第十一話 休養と出立
ディアボロス達との戦いの後、空域に戻った俺達は、宣言通り暫くの間休養を取る事にした。
早く外に出たい気持ちもないではないが、どうせ寿命なんてものはないのだし、セレス達にとっては百年以上もここにいるのだから、ちょっと時間が延びただけでは大して変わらない。
俺自身、秋人達に早く会いたいとは思うが、この変わり果てた姿を受け入れてくれるのかどうか不安で、先伸ばしにしてしまっていた。
休養を取っている間、俺達は各々自由に行動していた。
俺は魔纏の練習やサリスとの模擬戦。
セレスは魔術の練習と開発。
サリスは様々な動きの研究や俺との模擬戦。
レイはマッピングを優先しつつ、魔術の練習もしている。
レイ曰く、「流石にお荷物になるのは嫌っすから!」とのことだ。
俺達はレイがお荷物だなんて思っていないのだが、本人は何か思うところがあるようだ。
強くなるのは悪い事ではないし、止めようとは思わない。
俺とサリスの模擬戦は、以前の修行よりも更に激しさを増すようになった。
俺はディアボロスと、サリスはエスパーダと戦った事で動きに変化が出ている。
能力値やスキルレベルは成長しなくとも、こういった点での成長ってのはあるんだな、と感じた。
俺はより速く無駄なく動く事ができるようになり、それはサリスも同様であった。
サリスの刺突は更に鋭くなり、そして刺突以外にも多様な動きができるようになっている。
また、そうした戦闘訓練以外にも、俺達はお互いの事を話し合ったりした。
セレスとサリスの過去を本人から聞き、レイの過去も詳細に聞いた。
もちろん俺の事も話した。
今まで深くは話していなかったし、良い機会だと思ったのだ。
異世界から召喚された事、無能魔術師と罵られ忌避された事、その中でも認めてくれる人がいた事、幼馴染み達の事、そして殺された経緯。
全てを話すと、セレスとレイは号泣し、サリスは赤瀬と宰相に殺気を漲らせていた。
その強烈な殺気にちょっとビビってしまったのは内緒だ。
ともあれ、己の過去を話す事で、仲間との絆がまた一つ深くなった気がした。
俺達は最後の戦いに向けて、着々と準備を進めたのだった。
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「ーーー旦那っ!遂にやったっす!深層の主を見付けたっすよぉ!!」
魔力の回復の為に軽い運動をしながらもダラダラと休んでいると、空域に駆け込んできたレイがそう叫んだ。
「本当か!?」
「はいっす!間違いないっす!!」
「やりましたねご主人様!!」
「あと少しで………外に………。」
セレスもサリスも、レイの報告に喜んでいるようだ。
俺自身、気分が高揚するのを感じていた。
しかし、沸き上がる感動を抑え付けて大きく深呼吸をする。
長く長く空気を吐いて、一拍置いて静かに口を開いた。
「よし、魔力が完璧に回復したらここを発つ。セレスもしっかりと魔力を回復させておけ。」
「畏まりました!」
「サリスは剣の手入れを怠るなよ。」
「もちろんです。」
「レイもその間休んでおけ。探索ご苦労様。」
「了解っす!気にしないで下さいっす!」
「それから、喜ぶのはわかるが最後まで気を抜くなよ。わかっているとは思うが、ここではいつ何が起こるかわからないからな。」
表層の主の死に際の暴走、屍竜との死闘、悪霊によって築かれた王国との抗争………………考えれば考える程録な目に合ってないな。
セレス達もそれらを思い出しているのか、セレスは苦笑いをし、サリスは顔を引き締め、レイはウンザリした顔をしている。
「…………本当に何が起こるかわからないからな。気を引き締めておくように。」
諭すようにそう言うと、各々しっかりと返事をした。
その後暫くダラダラと心を休める。
最後にセレスの魔力が回復しきったところで、準備は整った。
再び深呼吸をして、後ろに控える従者達に振り返る。
三人とも強い意志を宿した瞳で俺を見詰めていた。
その瞳をしっかりと見返して口を開く。
「行くぞ。」
ただ一言。
従者達の強い返事を受けて、俺は踵を返して進み始めた。
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空域を出てレイの案内通りに進む。
従者への命令はやはりあれ。
サーチアンドデストロイ。
しかしセレスには魔力を温存するように言ってある。
故にほとんどの敵は、現れた瞬間サリスが蜂の巣にしていた。
残りは俺が殴って蹴って粉々にする。
探索をしながら、深層の主との戦いにおける作戦を話し合っていた。
敵は俺と同じ屍霊の王、それもおそらく名持ちだ。
条件だけならば、邪神の祝福を持つ俺の方が強いはずだが、相手には迷宮の主としての補正があるはず。
つまり条件は五分。
一対一なら勝敗はギリギリと言ったところか。
だがこちらには仲間がいる。
それを活用しない手はない。
まず主攻となるのはセレスだ。
屍霊の王とは言えども火属性魔術が弱点である事に変わりはない。
しかし簡単に当てる事はできないだろう。
俺がセレスの魔術を防ぐ事ができるように、敵も同様であると考えた方が良い。
ならば、基本的に俺が相手をして、隙ができたらそこにセレスの魔術を当てる、というのが良策か。
サリスは俺の補佐だ。
俺が敵を引き付けている時に、大きな隙を作る手伝いをしてもらう。
レイは上空から場の把握をする。
俺達が気付かない何かがあれば指示できるように。
こうして作戦は粗方固まってきた。
深層の主にもかなり近付いているらしい。
更に速度を上げて進む。
現れる敵を粉砕しながら、幾度も頭の中で深層の主との戦いをシミュレートする。
やがて、既視感のある扉が見えた。
黒や紫の宝石で装飾してある両押し開きの扉には、所々に金色の模様が描かれている。
色使いはゴテゴテしているのに不思議な気品を感じる。
扉の前で再び作戦を確認し、どんな事態が起きても焦らず冷静に対処する事を注意した。
「ーーーさて、こんなところで大丈夫かな。」
「そうですね、特に見落としはないかと思います!」
「不測の事態にも対応できるよう話し合いましたし、問題はないかと。」
「自分にできる事があれば何でも言って下さいっす!」
三人も気合いは十分な様子。
長い深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着ける。
再びの宣言。
「行くぞ。」
俺は強く扉を開け放った。
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