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死霊の異世界カーニヴァル  作者: 豚骨ラーメン太郎
第三章  【悪霊の墓】表層
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第八話  死に際の追想

「なぁ、前から思っていたんだが…………お前達、強くないか?」


「自我のある屍霊なのですから、強いのは当然ですよね?」


セレスが俺の質問に対して不思議そうにそう答える。


ある程度の実力者は屍霊となっても自我を持っている。


ならば、自我のある屍霊が実力者であるのは自明の理だ。


それはそうなんだが…………。


「いや、それにしたって強すぎだろう。他にも自我を持った屍霊に会ったが、お前達ほど強くなかったじゃないか。」


「私達は生前の天職が特殊ですから。」


剣聖、賢者、忍者だもんな。


あまりにも都合が良すぎる気もするが。


「そもそも大抵の実力者は犯罪犯してこんなところに落とされませんから。僕達のような超希少な天職を持った人間は特に。」


サリスが冷静に説明する。


「あぁ、そりゃそうか。なら俺は本当に運が良かったんだな。」


「でも、深層に行けばもっと強い屍霊も出てきますよ。」


ふーん、そうなのか………。


………………………え?


「ちょっと待て、深層って何だ?」


初めて聞いたぞそんなの。


「え………もしかしてご主人様、ご存知なかったんですか?」


サリスが驚いたように聞いてくる。


「あぁ、初めて聞いた。その深層ってのは何なんだ?」


「…………申し訳ありません、失念しておりました。そう言えばご主人様はこのダンジョンに来てそう長くはないのでしたね。………実は、【悪霊の墓】には二つの階層があるんですよ。一つは現在僕達のいる表層。そしてもう一つはこの下にある深層です。」


そう言ってサリスは地面をトントンと足で叩く。


「深層には、表層の屍霊よりも罪深く、そして強い屍霊がいるという話です。」


「ほう、そうだったのか。つまり攻略する為には、その深層に行かなけりゃなんない訳だ。……どうやってそこに行くんだ?」


「表層の主を倒せば降りれるはずです。ダンジョンはそういうものですから。」


「表層の主、か。やっぱり強いのかね。」


「そりゃ強いっすよ。」


今まで黙っていたレイがぬぅっと現れて言った。


「レイは見た事があるのか?」


「えぇ、自分は表層ならほぼコンプリートしてるんで。」


「表層の主はどんな屍霊なんだ?どこにいる?」


「旦那と同じレヴァナントっすよ。ここからそう遠くない所にいるっす。」


「……おい、どうしてそれを早く言わない?」


「も、申し訳ないっす。ダンジョンの階層主は近付かなければ向こうから動く事はないっすから、もうちょっと近くなってきたら言おうと思ってたっす。」


「あぁそういう事か。いや、気にしないで良い。事情は理解した。」


「それは良かったっす。」


その後、レイの案内で表層の主に最も近い空域に入った。


休憩ついでに作戦を立てようと思ったのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「よし、なら作戦はこれでいこう。」


レイから聞いた情報を元に、俺達は対表層の主戦の作戦を立てた。


レイは他の屍霊が表層の主と戦うのを、何度か見た事があるようだ。


ちなみに、ダンジョンの階層主というのはダンジョンが生成される時に生まれるらしく、他の屍霊のように悪人が落ちて屍霊となった訳ではないようだ。


だから力はあっても自我はなく、知能はたかが知れている、とのこと。


レイが言うには、表層の主であるレヴァナントは筋力や耐久力は優れているが、素早さに関してはそうでもなく、種族的に魔術への耐性は低い為、基本的にはいつも通りの戦い方で良いようだ。


しかしその筋力から生み出される破壊力は目を見張るものがある為、今回サリスは補助的な役割にして、セレスの火属性魔術を主攻にする事にした。


サリスは納得いかなそうだったが、これも安全の為だと言い聞かせた。


ぶっつけ本番にはなるが、俺達なら大丈夫だろう。


それが油断である事にも気付かずに、俺は軽い足取りで階層主の間へと向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



扉があった。


レイに案内されるままに進むと、道の先には空間に似合わない立派な扉があったのだ。


黒や紫を基調にした見た事もない宝石なんかで装飾してある。


その威容に少し呑まれそうになるが、気を張って扉を押し開いた。


中は円形の空間で、見た目は扉の外とそう変わらない。


まるで空域にでも入ったみたいだった。


しかし空域と違う点が一つ。


それは、真ん中にポツリと、一体の屍霊がいた事だ。


魔眼を発動する。




【ステータス】

『名前』

 サーフィス

『種族』

 レヴァナント

『スキル』

 体術

 格闘術

 再生

 ????

