第五話 屍霊の王国
空域にて待機すること約一時間。
ついにレイが戻ってきた。
「おかえりレイ、お疲れ様。」
「ただいま戻ったっす!」
「早速だが、どうだったんだ?」
「予想以上に速かったっすけど、何とか追い付けたっす。監視してたのはゴーストで、やっぱり例のとこから来てたみたいっす。」
「そうか。…………実はなーーー」
俺はレイがいない間に起きた出来事を話した。
「そ、そんな事があったんすか。………国、ねぇ………。」
「まぁ国ってのは大袈裟に言ったんだろうが、少なくともその最古の悪霊ってのが他の悪霊共を束ねているのは間違いないみたいだな。」
「ふむふむ………どうしますか?」
「もちろん潰すさ。俺達の目標はここの脱出だから、別に無視しても良かったんだが…………売られた喧嘩は買わないとな。」
「だ、旦那が悪い顔してるっす………。」
「ご主人様、僕もお供致します。ご主人様に仇なした愚か者共など、一片足りとも残してはおけません。」
「サリスさん怖いっす………。」
「もちろん私もお手伝い致します!ちょうど試したい大規模魔術もありますので。」
「セレスさん笑顔で物騒な事言ってるっす………。」
「なんだ、お前は行かないのか?」
「レイさんお留守番ですか?」
「レイは待機して掃除でもやらせておけば良いのでは?」
「ちょっ!皆さん酷いっす!自分だけ置いてけぼりは嫌っすよぉ………。」
「冗談だよ、お前も来るんだろ?」
「も、勿論っすよ旦那!!」
レイの焦り顔を見て皆で笑う。
あぁ、こういうの良いな。
そう思った。
俺達の平穏を邪魔するというのならーーー
ーーー最古の悪霊だろうが、容赦はしない。
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「旦那、あそこから奴らの縄張りに入るっす。」
レイがそう囁いてくる。
俺達はいま、レイに案内されて最古の悪霊とやらの居場所を目指している。
「ここからはそれなりに強いのもいるみたいっすけど、どうするっすか?」
そんなもの、決まっているじゃないか。
「サーチアンドデストロイだ。敵は見つけ次第消滅させろ。」
「畏まりました!」
「承りました。」
「だ、旦那が珍しくハイテンションっす………。」
レイが何か呟いているが気にしない。
敵の本拠地何するものぞ、とばかりに堂々と道を進む。
奥から一匹のワイトが来た。
「おい、てめぇら何者だ?ここがどこだか、わかってーーー」
言葉の途中でセレスが燃え散らした。
「よ、容赦ないっす………。」
「セレス、その調子だ。先に進もう。」
「はい!ありがとうございます!!」
「くっ……次は僕が…………。」
「………自分、こっち側で本当に良かったっす……。」
それから、俺達は出てくる敵を皆殺しにしながら先へ先へと進み続けた。
特にセレスとサリスが競い合うように瞬殺していく。
セレスの魔力操作もサリスの剣速も、以前よりずっと速くなったな。
従者の成長に頷きながら感心していると、レイが後ろから話しかけてきた。
「旦那、もうちょっと進んだところに、大量の反応があるっす。大体三百くらいの屍霊がいるっす。」
「ほう、そんなにか…………これは面白い事になりそうだな。」
「何か、珍しく旦那が乗り気っすね。」
「ん、そうか?」
「はいっす。こういうのはいつも、サリスさんとかセレスさんとかがやりたがるじゃないっすか。」
「まぁ……そうだな。」
「何か今回の敵に思うところでもあるんすか?」
「………思うところか。………無い事もない、な。」
「……き、聞いても良いっすか?」
レイが神妙な面持ちで固唾を飲む。
「あぁ、まぁ何て言うか…………………」
数秒の空白。
「襲い掛かってくる悪人共相手に無双するのって…………燃えるだろ?」
「真剣に聞いた自分が馬鹿だったっす。」
レイがやれやれとでも言うように肩をすくめて呆れた顔をする。
失敬な。
「レイ、お前にはわからないか?男心をくすぐるこのーーーむ?」
