けたのだとして、目的は何だったのでしょう?というか、そもそもご主人様は何故そう思ったのですか?」


そう言ったのはサリスだった。


「サリス、俺も最初はこう思っていたよ。グルファクシは強大な魔物との戦いで傷付いたんじゃないかって。でも、それだとおかしな点がある。」


「おかしな点……ですか?」


「あぁそうだ。もし魔物に傷付けられたのなら、何故グルファクシが生きているんだ?」


ここで、三人がはっと目を見開いた。


「そう、魔物ってのは基本的に本能に生きるものだ。敏捷性に優れたグルファクシを態々追いかけて捕まえておいて、殺して食わずに傷付けるだけなんて、魔物の思考じゃない。」


「なるほど、それで傷付けたのは魔物ではないと…………しかし、人間であれば傷付けた後に放置しますか?グルファクシのような希少な魔物を捕まえておいて、その場に放置した理由は何でしょうか?」


「捕まえる事が目的ではなかったとしたら………放置したのは、既に目的を達していたからだと俺は思う。」


「その目的とは何なのですか?」


「鬣だ。」


「鬣?」


三人が一斉に首を捻った。


グルファクシの動揺は大きくなっている。


「背に乗った俺だからこそわかった。こいつの鬣は、一部が不自然に毟られていた。セレスは俺の後ろに乗っていたから、見えなかっただろう。」


「は、はい、確かに見えませんでした。」


「………その組織というのは、何故グルファクシの鬣を取ったのですか?」


「さぁな、そこはまだわからんが………俺の推理は間違ってはいないみたいだな。」


グルファクシは観念したように俯く。


「そうか、グルファクシは旦那の事を認めつつも、人間に完璧に屈する事を躊躇っているんすね?」


レイがぽんっと手を打った。


「まぁ、そういう事みたいだな。……… だがグルファクシ。お前の懸念は無意味だ。」


そう言うと、グルファクシは顔を上げて首を傾げた。


「セレス、レイ、ちょっとお前ら戻れよ。」


二人が……特にセレスが嫌そうな顔をした。


グルファクシは俺の言葉の意味がわからず困惑している。


「ご、ご主人様………」


「旦那、まじっすか………」


「良いから、ほら早く!」


二人は顔を見合わせるが、やがて堪忍したように溜め息をついた。


次の瞬間、二人の姿が豹変した。


レイはチャラチャラしたチンピラから、不透明な身体の忍者っぽい男へ。


セレスはブロンドサイドアップポニーの美少女メイドから、眼窩に血のように赤い炎が浮かぶ濃紺の骸骨へ。


突然の豹変にグルファクシは驚愕している。


「わかったかグルファクシ?俺達は人間じゃない。元は人間ではあるがな。今では立派な魔物だ。」


俺に関しては魔物と言って良いのかわからんが。


「グルファクシ、人間が許せないか?」


グルファクシはゆっくりとこちらを向く。


その眼には、復讐に焦がれる炎が見えた。


「グルファクシ、お前の復讐に手を貸してやる。だから、俺と一緒に旅をしよう。俺の、眷属になってくれ。」


復讐心ならば俺にもある。


赤瀬夏樹、モードレッド宰相、宰相が依頼した暗部の男達。


あいつらを許すつもりはない。


世界を旅するのが最大の目的だが、だからと言って奴らを野放しにはしない。


いつか必ず、あいつらの行為を後悔させてやる。


…………話が反れたが、そんな俺がグルファクシの復讐心を否定する事などできはしない。


むしろ気に入った。


執拗に追い回され、傷付けられ、自慢の鬣を毟られながらも泣き寝入りせずに復讐を誓うなんて素晴らしいじゃないか。


という訳で、何としても眷属にしたい。


「グルファクシ、俺達には力がある。必ずやお前に復讐を遂げさせてやる。だから………俺に着いてこい。」


数秒の後、グルファクシは俺の眼をじっと見て、ゆっくりと頷いた。

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