第十話 修行
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表層の主を倒した俺達は、いざ深層へ!!……………とはならなかった。
深層の情報もほとんどないし、ここで焦って突入して痛い目を見るのは馬鹿らしい。
という事で、暫くは表層にて修行をしよう、となったのだ。
ちなみに、一応一度は深層に行って屍霊の様子を見てみた。
深層に行くには、階層主の間の奥にある扉を開いて、中にある階段を降りれば良い。
階段を降りて早速、一匹のスケルトンを見つけた。
魔眼を発動したところ、ステータスはこんな感じだった。
【ステータス】
『名前』
なし
『種族』
ワイト・ソルジャー
『スキル』
体術Lv2
槍術Lv3
魔力感知Lv2
魔力操作Lv2
無属性魔術Lv2
おい、進化してんじゃねぇか。
そう突っ込んだ俺は間違ってはいないはず。
スィーリアは言っていた。
魔物が進化するには邪神の祝福が必要だと。
ならばこいつはスィーリアの祝福を持っている事になる。
……………と、最初は思ったのだが、どうやらそれは違うらしい。
なんと、長い間高濃度の魔力を浴びた魔物は、邪神の祝福がなくても進化できるのだと言う。
もちろんそれは正規の進化ではないから、祝福を受けて進化した俺のような存在とは、根本的に格が違うらしい。
しかし、それでも進化は進化だ。
下級と中級のレベルの違いは身をもって知っている。
そんな奴らが溢れているなら、深層はかなり危険な場所のようだ。
……………………え?進化の話を誰に聞いたのか?
スィーリアだよ。
あの女、普通に現れやがった。
しかも話すだけ話して、「表層突破おめでとう。これからも頑張って頂戴ね。」とだけ言い残して消えてしまった。
セレス達は急な邪神の登場に固まっていた。
俺が特殊なだけで、基本的に魔物にとって邪神とは崇める対象なのだろうか。
スィーリアが消えた後、三人はその邂逅に興奮していた。
閑話休題。
つまり、深層は敵が強いしこのままでは不安だから、ここで少しでも強くなっておこう、という事だ。
とは言っても表層の屍霊と戦っても大した経験は積めないから、最近では仲間内で模擬戦をして鍛練をしている。
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「なら、俺とサリスは近接鍛練、セレスとレイは魔術鍛練な。セレス、加減しろよ。」
「はい。」
「畏まりました!」
「え、またっすか?もう自分嫌なんすけど………。」
模擬戦は大抵俺とサリスかセレス、そして余った方とレイが行う。
サリスとやる時は近接、セレスとやる時は魔術の鍛練だ。
多少の怪我なら治すのは簡単なので、割りと毎回容赦なしで戦っている。
一方、レイとサリス、セレスの模擬戦の場合、レイは専ら回避に専念する。
防御力が低いので、回避力を磨こうという訳だ。
セレスにしても魔術を上手く扱う練習になる為、自然とこのペアになる事が多かった。
レイはちょっとでも魔術が当たると、死にはしないが酷いダメージを受けるのは分かりきっている為、毎回死に物狂いで避けている。
「良いじゃないか。お前だって回避の良い練習になるだろ?」
「それはそうっすけどぉ………うぅぅ………。」
涙なんて流して、そんなに鍛練が好きなんだな。
セレスが魔力で手を覆ってレイを引っ張っていく。
レイの悲鳴が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう、うん。
俺は気を入れ直して、サリスに向き合った。
「んじゃ、俺らも始めるか。」
「はい、宜しくお願い致します、ご主人様。」
模擬戦開始。
先攻はサリス。
二本の細剣を手に、走り寄る。
つい最近、珍しく細剣を装備したスケルトンがいた為、倒して没収したのだ。
