第十六話 謝礼と褒賞
闇の拘束を解いてグルファクシを立ち上がらせる。
顔を優しく撫でると、甘えるように顔を俺の手に擦り寄せてきた。
先程までの威嚇が嘘のようだ。
目を細めて気持ち良さそうにしている様は、美しくもあり可愛らしくもあった。
一頻りグルファクシを撫でて、満足したところで後ろを振り向く。
微笑んでいるフィヨルドへ口を開いた。
「フィヨルド、こいつを貰うぞ。」
「勿論だとも。それにしても本当に服従させるとは……流石だねネクロ。」
「お世話は私に任せて下さい!」
「お疲れ様です、ご主人様。」
「流石は旦那っす!まじぱねぇっす!!」
セレスはグルファクシを世話するのが待ち遠しいようだ。
サリスは優雅に一礼して労ってくれる。
レイは………お前どこでそんな言葉覚えてきたんだ……。
………まぁ良いや。
「フィヨルド、催促するようで悪いが、魔道具の馬車とやらも見せて貰って良いか?」
「構わないよ、着いてきたまえ。」
再びフィヨルドに案内されて移動する。
グルファクシはヨハネスに連れられて外で待機する事となった。
ヨハネスを威嚇していたグルファクシだが、俺が一言怒ると大人しくなった。
ヨハネスとグルファクシと別れて移動する。
案内された部屋は、会談をしていた応接室だった。
「ここにあるのか?」
「宰相補佐に先に取りに行かせていたのさ。」
そう言えばグルファクシに会いに行った時から宰相補佐を見ていない。
フィヨルドは俺がグルファクシを服従させる事も見越して、先に馬車を取りに行かせていたのか。
「さぁ、入ってくれ。」
フィヨルドに促されて室内へ入る。
中に入った俺の目に映ったのは、小ぢんまりとした馬車だった。
小ぢんまりとは言っても、貴族の持ち物にしてはというだけで、そこらの旅人のものよりは大きい。
木造ではない………見た事のない金属のようなもので造られており、よく見れば上品な装飾が目立たないようにされてある。
見る人が見れば、ただの馬車ではないとわかりそうだ。
幌を触ってみると、思いの外触り心地が良く、しかし頑丈な素材でできているようである。
中に入ると、外見より三回り程大きい空間が広がっている。
具体的には八畳間くらいだろうか。
十分に寛げそうである。
外へ顔を出して、フィヨルドへ話しかける。
「フィヨルド、本当にこんな立派なものを貰っても良いのか?」
「構わないよ。私はもう一つ持っているし、あのグルファクシに引かせるならこれくらいのものでなければ格好がつかないだろうしね。」
「これをもう一つ持っているのか………流石は大公だな。」
忘れそうになるが、フィヨルドは大陸に四つしかない国の一つである公国の王なんだよな。
金も物も持ち合わせているのは当然か。
「満足して貰えるかな?」
「当たり前だ。グルファクシにしろこの馬車にしろ、思わぬ拾い物だった。感謝するぞ。」
「君と友好を育めるのならこれくらい何でもないさ。やがて君の名は大陸中に広まるだろう。あらゆる人間が君と接触を図ろうとするだろう。私は、それに一歩先んじたという訳だ。」
「買い被りだろ。大陸中に名が広まるって………どこの英雄だよ。」
「買い被りなどではないさ。事実だよ。」
何とも言えずに肩を竦める。
後ろでセレスとサリスがうんうんと頷いているが無視した。
「それじゃ、俺達はそろそろ行くよ。」
「そうかね、またいつでも来たまえ。歓迎するよ。」
「あぁ、ありがとな。」
「褒賞金はこれだ。受け取ってくれ。」
宰相補佐が持ってきた袋にフィヨルドが手を向けた。
「…………部屋に入った時からまさかと思っていたが、それが褒賞金か………。」
そこにあったのは、サンタクロースが担いでそうな大きな袋が五つ。
おそらく、あの袋一つで内方区に立派な家が二つ程立つだろう。
ちょっとした掃除で大金を手に入れた気分だ。
「こんな大金………大丈夫なのか?」
「私はこれでも大公だよ。この程度なら問題ないさ。君達が【暴食の虎】を壊滅させてくれたおかげで、帝国も手を引いたようだ。君達は救国の英雄だよ。」
「まぁ、そう言ってくれるなら貰うけどさ。」
「それで良い。さぁ、行こうか。グルファクシが待ちくたびれて暴れてしまう前に。」
フィヨルドに促されて、金と馬車を収納した俺は外へ出た。
門の前にはグルファクシが地面を軽く叩きながら俯いており、足音を聞いてこちらを見ると、一目散に駆け寄ってきた。
常人であれば吹き飛ばされそうなその突進を受け止めると、擦り寄せてくる顔を撫で回した。
横でセレスが羨ましそうな顔をしている。
後でセレスにも撫でさせてやろう。
グルファクシを撫でていると、フィヨルドが話しかけてきた。
「ネクロ、家に関しては君の要望が叶うように探させておくよ。なるべく早く見つけて、ヨハネスを通して連絡しよう。たまにギルドへ顔を出しておいてくれるか?」
「わかった、ありがとな。………それじゃ、俺達は行くよ。」
「あぁ、それではまた会おう、英雄よ。」
「英雄はやめろっての。」
そう言いながらフィヨルドと握手を交わし、手を振って別れた。
「ご主人様、もう昼過ぎになりますが、どちらへ行かれますか?」
セレスが問いかけてくる。
「とりあえず外へ行こう。やってみたい事があるんだ。」
「畏まりました。」
三人と一匹の承諾を得て、俺達は公都の外を目指して歩き出した。