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死霊の異世界カーニヴァル  作者: 豚骨ラーメン太郎
第五章  残された者達
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第二話  青島秋人

(おれ)青島(あおしま)秋人(あきと)は幼馴染みの少女に恋をしていた。


容姿端麗で天真爛漫、誰にでも優しくて明るい、ムードメーカー白峰春香……………ではない。


俺が好きだったのは、容姿端麗(ただし無表情)で、頭脳明晰な読書っ子、身内には優しくて物静かな、クール美少女な緑川真冬なのだ。


とは言っても、今ではそんな感情は抱いていない。


普通に仲の良い幼馴染みだ。


彼女と初めて出会ったのは、小学五年生の頃だった。


五年生になって同じクラスになったのが、根黒と春香と真冬の三人だった。


最初は不思議に思ってた。


春香みたいな明るくて皆に人気の女の子が、どうして真冬みたいな寡黙な女の子といつも一緒にいるのか。


しかもそこにはいつも、クラスでも目立たない空気のような存在である根黒もいた。


俺は気になって、ある日春香に聞いてみた事があった。


「なぁ白峰、どうしていつも緑川と一緒にいるんだ?」


「真冬ちゃん?何でって………友達だからだよ!」


「友達なら他にもいるだろ?」


「そうだけど、そうじゃないの。真冬ちゃんは特別だから!」


そう言う春香は満面の笑みを浮かべていた。


友達と親友の違いとでも言うのだろうか。


当時の俺には良くわからなかったが、そうなんだと頷いていた気がする。


「なら富士崎は?あいつは何でいつも白峰達と一緒なんだ?」


すると、白峰は暫く頭を捻って考えていた。


「んー……根黒君が私達と一緒にいるっていうよりも、私達が根黒君と一緒にいるんだよね。正確には真冬ちゃんが。」


「緑川が?………そんなに富士崎と仲良いのか?」


「あの二人は幼馴染みだからね!」


その言葉に、特に理屈もなく納得した。


幼馴染みだから。


だから仲が良い。


何もおかしなことはない。


この時の俺は、それを疑わなかった。


それから数日後、その日の掃除後のゴミ出し当番は、俺と真冬だった。


真冬と二人で膨らんだゴミ袋を抱えて廊下を歩いていた。


俺は友達が多い。


男女隔てず誰とでも仲が良かった。


誰とでも仲良く話す事ができた。


でも、真冬との間に言葉はなかった。


誰かと一緒にいてここまで沈黙するなんて初めての事で、俺は混乱していた。


何とか話をしようと適当に話題を振った。


「な、なぁ緑川。」


「ん?」


「お前、いつも家で何してるんだ?」


「…………別に何も。」


「そ、そうか………。」


「ん。」


撃沈した。


俺のコミュ力なんてこんなもんだと思い知らされた気がした。


そして、この事が俺の幼いプライドに火を灯した。


絶対に仲良くなってやる。


そう思った。


皆があまり話さない真冬と仲良くなったら優越感を得られるかもしれない、なんて打算もあったのだろう。


もちろん、そんなのは無意識な考えだったが。


ともかく、この日以来、俺は真冬に良く話しかけるようになった。


真冬は不思議な子だった。


自分で言うのも何だが、俺は人気者だった。


皆が俺と仲良くなりたがり、俺も皆と友達になりたかった。


春香も似たようなものだ。


だから彼女とは話が合った。


しかし、真冬は俺と仲良くしようとする事はなかった。


いや、俺に興味がなかった。


その新鮮さが余計に俺を刺激したのかもしれない。


俺は既に、真冬の事が好きになっていたのだろう。


気付けば俺は毎日のように真冬に話し掛け、仲良くなる為に四苦八苦していた。


そこで気になったのが春香と根黒だった。


春香はあの性格だし同性だ。


それに、三年生の時に虐め問題で一悶着あったというのを友人に聞いた為、春香が真冬と仲が良いのは理解できた。


しかし根黒はどうだろうか。


真冬ほどではないが彼も物静かな人間だ。


二人でいる所を見掛けても、会話が弾んでいるようには見えなかった。


春香は幼馴染みだからと言っていたが、それだけではないのではないかと思い始めた。


何かが……何かが違う(・・)んだ。


真冬が根黒といる時の表情や雰囲気が、他人といる時とはまるで違っていた。


何がどんな風に、と聞かれると困るが、ずっと目で追っていた俺だからわかった。


きっと根黒は真冬の内側(・・)にいるんだって、そう思った。


俺もそっちに行きたい、真冬の大切(・・)になりたい。


そう強く思ったのを覚えている。


その為に、俺は根黒の事を知ろうとした。


一日中、根黒を観察したりした。