 魔力感知

 魔力操作

 闇属性魔術




うん、強いな。


現在の魔眼はレベルまでは見えないが、スキルを見る事はできる。


流石に保有スキルが多い。


しかも一つだけ魔眼でも見れないスキルがある。


…………わからない事を考えても仕方ないか。


それよりも、恐れていた事が一つ実現。


こいつ………名持ちだ。


俺は知り得た情報を三人と共有する。


とりあえず作戦通りにするしかない、と一歩を踏み出した瞬間、表層の主ーーーサーフィスは顔を上げ、俺達を睨み付けて唸り声を上げる。


ゴクリッ……と固唾を飲む。そして。


「作戦通りにいくぞ!!」


「「「はい!!」」」


戦いが、始まった。


サーフィスはドスドスに走ってくる………が、レイの言うようにその速度は速いとは言えなかった。


魔力を練り上げ、魔術でサーフィスを縛り付ける。


サーフィスは動けないのを理解し、魔術を使おうとするが、サリスが細剣を数ヶ所突き刺して妨害する。


スケルトンを粉々にするサリスの連突きだが、サーフィスの身体を貫通する事はできなかった。


耐久力も高いというのは確かなようだ。


魔力操作を邪魔されて隙を晒したところに、セレスの全力の火属性魔術が命中した。


大規模な魔術の為、俺とサリスも距離を取って煙が晴れるのを待つ。


煙が晴れると、片膝をついているサーフィスが見えた。


瀕死とまでは言えないが、少なくないダメージを負ったようだ。


ちなみにだが、レイは上空から戦闘を俯瞰し、何かあれば援護する遊撃ポジションにいる。


「よし!確実にダメージは残っている!このまま繰り返すぞ!!」


「かしこまりました!」


「了解です。」


俺はもう一度魔術でサーフィスを縛り付けた。


魔術を使われそうになったらサリスが妨害し、魔力を練り上げ次第セレスが魔術で攻撃する。


この流れをあと二回繰り返し、ついにサーフィスは身体を炭にして倒れ伏した。


「よし!やったぞ!!」


「やりましたねご主人様!!」


「お疲れ様でした。」


「自分の出番なかったっすね。」


レイがプカプカと降りてくる。


「いやぁ……それにしても圧勝でしたね。皆さんマジでお強いっす。」


「でも私はもう魔力が少ししか残ってないです。あの魔術は一撃に使う魔力がかなり多いですから。」


「セレス、良い攻撃だった。サリスも、ナイスアシストだ。レイもお疲れ様。お前がいたから安心して動けたよ。」


一応主として、頑張った部下を労う。


「ありがとうございます、ご主人様!!」


「お褒め頂き光栄です。」


「自分は本当に何もしてないっすよぉ。」


そう言いながらも満更でもなさそうなレイ。


「いやぁそれにしても、これでやっと深層に行けるっすねぇ。自分も行くのは初めてなんで、久々に緊張するっす。…………ところで、このレヴァナントどうします?」


そう言いながらサーフィスの身体に近寄るレイ。


「どうするって言ってもな………。使い途もないし、放っておくしかないんじゃないか?」


そう思いながら、サーフィスに向かって魔眼を発動させた。


倒した後なら、あの謎のスキルが見れるかもしれないと思ったからだ。


しかし、死んだ魔物に魔眼をかけても、ステータスを見る事はできない。


発動してからそれを思い出したのだが、今回は運が良かった。


ーーーそいつがまだ生きている事を知る事ができたから。


魔眼によってサーフィスのステータスが見える。


ステータスが見えるという事は、サーフィスはまだ生きているという事だ。


レイに注意を促そうとした俺は、一つのスキルに目を奪われた。




【ステータス】

『名前』

 サーフィス

『種族』

 レヴァナント

『スキル』

 体術

 格闘術

 再生

 瀕死暴走

 魔力感知

 魔力操作

 闇属性魔術




ーーー瀕死暴走


字面から嫌な予感がする。


気付いた時には、俺はレイに向かって走り出していた。


レイは急に走り出した俺を見て目を丸くしている。


