第二話 死闘と涙
突然ですが、この小説のタイトルを変えようかと考えているのですが、なかなか良い名前が思い付きません。
もし皆様に何かアイデアがありますれば、どうかメッセージにてお教え下さいませ。
ーーードラゴン
それは、この世界において出会ってはいけない魔物のうちの一つだ。
強靭な肉体と堅硬な鱗、あらゆるものを切り裂く鋭い爪と牙。
魔術こそ使わないものの、莫大な魔力を有しており、その魔力を使った竜の息吹と呼ばれる灼熱の咆哮は、全てを焼き滅ぼす脅威の技だ。
そして何よりもその翼。
空を飛べるというのは、それだけで非常に大きな利点となる。
況してやドラゴンにはそこらへんの飛び道具なんて簡単に弾いてしまう鱗があり、殲滅の要となる竜の息吹がある。
ドラゴンが『空の帝王』と呼ばれる所以だ。
最上級魔物の代表とも言える存在。
そんなものが目の前に現れた事に、俺は驚愕を隠しきれなかった。
しかし、いつまでもこうしてはいられない。
俺は一人ではないのだ。
判断を誤れば、その一手が全滅に繋がる。
冷静に、的確な指示を………。
深く深呼吸をして頭を冷やし、高速で思考を巡らす。
目の前のこいつは屍竜だ。
生きているドラゴン程、肉体は強くはないはず。
防御力は通常のドラゴンとは比べるべくもない。
それに、こんな場所では満足に空も飛べない。
無駄にデカい図体をしているし、攻撃を当てるのは難しくないだろう。
だが、魔眼によって得た情報によれば、あのドラゴンは再生スキルを持っている。
しかもレベルは3だ。
自分自身がレベル3の再生スキルを保有している為、その効果の高さはよく知っている。
攻撃する度に再生されたら面倒だ。
より威力の高い攻撃で、一点集中を狙うしかないだろう。
次に敵の攻撃について考える。
当たり前だが、屍竜は屍霊だから疲れる事はない。
痛みも感じないから、疲労させるような作戦も取れないが、元から短期決戦を狙うつもりだから、これは問題ない。
生きているドラゴン程ではないと言っても、俺達よりは遥かに強靭な肉体を持っている。
その攻撃を食らえばただじゃ済まないだろうが、ドラゴンというのは元からそんなに速い方じゃない。
特に細かい動きなんかは苦手のはずだ。
屍竜となって更に遅くなっている事を考えたら、攻撃を避けるのはそう難しくないだろう。
だが一つだけ懸念があるとすれば、それは竜の息吹だ。
本で読んだ事があっても、実際に見た事はない。
威力も高い上に広範囲に渡る攻撃だというが、その威力も範囲も知らないのだ。
……………わからない事を考えても仕方ないか。
今はできる事をしなければ。
「全員戦闘準備!!敵は屍竜だ、攻撃はともかく防御は甘いはずだ。まずは俺とサリスで屍竜を引き寄せる。セレスはできるだけ狙う箇所を分散させて攻撃を。レイはそれを見て屍竜の防御の甘いところを探してくれ。…………わかっているとは思うが、屍竜の攻撃は絶対に受けるなよ。攻撃の回避は最優先事項だ。」
「か、畏まりました!!」
「僕は左から回ります、ご主人様は右を!!」
「旦那!気を付けて下さいっす!!」
三人が返事をして、各々の行動を始める。
こういう時、屍霊の身体は本当に便利だと思う。
驚愕はしても恐怖はない。
疲れも痛みもないから、戦闘において考えなければならない事項が減る。
邪神に感謝を捧げるのは、これで何度目だろう。
願わくば、俺達に勝利を。
そして、従者達の無事を。
スィーリアに祈りを捧げ、俺は屍竜の右側へ走り出した。
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ブォンッと大きな風切り音と共に、巨大な尻尾が振るわれる。
俺は跳躍してそれを避け、闇の槍によって屍竜の眼を狙う。
鬱陶しそうに目を閉じるだけで防がれる。
闇属性魔術は屍竜にはあまり効果がないらしい。
だが、代わりにセレスの火属性魔術は効果抜群だ。
その魔術を受ける度に屍竜が怒り狂ってセレスを狙おうとするが、俺とサリスが顔を中心に攻撃を加える事で引き付けている。