気怠げで目が腐っていて大人しい。


それくらいの印象しか持たなかった。


周りの人にも聞いてみた。


ほとんどの人の回答は「よくわかんない。」だった。


しかし、春香は違った。


「え、根黒君がどんな人か?……………怖い人……かな。けど、とっても頼りになる男の子だよ!!」


との事だった。


俺は理解できなかった。


根黒が怖い?頼りになる?何の冗談だ。


そう思った。


実態が掴めずにイライラした俺は強行策に出た。


根黒と一緒に下校したんだ。


いつもは真冬と一緒に帰っているようだったが、この日は無理矢理二人にしてもらった。


そんな帰り道。


「えっと、青島君……だよね?急にどうしたの?」


「いや、ちょっと………富士崎と話してみたくてな。」


「そう……なんだ?」


「あぁ………なぁ富士崎、お前って緑川と仲良いよな?」


「真冬と?……まぁ、幼馴染みだからね。」


「本当にそれだけか?」


根黒は心底不思議そうな顔をしていた。


「それだけって………そりゃ今までずっと真冬と一緒にいたし、幼馴染みだからってだけじゃないかもしれないけど…………仲が良い理由なんて良くわかんないよ。」


そりゃそうか、とも思った。


「どうやったら緑川と仲良くなれると思う?」


「え、青島君、真冬に近付きたいの?」


そのストレートな物言いに、俺は思わず慌てて、自分の幼い恋心を自覚する事になる。


たぶん根黒はそんなつもりで言ったんじゃないだろうが。


「近付きたいって…………ま、まぁそうだ。」


「だったら普通に話し掛ければ良いんじゃない?」


「いや、それくらいなら既にしてるよ。でも、あいつって反応薄いだろ?」


「あぁ……でもそれが真冬だからねぇ。」


小学生のくせに妙に沁々とした言い方だった。


「どうすればお前や白峰みたいに、緑川の友達になれるんだ?」


「そんな事言われても………真冬に直接聞いてみれば?」


「ばっ!そ、そんな事聞ける訳ないだろうが!!」


「?………そうかな?」


「だったらお前が聞いてみてくれよ!緑川にとってお前や白峰がどういう存在なのか!!」


それがわかれば、大切に一歩近付けるかもしれない。


そう思った。


そして後日、根黒は本当に聞きやがったんだ。


それも、俺と春香も一緒にいる時に。


真冬曰く、「春香は親友。根黒は………王子様。」だそうだ。


撃沈した。


いつも無表情なのに、少しだけ頬を緩めて赤らめていた真冬を見て、俺は悟った。


「あぁ、敵わねぇな………。」って。


聞けば根黒と真冬は幼稚園から一緒らしい。


たぶんその時に何かあったのだろう。


ともかく俺は、その真冬の一言で敗北を悟ったのだった。


絶対に覆せない。


そう確信させる何かを感じた。


根黒の奴は「王子様?………僕は平民だと思うけど。」なんて間抜けな事を言っていたが、そんな根黒を見る真冬の顔はとても優しげで、完敗を喫した俺の心は逆にすっきりとしてしまった。


この日以来、俺は根黒達のグループに入る事になり、根黒の狡猾さや真冬の健気さなど、様々な意外性を見つける事となる。


そして時を経て、俺の真冬への想いは風化していった。


互いの呼び方も変わり、互いに理解し合い、そしていつからか俺達は四人で幼馴染みとなっていたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



俺は後悔していた。


根黒の思惑に気付いていたのに、何もしなかった事を。


春香の想いは一目瞭然だった。


それは中学生になってからではあったが。


真冬の想いももちろん知っていた。


どちらか一方を応援する事などできなかった。


だから根黒のしたいようにさせた。


それがいつか、皆を傷付ける事になると予想しながらも。


そんな偽りの協力で満足している振りをしていたんだ。


そうこうしている内に、根黒は俺達から離れてしまった。


おそらくあの宰相が手を回したのだろうが、あいつも馬鹿な事をしたものだ。


本当の意味で根黒を敵に回すなんて、正気の沙汰ではない。


俺達は知っている。


あいつは誰よりも狡猾で、誰よりも執拗で、そして誰よりも強い。


無能と罵られながらも決して諦めずにいたあいつが、こんなところで終わる訳がない。


きっとそのうちひょっこり戻ってくるだろう。


もしかしたら、とんでもない力を身につけて現れるかもしれない。


……………あいつならやりかねない。


今はとにかく強くなろう。


再びあいつに出会った時、今度こそ力になれるように。


根黒、俺はお前を信じてるぞ………だから、無事でいてくれ。

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