第六話 それは私の物語
セレスの回想話です。
最後の方、残酷な描写があります。
苦手な方はご注意下さい。
私の名前はセレス・ハプティズマ。
とある王国の伯爵であるハプティズマ家の長女。
家族は父と母、そして妹のサリス。
お父様の事はあまり好きじゃない。
あの人は私達の事を愛していないから。
骨の髄まで貴族脳の人だもの。
自分の子どもなんて、政略の道具くらいにしか思っていない。
お母様と結婚したのだってそう。
お母様は国一番の光属性魔術師で『聖女』と呼ばれる凄い人。
だからお父様はお母様と結婚したの。
ハプティズマ家は昔から大金持ちだから。
お金に困ってたお母様の生家を助ける条件として、お母様を差し出させたの。
私がお母様だったら絶対に嫌。
でもお母様はそんな素振りは見せないの。
お母様はとっても優しい人なのよ。
私とサリスの事も、すっごく愛してくれるの。
だから私はお母様が大好き。
それと同じくらい大好きだったものがあるの。
それは『火』よ。
初めて火を見た時、とっても胸が躍ったわ。
キラキラしててユラユラしてて、とっても綺麗だったもの。
それにね、お母様が言ってたの。
「火は神様が与えてくれた、神聖なものなのよ。」って。
その時の私は言葉の意味がわからなかったけど、とにかく大事なものなんだって思ってた。
だから私は火を見るのが好きだった。
十歳になって神様から天職を貰った。
『賢者』の天職で属性を三つも持ってた。
けど私は火属性ばっかり練習してた。
それくらい大好きだったの。
お母様はそんな私を見ていつも優しく笑ってた。
だから思ったの。
もっと頑張ろうって。
でも、それはできなかった。
あれは私が十八歳の時の事だった。
ハプティズマ家の領地に疫病が蔓延したの。
沢山の人が亡くなったわ。
お母様は色んな所に行って治療してた。
でも、それで救える人は多くはなかった。
そしてある日、お母様が倒れてしまったの。
お母様はいっぱい頑張ったのよ。
でも、皆はわかってくれなかったの。
「聖女の癖に」「どうして子どもを助けてくれなかったんだ」「役立たず」
そんな風に怒る人がいっぱいいたの。
でもお母様は一度も言い返さなかった。
「ごめんなさい」「助けられなくてごめんなさい」「救えなくてごめんなさい」
ずっとそうやって謝ってた。
私は悔しかった。
大好きなお母様が、あんなに頑張ってたお母様が、どうしてこんな風に言われなきゃいけないのって。
でも、お母様はそんな私の頭を撫でてこう言ったの。
「人はそんなに強くないの。こんな時、誰かを恨まずにはいられないのよ。」って。
なんでそれがお母様でないといけないのか。
私にはわからなかった。わかりたくもなかった。
でも、お母様はそんな時でも優しく笑ってた。
だから私は何も言えなかった。
そして、あの日がやってきた。
その日、急に屋敷に男の人が来たの。
とっても偉い神官様だって言ってた。
その神官様がお母様を指差してこう言ったの。
「この女は悪魔に憑かれている。」って。
私は意味がわからなかった。
どうしてそんな事になっているのか。
一体誰がそんな事を言ったのか。
私は怒った。サリスも怒った。
でもお父様は違った。
お父様はお母様にこう言ったの。
「私を誑かしたのか?」って。
お父様は言ったの。
自分は何も悪くない。この女が私を騙したんだって。
神官様をそれを信じたわ。
そしてお母様を連れて行こうとしたの。
だから私とサリスは止めようとしたの。
そしたら、お父様は神官様にこう言ったの。
「この二人は私の子ではない。きっと悪魔の子だ。」って。
私もサリスも否定した。
でも、神官様は信じてくれなかったの。
私とサリスはお母様と一緒に牢屋に連れていかれた。
そこで暫く暮らしてた。
満足にご飯も食べられない。
牢屋番の兵士から毎日罵声を浴びせられた。
そしてとうとう、お母様は亡くなってしまったの。
元々衰弱していた上に、身も心もボロボロになって、耐えられなかったの。
私はいっぱい泣いた。
サリスも泣いてた。
兵士の人は言ってた。
「母親が死んだのはお前達のせいだ。」って。
私達が呪われた悪魔の子だからいけないんだって。
今ならわかる。
きっと民衆は恨む相手が欲しかったんだ。
でもお母様は亡くなったから。
だから私達にしたんだ。
お母様が悪魔に憑かれたのは、私達を生んだからだって。
ある日、連れていかれたのは処刑場だった。
私とサリスは、民衆の前で処刑された。
私は火炙りの刑。サリスは串刺しの刑。
もう涙も枯れ果てていた。
大好きだったお母様は犠牲になった。
そして私達も…………。
後から考えたら、たぶんお母様が悪魔憑きだっていうのは、教会の神官達が考えた嘘だったの。
疫病が収まらずに、人々は神様を恨むようになった。
それを変える為に、教会はお母様を人柱にしたの。
今でも忘れない。
何本もの太い針に刺されて悲鳴を上げるサリスを。
私達を呪い子と呼んで、罵る民衆の顔を。
足元から迫る、神聖なる恐怖を。
私は全身が焼け爛れてて、サリスは穴だらけだった。
私達の死体は【悪霊の墓】に落とされて、そして屍霊になったの。
私は火が大好きだった。
だから忘れない。
あの恐怖を。
迫る火の熱さを。
私は、今でも忘れていない。
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