生前から二つの細剣を使っていたというサリス。
しかしここでは細剣を装備した屍霊などなかなか見つからない上に、俺に会うちょっと前に一本は壊れてしまったらしい。
そういう訳で、今ではきっちり二本装備した万全の状態なのだ。
素早く突き込まれる細剣を避けつつ距離を詰めようとする。
しかしサリスはそれ以上近寄らせまいと連突きの弾幕を張る。
屍霊に体力的な損耗はない。
このままでは何もできずに終わってしまう。
覚悟を決めた俺は魔力を練って目と腕を強化、さらに手に魔力を纏って耐久力を高めた。
何をするつもりかと訝しむサリスだが、それでも手を休める事はない。
止まない連突きに対し、俺は前に出た。
飛んできた突きを右手で払う。
次の突きをまた右手で払う。
払う。払う。払う。払う。
全ての連突きを右手で払いながら、俺は前に進んだ。
サリスはその行動に驚いているようだが、これは何も俺の技術が優れているとかそういう訳じゃない。
突きというのはその性質上、横からの力に弱い。
魔力を纏った俺の手はそう簡単には傷付かないし、安心して素手で剣を払う事ができた。
更に、いくら素早くとも、剣を二本持っていても、突いてくるのは一本であり一点だ。
身体の捻りと腕の押し引きで威力と速度を両立させているが、単純な速度なら手の方が速いし器用だ。
結果、俺は傷一つ負わずに自分の間合いに持ち込んだ。
慌てて後退しようとするサリスに、脚だけを強化して追い縋る。
腕の力だけで突き出された細剣を払うと同時に、腹を蹴り込んで吹き飛ばした。
倒れ付していたサリスだが、暫くして立ち上がった。
「参りました、流石はご主人様です。」
主を褒め称えつつも、少し悔しそうな顔をする。
骸骨だけど。
普段はクールなのに意外と負けず嫌いだ。
「いや、サリスの突きも前より速くなっていたな。一歩間違えれば蜂の巣にされていた。」
「それを全て捌かれるとは思っていませんでしたが………。」
苦笑するサリス。
骸骨だけど。
俺は先程の理屈をサリスに聞かせた。
「なるほど、突きは横からの力に弱い、ですか。」
「あぁ、一点の攻撃は確かに強いが、逆に言えばその一点を逃せば怖くはないって事だ。」
「細剣にそれができる者はそうはいないと思いますが…………それにしても、いつの間に部分強化を……?」
部分強化とは、全身を強化する身体強化の応用技だ。
強化する部位を制限する事で、より強く強化する事ができる。
魔力操作の得意な俺にとっては汎用性の高い技だが、一般には高等技術だとされていた。
「まぁ、俺だって敵を縛ってばかりじゃいられないさ。」
そう言って軽く肩を上下させる。
「サリスの今後の課題は、攻撃手段を増やすのと、接近された時の対処だな。細剣だって突きしかできない訳じゃないんだ。払い一つできるだけでも、戦術の幅が広がるんじゃないか?」
「そうですね………生前、この突きだけで勝ち続けていたので、甘えてしまっていたのかもしれません。」
「それから、俺が近付いた時に慌てて退いたよな?あの時に蹴りの一つでも飛んできたら、意表を突かれたんだが。」
「なるほど、剣を持っているからと言って、それに執着する必要はない、と。」
「要は勝てれば良いんだ。その為に使えるものは、活用しないとな。」
「助言して頂き感謝致します。宜しければ、もう一度お相手して頂きたいのですが。」
「もちろん良いぞ。んじゃ、やろうか。」
こうして俺達は着実に強くなっていった。
レイは暇を見つけては深層のマッピングや敵の情報なんかを偵察しに行ってくれている。
未だ誰にも見つかっていない、と自慢気に話していた。
準備は整った。
外の世界へ行く為に。
ファンタジーを謳歌する為に。
いざ、深層へ。
骸骨だけど。
たまに言っておかないと忘れてしまいそうになります。
いつの間にか頭の中ではサリスがクーデレ美少女に…………。
いえ、骸骨ですけど。