レイは必死に屍竜の弱点を見つけようとしているが、未だ反応の大きな所は見つかっていない。
……………いや、まだ攻撃してない箇所があるじゃないか。
こいつが動き回るから、セレスがなかなか狙えていない場所だ。
「セレス、魔術の準備を!!身体の前面を狙うぞ!!」
「しかしご主人様、どうやってそこに攻撃を当てますか?」
サリスが冷静に問いかけてくる。
「俺が囮になる。セレスは俺が合図したら魔術を発動しろ。サリスは、念の為セレスの護衛だ。」
「そ、そんな!それではご主人様が!!」
「セレス!これは命令だ!!」
セレスが俺の指示に驚くが、今はこれしかない。
「ご主人様、宜しいのですね?」
「あぁサリス、覚悟はできてるよ。…………まぁ、お前らの主を信じろって!」
「…………畏まりました。姉さん、速く準備を。」
「うぅ…………畏まりました……ご主人様、どうかご無事で!!」
「あぁ、任せろ。」
ちなみにこうして話している間、レイが必死に屍竜の攻撃を避けていた。
屍竜は無意識になのか、霊体のレイを攻撃する為に魔力を纏っている。
「だ、旦那ぁ!!早く、早く交代して下さいっす!!死ぬっ!死んじゃうっす!!」
涙を流しながら避け続けるレイ。
相変わらず回避は一級だ。
鍛練の成果が出ているな。
そもそもお前はもう死んでるだろう、とも思うがそろそろ可哀想なので代わってやろう。
闇の槍を複数飛ばしてこちらに意識を向けさせる。
屍竜に向けて走る。
振り下ろされる爪の攻撃を掻い潜り、屍竜の身体は足場に跳び登る。
目の前には大きな眼。
闇を腕に纏って、全力で殴った。
屍竜がけたたましい叫びと共に暴れまわる。
残念ながら眼球が潰れる事はなかったが、これで暫くは見えないだろう。
だがその代償に、浮遊した不安定な状態を作ってしまった。
振るわれた腕が俺の身体に当たり、吹き飛ばされる。
以前、表層の主に痛め付けられた時の事を思い出した。
ただ屍竜が暴れた時に攻撃が当たってしまっただけだし、俺の身体は進化した事によって強くなっている。
更に当たる瞬間に部分強化した事もあって、動けない程のダメージじゃない。
俺の名を呼んで駆け寄ろうとするサリス達を押し止めて立ち上がる。
さぁ、隙を作らなければ。
暴れている屍竜の眼に闇の槍を打ち飛ばす。
当たりはしなかったが、飛んできた方向でこちらに気付いたようだ。
屍竜が駆け寄ってきて腕を振り上げた。
その瞬間。
「セレス、今だ!!」
そう叫んで俺は思いきり横に飛んだ。
先程まで俺のいた所を幾つもの火の大球が飛んでいく。
目が見えずに、無防備に腕を振り上げていた屍竜に火の大球が直撃した。
苦しむような反応を見せる屍竜。
「旦那!見つけたっす!首の付け根、胸部との間のど真ん中の鱗っす!!」
それが弱点か。
逆鱗とか言われるものなのかもな。
「よし、敵の弱点はわかった。俺とセレスでそこを狙う。サリスとレイはーーー」
そう言って作戦を伝えようとしていた。
油断はしていなかった。
だが予想外の事態が起きた。
苦しんでいた屍竜から膨大な魔力を感知した。
その魔力が屍竜の口内に溜まっていく。
チロチロと青白い炎が見えた。
…………………まさか。
「全員逃げろ!!竜の息吹だ!!」
いや、逃げられない。
逃げられる程、ここは広くない。
失敗した。
俺がここに引き寄せてしまったから。
隙を作る為とは言え、ここに引き寄せなければ。
せめて先程の位置だったなら、避けられたかもしれなかったのに。
だが………後悔している暇はない。
避けられないならば、受ければ良い。
「全員俺の後ろに!セレス、土属性魔術で円形の壁を作ってくれ!!」
「畏まりました!!」
サリスとレイが後ろに回り、セレスが俺達を囲うように魔術で壁を作る。
更に俺の闇でその壁を覆い、全力で補強した。
ドーム状にしたのは、少しでも受け流して威力を軽減させる為だ。
やがて、天を震わせる咆哮と共に、竜の息吹が降り注いだ。
想像以上……いや、その更に上の衝撃。
