第三話 鑑定宝珠
唐突なギャグとシリアス
朝、目覚めた僕の目に映ったのは、微笑みながら凝視するという凄技をしている、美しいメイドさんであった。
目と鼻の先にミレイの顔があった。
「え?………………うわっ!!」
「おはようございます、ネクロ様。そのように驚かれるとは、心外でございます。」
「え、あ、あぁ。おはよう………じゃなくて!!何で?どうして?」
「それはどうして私がメイドをしているのか、というお話でしょうか?それではお聞かせしましょう。あれは酷い豪雨の日でした………」
「いや、誰もそんなの聞いてないから。どうしてここにいるのって事だよ。」
「それはどうして私が王城に勤めているのか、というお話でしょうか?それではお聞かせしましょう。あれは酷い豪雨の日でした………」
「変わってない!話変わってないよ!!っていうか何なの!?そんなキャラだったっけ?」
「その言葉、そっくりそのままネクロ様にお返し致します。ちなみに私は元々こんなんです。」
「こんなんって…………いや、気にしたら負けな気がする。それで何かあったの?」
「姫殿下が皆様をお呼びです。朝食を食べ終えましたら、ご案内致します。」
「そっか……わかったよ。」
「おわかり頂けて幸いです。それではお聞かせしましょう。あれは酷い豪雨の日でした………」
「もうそれは良いから!!」
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妙に疲れる朝食の後、僕達は王女様の前へとやってきた。
一日置いて少しは落ち着いたようで、昨日のように取り乱している人はいない。
「お集まり頂きありがとうございます。これから皆様には、国王陛下に謁見して頂きます。」
ざわざわと騒がしくなる。
秋人が代表して言った。
「えっと………王女様。俺達は礼儀とかそういうの、あんまできないと思うんですけど……。」
「お気になさらずとも大丈夫ですよ。陛下は寛大なお方ですし、こちらは皆様に頼み事をする立場なのですから。」
「そうですか……それは良かった。」
「それでは、私に着いてきて下さい。」
そう言って踵を返して歩き始めた王女に、僕達はついていった。
やがて大きな扉が見えた。
豪華な装飾がされており、その先が特別な空間である事が一目でわかる。
扉の両隣には近衛騎士が佇んでおり、王女がその前で止まると、ゆっくりと扉を開いた。
僕達はその光景に固唾を飲んだ。
扉の向こうの広大な空間には、赤い絨毯が敷かれていた。
左右には仕立ての良さそうな服を着た男性達がずらりと並んでいる。
正面には近衛騎士で一定の間隔で並んでおり、その先には大きな椅子に座り、こちらを静かに見つめている男性がいる。
頭には冠を載せ、床に届きそうなマントを羽織っている。
この人が王様で間違いないであろう。
がっちりとした身体、精悍な顔付きに髭をたくわえた威厳のあるナイスシニアだ。
王女が前に進み始めると、僕達は慌ててそれに追従した。
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僕達が王様の前で止まると、王様はこちらを見て優しく微笑んだ。
「始めまして、若人達よ。まずは、この場に来てくれた事に感謝を。そして、君達の日常を奪ってしまった事に、心から謝罪しよう。」
王様は悔恨の表情を浮かべる。
その表情は嘘をついているようには見えなかった。
おそらくその表情もわざと表に出しているのだろう。
国王ともあろう者が、そう簡単に感情を出す訳がないのだから。
しかし、隠していない、というだけで王様が僕達に対して申し訳なく思っているのは、嘘ではないように感じる。
それすらも計算であるのならばお手上げだ。
僕はそこまで人の心に鋭くないから。
とにかく、少なくとも王様が悪人ではないという事に、僕は心から安堵した。
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それから僕達は王様と色々な事を話した。
まず、今後の僕達の扱い。
昨日王女様が言ったように、王城にて学習と鍛練をする事に。
休息も十分に取らせてくれるとのこと。
とりあえず一ヶ月程過ごしてみて、戦いに身を置くかどうかを決める。
戦わないと決めた者についても、生活の保証はする。
今後の為にも、まずは素質を見る。
どうやって素質を見るのかと言うと、何とこの世界にはステータスが存在するのだとか。
とは言っても、ステータスと唱えても目の前にウィンドウが出てきたりはしない。
鑑定宝珠という道具を使う事で見られる。
それなりに貴重な道具で、誰でも持てる訳ではないらしい。
一人ずつステータスを見ていった。
【ステータス】
『名前』
アキト・アオシマ
『天職』
剣聖
『スキル』
剣術Lv1
見切りLv1
無属性魔術
『称号』
剣の申し子
【ステータス】
『名前』
ハルカ・シロミネ
『天職』
従魔術師
『スキル』
従魔術Lv1
従魔強化Lv1
光属性魔術Lv1
『称号』
天真爛漫
【ステータス】
『名前』
マフユ・ミドリカワ
『天職』
賢者
『スキル』
水属性魔術Lv1
風属性魔術Lv1
土属性魔術Lv1
『称号』
魔の申し子
この幼馴染みーズのステータスを見る度に、周りの人達が盛り上がってた。
天職というのが、その人の素質を表すものらしい。
とは言うものの、天職が剣士の商人もいれば、天職が商人の学者もいるのだとか。
幼馴染みーズの天職が素晴らしいと評判
剣聖と賢者は見るからに凄い。
従魔術師は魔物と契約して戦わせる事ができるらしい。
それなりに珍しい天職だが、本来従魔術師は自身が戦うのには向いていない。
だが、春香は光属性魔術を持っており、これが非常に珍しい上に有能だろうだ。
この三人には一歩劣るが、才能を持った奴らもいる。
【ステータス】
『名前』
ユイ・アサギ
『天職』
忍者
『スキル』
短剣術Lv1
気配察知Lv1
気配隠蔽Lv1
無属性魔術Lv1
『称号』
隠者
【ステータス】
『名前』
ナツキ・アカセ
『天職』
魔法剣士
『スキル』
剣術Lv1
火属性魔術Lv1
浅黄さんの天職も珍しいもののようだ。
戦闘能力は剣聖や賢者と比べるとかなり劣るが、索敵や隠密行動をさせれば、右に出るものはいないとか。
赤瀬の天職である魔法剣士も、複合職と言われるそれなりに珍しいものらしい。
そして、僕はと言えばーーーーー
【ステータス】
『名前』
ネクロ・フジサキ
『天職』
魔術師
『スキル』
無属性魔術Lv1
人は通常、属性というものを持っている。
魔術師を天職に持つ者は、自らの持つ属性の魔術を行使する事ができる。
剣聖や忍者などの属性魔術を使えない者は、無属性魔術と呼ばれる身体強化等を主とする魔術を行使するのだという。
しかし僕は、天職が魔術師でありながら、どうやら属性を持っていないらしい。
近接戦闘に向いていない魔術師なのに、遠距離の魔術が使えない僕は、つまるところーーーーー
ーーー役立たず、という事なのだろう。
ちなみに王様の名前はアルファード・クリストルです。