その後ろでサーフィスがのそりと立ち上がった事に気付いていない。


いや、すぐに気付いて振り返った。


気配に敏感なレイだからこそだ。


しかし、それでも遅かった。


サーフィスの身体は赤黒い不気味なオーラを纏っており、先程までとは一線を画す速度で、レイに腕を叩き付けようとする。


見ればわかる。


あれは魔力を纏っている。


その状態で殴られれば、霊体でも傷付いてしまう。


それも相手は筋力の高いレヴァナント。


しかも、おそらくは例のスキルによって更に強化されている。


一方レイの防御力は高くはない。


その攻撃に当たればどうなるか。


そんなもの、考えるまでもなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



レイは思った。


走馬灯を見るのなんて何百年振りだろう、と。


折角仲間を見つけたのに。


折角外に出れるかもしれないと思ったのに。


折角……折角、真の主かもしれない人に出会ったのに。


過去、主であった貴族の失態によって命を散らしたレイにとって、誰かに仕える事にあまり良い思い出はなかった。


しかし、心の底からネクロを慕うセレスやサリスの姿を見て、こう思ったのだ。


この人なら、と。


この人なら、自分の力を存分に活用してくれるのではないか、と。


かつての主はそうではなかった。


ただ己の欲望の為だけに自分を道具のように扱い、そこに主従の絆など存在しなかった。


彼は憧れていたのかもしれない。


真の主に仕える事に。


自ら慕い、自ら利用されようとする程に優れた主を持つ事に。


だから惹かれたのだ。


彼らの関係に。


主が従者を慈しみ、従者が主を尊重する。


その輝かしく眩しい絆に、どうしようもなく惹かれてしまった。


だから今一度仕える事にした。


ネクロが真の主たり得るかを知る為に。


しかし、どうやらそれは叶わないようだ。


彼は既に理解していた。


この一撃からは逃れられない事を。


そして、この一撃を食らってしまえば、自分という存在が消えてしまう事も。


目を閉じて自らの歩んだ軌跡を思い浮かべる。


生前の事、死んでからの事。


しかし、最後に思い出されるのは彼らとの事。


未だ会って数日しか経っていないのに、こんなにも彼らを大切に思う自分がいる事に驚いた。


生前の冷酷だった自分は、とうの昔に消えてしまったようだ。


寂しかったのかもしれない、と思った。


この悪霊の集う地の淵で、ずっと一人で逃げ続けていた。


寂しかったのかもしれない。


だからこんなにも…………。


しかし、今さらわかったところでどうなると言うのだ。


目を開ければ、今にも自分を殺さんとする絶望が迫っていると言うのに。


………いや、敢えて目を開けて堂々と迎えるべきだろうか。


仮にも主と仰いだ人の御前だ。


最期に女々しい姿を見せる訳にはいかないだろう。


そう思って目を開いた。


彼の目に映ったのは殺気の籠った腕ではなく。


配下を守らんと身を投げた、主の背中であった。

主人公が実は弱いんじゃないか、ですって?


そんな事はありません。


ネクロ君がセレス達と一対一で戦ったとしたら、手段を選ばなければネクロ君が勝ちます。


身体能力は上でも技量は負けていますので、本来ならセレスやサリスどころかレイに勝てるかも怪しいところですが、そこで勝つのがネクロクオリティ。


彼の強みは、何でもあり(バーリ・トゥード)でこそ生きるのです。


身体能力が上ならごり押しで勝てる、というのも間違いです。


本物の技術の前には、ちょっとした身体能力の差なんて無意味です。


ロジャー・○ーロンだって渋○先生にボロ負けしましたよね?


つまりはそういう事です。




※以上は作者の経験に基づいた持論です。

 これが絶対とは言いませんし言えません。

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