生身であったなら既に身体は消滅しているだろうと断言できる程の衝撃が、俺達を襲った。
全力で魔力を流して必死に耐える。
セレスも魔力を注ぎ続けている。
永遠にも感じる数秒間。
やがて竜の息吹が弱まってきたが、こちらの障壁も限界を迎えようとしていた。
少しずつ壁が崩れ落ちているのを感じる。
そしてついに、壁は破られてしまった。
青白い光と共に、気が飛びそうな熱気が伝わってくる。
弱まっているとは言っても、これを受けたら無事には済まないだろう。
しかし、これくらいなら俺一人で受けられるかもしれない。
後ろの三人が無事なら、それでも良いかもな。
そんな事を思った。
ーーーしかし、そんな俺を守ろうとする者がいた。
「サリスッ!!」
竜の息吹が今にも当たる……という時に、サリスが俺を打ち飛ばしたのだ。
俺の身代わりとなって、その猛威に晒された。
やがて攻撃が止み、俺は横たわるサリスに走り寄った。
「サリス!大丈夫か!?」
「ご……主人………様、ご無事で…………良かった……。」
骨の大部分がドロドロに溶け、意識があるのが不思議な状態。
「どうしてこんな事を!?」
「あの……屍竜を倒す………為には……ご主人様の力が……………必要……です。」
サリスは選んだ。
主人の為に、仲間の為に、勝利の為に。
己が犠牲になる事を。
そんな従者に対して、俺は何もしてやれない。
既に回復してどうにかなる状態でない事は、俺もサリスもよくわかっていた。
「旦那ッ!!屍竜が!!」
レイの叫びで我を取り戻し、屍竜を見る。
視力の回復した屍竜は、またもや魔力を溜め込んでいた。
「もう一発だと!?ふざけんな!!」
そんな罵倒をしても、屍竜が止める訳もなく。
その口元には、先程と同じように青白い炎が見えた。
折角サリスが身代わりになったのに、結局どうにもできないのか…………。
そんな絶望に押し潰されそうになる。
ーーーしかし、それでも諦めない者がいた。
「旦那、今までありがとうございました!自分、旦那に会えて、本当に良かったっす。………いつか必ず、ここを脱出して下さいっす!!」
「レイ……?何を…………おい、待て!レイ!!」
レイは俺の静止も聞かず、屍竜に向けて飛びかかった。
そして全身に闇を纏って、屍竜の口内へ突撃する。
急に異物が口内へ侵入し、混乱した事で溜めていた魔力が暴発する。
本来なら前方に解き放つ筈であったエネルギーが口内で暴発し、爆発を起こした。
屍竜の絶叫が大気を揺らした。
屍竜は地に伏せ、暫く動けなくなる。
どこにもレイの姿が見当たらない。
「レイ………?おい、レイ!レイ!!」
叫んでも、レイはその姿を現さない。
本当はわかっていた。
元々防御力の低いレイが、あの爆発に巻き込まれて無事な訳がないのだ。
しかし俺は、その現実を受け入れられずにいた。
全てに絶望して、項垂れる。
もうどうすれば良いのか、俺にはわからなかった。
ーーーしかし、そんな俺を見捨てない者がいた。
パチンッという音がして、左頬に衝撃を感じた。
突然の事に驚いて顔を上げると、涙を流したセレスが俺を睨んでいる。
「セレス……?」
「ご主人様!何を俯いているのですか!?サリスとレイが命を賭けて作った機会を逃すおつもりですか!?」
「機会って…………だって、俺達にはもう魔力がほとんどない。もう………あいつを倒せない。」
あの障壁の為に魔力のほとんどを消費した。
俺でさえもう半分もないのだ。
セレスはもっと消費しているはず。
あいつを倒せる魔術など、行使できるはずもなかった。
「それでもやるのです!!やらなければならないのです!!………ご主人様、貴方はこれまで、私達をずっと守ってくださいました。諦念と絶望の地獄から、救って下さいました。……………今度は、私達が貴方を救う番です。」
そう言ってセレスは微笑み、魔力を練り始める。
保有する魔力が加速度的に消費されていく。
かなり大規模な魔術を使おうとしているようだ。
しかし、今の状態では…………。
案の定、セレスの魔力は底を尽きた。