レイに男心とは何なのかを熱く語ろうとしたが、何やら敵が大勢いるという奥の方から、見た事のない屍霊がやってきた。
セレスが魔術を発動しようとするが、気になった俺はそれを止めた。
全身鎧姿で赤いマントを羽織った偉丈夫だが……………首から上が無い。
正確には、自分の首と思われるものを小脇に抱えている。
ゲームなんかでは見た事があるが、生で見るのは初めてだ。
もしかしたらどこかにいるのではないかと思ってはいたが、まさかここで現れるとは。
「…………デュラハン……。」
そう呟くと、デュラハンは少し距離を置いたところで立ち止まって、意外そうに喋りだした。
「ほう、良く知っているな?我輩以外にデュラハンはいないはずだが………。」
「そんなに詳しい訳ではないさ。…………んで、何の用だ?」
「うむ、我が主が貴殿らをお呼びだ。ついてきてくれ。」
それだけ言ってデュラハンは踵を返す。
俺達は顔を見合わせるが、どうせ行くんだしなと思って大人しくついていく。
やがて道の先に何かの模様が描かれた立派な扉が見えた。
デュラハンは扉の前で横に避け、俺達に道を譲った。
扉の前で立ち止まり、小さく深呼吸をする。
覚悟はできている。
俺は両開きの扉を押し開けた。
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中はかなり広大な空間だった。
空域よりも更に広い。
幾つかの段差になっており、奥に行く程高くなっている。
見渡す限りの屍霊達。
下級や中級の様々な屍霊がいる。
数える程だが、上級の屍霊もいるようだ。
辺りを眺めていると、真ん中の一番高い場所にいる屍霊が目についた。
大きな体躯と血走った目。
ゾンビ系の屍霊ではあるが、身体の状態は良いようだ。
そいつは両腕を広げて大声で話し始めた。
「ようこそ我が宮殿へ!俺様は貴様らを歓迎しよう!!」
「宮殿と言うには些か質素だな。飾りの一つも有りやしない。」
「まぁそう言うな!ここにはそんな洒落た物はないんでな!!」
「……それで、お前は?」
「良かろう!俺様の名を教えてやる!俺様はこの悪なる屍霊共を治める王……名はディアボロスだ!!」
「ディアボロス!?」
レイが何やら驚いている。
「どうしたレイ?何を驚いている?」
「だ、旦那!ディアボロスと言えば、『悪魔信仰の祖』と呼ばれる古の大盗賊っす!」
「………盗賊なのに信仰の祖なのか?」
「悪魔信仰の根底にある『欲望の解放、力による征服』を掲げ、五万人を越える盗賊を率いた事からそう呼ばれるっす!各国が連合を組んで対抗する事で勝敗は決したっすけど、もしそれがなかったら世界を征服していたと言われているっす!!別名『人間魔王』とも言われるくらいの超有名人っすよ!!」
「………詳しいな。」
「自分が生きていた頃の人間ならこれくらい誰だって知ってたっす。悪い子どもを叱る時には『いい加減にしないと人間魔王に拐われるよ!!』が常套句だったっす。」
へぇ、随分と凄い奴らしいな…………………どうでも良いけど。
俺はディアボロスに向き直る。
「俺はネクロだ。早速だが要件を聞かせてくれ。」
「要件?これは異な事を!こちらに乗り込んで来たのは貴様らであろうに!」
口調とは別に、ディアボロスは楽しげに笑っている。
「売られた喧嘩は買う主義なんだ。あのマミーや監視役の件、俺達に喧嘩を売っていると捉えて良いんだよな?」
「ふむ、あやつが戻ってこぬからもしやとは思ったが、既に処されておったか…………。それに、監視にも気付いておったのだな。」
「うちには優秀な密偵がいてな。………ファントムのレイだ。」
紹介されたレイはどもどもと頭を下げる。
軽い奴だな。
「こちらも優秀な奴であったのだがな…………ふむ、レースよ!!」
「は、はい!こちらに!!」
ディアボロスが何かを考えていると、急に誰かの名を呼んだ。
返事をして慌てて近寄ったのは、ゴーストの男だった。
あれが監視役の屍霊だったようだ。
「レースよ、お前は監視は順調だと言っておらなかったか?どうやら、既に察知されていた上に、この場所まで教えてしまったようだが………。」
「お、お許し下さい王よ!!何卒……何卒、寛大なご処置を!!」
「ならぬ、去ね。」
そう言うとディアボロスは腕を振るって闇の斬撃を飛ばした。
逃げる間もなく切り裂かれたゴーストは、悲鳴も上げられずに消滅した。
…………こいつ、何の躊躇もなく配下を殺しやがった。
「おい、アイツはお前の配下だろう。」
「これは我らの問題だネクロよ。俺様は無能な者に興味はない。俺様は強者を愛するのだ。……………だからこそ、俺様は貴様が欲しいのだよ。」
「つまり、屍竜を倒した俺達を配下にしたい、と。」
「うむ、そう言う事である。どうだ?俺様に従えば、悠久の時をここで…………」
「生憎だが、俺達はこんな所で過ごし続けるつもりはない。」
「…………深層の主を倒すつもりか?」
「その通りだ。俺達はこのダンジョンを踏破し、外の世界へ行くんだ。」
ディアボロスは暫く沈黙していたが、やがて肩を震わせて大笑いした。
「……くくっ……くっくくくく…………ふはっ……はっははははははっ!!!そうかそうか!!貴様らはあやつと戦うつもりか!!」
「何がおかしいんだ?」
「いやなに、あんな化け物と戦おうとするなど、蛮勇にも程があるというものよ。」
「ほう、それほどの化け物なのか?お前もかなり強い方だと思うが。」
「当たり前よ!俺様は誰よりも永く、この地獄を生き抜いてきたのだからな!!…………だが、その俺様でもあやつと戦おうとは思わない。あやつは、真なる屍霊であるからな。」
「真なる屍霊?」
「うむ、屍霊の中の屍霊。屍霊の王たる存在よ!!我も王だが、あやつとは根本的に異なるのだ。」
「屍霊の王、ね。…………アンデッドロードか。」
「む、良く知っているな?見た事でもあるのか?」
「そりゃもちろん知っているさ。俺もだからな。」
静寂が場を包んだ。
先程までガヤガヤと五月蝿かった周りの悪霊も、ディアボロスでさえも沈黙している。
「………………貴様、それは本気で言っておるのか?」
「勿論だとも。俺の種族はアンデッドロードだ。」
「…………その話が本当だとするなら、後ろの者達もそれなりの種族なのだろうな?」
「あぁそうだ。さっきも言ったが、ファントムのレイ。それから、リッチのセレスとヴァンパイアのサリスだ。」
セレスとサリスが無言で礼をする。
その時、一体のワイトが声を上げた。
「セレス?サリス?………………おい、おいおいおいおい………まさかそこの二人、『ハプティズマ家の呪い子』か!?」
……………呪い子?
不思議に思ってセレスとサリスを見る。
そこには全身を酷く震わせている二人の姿があった。
「あ……あぁ……あああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
セレスは頭を抱えて絶叫しながら踞る。
「…………っ…………………うっ……………。」
サリスは青白い顔をして自らの身体を抱きながら無言で震えている。
そんな二人を見るのは、初めての事だった。
レイと二人で、慌てて話しかける。
「お、おい!どうした!?セレス!サリス!」
「セレスさん!サリスさん!何があったんすか!?」
だが、どんなに声をかけても、二人は反応しない。
俺は先程のワイトを睨み付けた。
「お前、一体何をした!?」
するとワイトはへらへらとしながら話し始めた。
「けっけっけっ……いやぁまさかこんな所でハプティズマ家の呪い子に会えるなんてなぁ?運命ってのは不思議なもんだぁ………。」
「お前はその二人の事を知っているのか?」
ディアボロスがワイトに問いかける。
「へい王様!俺はこの二人と同じ時代に生きてたんで。実は、そこの二人が憐死人としてこんな所にいるのも、俺が関係してるんでさぁ。」
…………なんだと?
「ふむ、面白そうだな、話してみろ。」
「へい、実はーーー」
そして、その男は話し始めた。
とある貴族にまつわる真実と、二人の少女を襲った悲劇について。