なのに、それでもセレスは止めようとしない。
ないはずの魔力を絞りだそうとしている。
「セレス……?一体何を…………?」
やがて、セレスの身体から魔力とは別の何かが溢れ出し、魔術を形成していく。
魔術が構築されていき、セレスが見るからに弱っていく。
「セレス……?…………まさか、生命力を魔力に変換しているのか!?セレス、止めろ!!今すぐ止めるんだ!!」
必死の静止は、セレスには届かない。
やがて魔術が完成し、一つの剣のような形をした炎が浮かび上がる。
セレスは今にも倒れそうになりながら、言葉を紡ぐ。
「はぁ…はぁ……はぁ………火属性…魔術…………巨人の炎剣……。ご主人様………これで……あの、屍竜を…………。」
手を魔力で覆って、炎でできた美しい剣を受けとる。
「何で……どうして、ここまでするんだ……?俺なんかの……為に…………どうして………?」
「なんか……だなんて…………言っちゃ駄目です。………ご主人様は……私達の…………光ですから。…………この……暗闇に支配された…………地の底で………ようやく見つけた………光………ですから。……だから……生きて…………生きて下さい…………お願い………します。」
そう言って、セレスは倒れ伏したまま、動かなくなった。
「何だよ………何なんだよこれ!?どうして、どうしてお前達がこんな風にならなきゃいけないんだ!?ふざけんなよ!!」
俺の叫びに呼応するように、屍竜が起き上がってこちらを見る。
「お前のせいか………お前が、こんな所に現れやがったから。……………殺してやる…………殺してやる!!」
憎しみに支配された俺は、セレスがくれた剣に全力で魔力を注ぎ込みながら走り出す。
屍竜はダメージが抜けきっていないらしく、動きは先程までよりも更に緩慢になっている。
それを避けながら前進する。
魔力が限界に迫っているが、構わず剣に注ぐ。
目の前にいる屍竜を屠る絶対的な力をイメージする。
やがて赤く燃えていた剣は黒に染まり、禍々しいオーラを放っていた。
目を攻撃した時と同じように跳ぼうとするが、それを覚えていたのか、屍竜は飛び退こうとする。
だが、俺はそれを許さなかった。
「闇縛り!!」
残った魔力で闇の縄を作り、全力で縛り付ける。
俺が最も得意とする魔術だ。
屍竜相手でも、数秒だけだが縛る事ができた。
それで十分だった。
跳んで屍竜の弱点である鱗の前に浮き上がる。
「食らえ………魔剣!屠竜黒炎剣!!」
突き出された黒い炎の剣は、おそらくは逆鱗と呼ばれるであろう屍竜の鱗を貫き、その奥にある心臓に刺さると同時に、強大なエネルギーを放出して爆発した。
その反動で俺の身体は吹き飛ばされる。
ゴロゴロと地面を転がって飛んでいき、やがて止まった。
精神的な疲労を無視してゆっくりと立ち上がる。
断末魔の悲鳴を上げていた屍竜は、もの言わぬ死骸となっていた。
魔眼を発動させて確認をとる。
確かに倒した事を確認し、俺はその場にへたりこんだ。
「勝った………勝ったんだ。…………やったよ俺………なぁ、セレス……サリス……レイ………。何とか言ってくれよ。…………折角勝ったのに………お前達がいないんじゃ…………。」
ふと涙が零れるのを感じた。
涙を流すのなんて、いつ以来だろう。
ここに落とされた時だって、泣いたりしなかったのに。
その時、俺は実感した。
あいつらが、俺にとってどれほど大切な存在となっていたのかを。
このくそったれな地獄で、命を預けた仲間。
それはいつの間にか、何よりも尊い宝になっていた。
それなのに、俺は救えなかった。
こんな馬鹿な俺の為に………皆を死なせてしまった。
頼む………神様なんてものがいるのなら、どうかあいつらを助けてくれ。
俺にできる事なら、何だってするから……。
だからーーー
「お願いだ…………スィーリア!!」
「こんにちはネクロ君…………よく生き延びたわね。」
そして、彼女は現れた。
最上級と上級にはかなり大きな差があります。
屍竜………というかドラゴンはかなり強いです。
マジで一国滅ぼしちゃうレベル。




