第七話 三人目
ブックマークが200件を越えました!
皆さんありがとうございます。
ここに落ちてどれほどの時間が経ったのだろう。
ここに陽の光が射す事はなく、昼夜なんてものはありはしない。
更に屍霊の身体は疲れない・眠らない・腹が減らないという三つの要素を兼ね備えた安心設計なので、時間など気にする必要もない。
適度に休憩を取りながら、適度に鍛練をしながら、ほとんどの時間はダンジョンを探索した。
それくらいしかできる事がなかった。
「んじゃ、そろそろ行くか。」
体感で一時間程の休憩を挟み、探索を再開する。
出てくる屍霊を縛り、蜂の巣にし、燃やした。
ーーー主人である俺の攻撃が一番地味って、どうなんだろうか………。
そう思わずにはいられなかった。
お陰で拘束のプロになった。
闇縛りは最も多く使っている魔術だ。
微妙に納得がいかないが、アイツらから獲物を横取りできる自信はない。
頼めば譲ってくれるのだろうが、そこまでして倒したい訳でもなかった。
相手しなくても簡単に倒せるのはわかってるし。
あのゾンビ以降、数人の自我を持った屍霊にも会ったが、憐死人と呼ばれる屍霊はいなかった。
まぁ憐死人だったとしても自我を持っているかはわからないからな。
セレスとサリスの出会えた事が幸運だっただけで、出会う確率はそう高くはないだろう。
そう結論付けたその日、憐死人を見つけた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつも通りの探索中、やけに素早いゾンビと戦闘になった。
おそらく、生前から回避特化の戦闘支援職だったのであろう、そいつは攻撃は下手だがとにかく回避が上手かった。
この時はローテーションで戦う事にしており、セレスの番だったのだが、色々と不運が重なった。
異常に素早い相手なので、単発の魔術では当てるのが難しい。
セレスの魔術は威力は高いのだが、安定性に微妙なものがあった。
範囲魔術を使えば一瞬で終わるのだが、たまたまそこは狭い地形で、あまり大規模な魔術を使えば自分や俺達に被害が出る可能性があった。
ならばサリスや俺に代われば良いのだが、セレスは意固地になって決して代わろうとはしなかった。
いい加減苛つきが限界を迎えたセレスは、土属性魔術で退路を塞ぎ、風属性魔術で火球を加速させるという、高度な技術を覚醒させた。
余程苛ついていたのだろう、セレスは一発だけでなく何度も火球を飛ばしていた。
その中の幾つかが失敗し、斜め上に飛んでいった。
やはり安定性に不備があるな、なんて思っていると、その飛んでいった方向から声が聞こえた。
「うわっ!危ないっす!!」
セレスは気付いていないが、サリスも聞こえたようだ。
不審げな顔で見上げている。
ちょっと気になるな。
「セレス………セレス!!魔術を止めろ!!」
一度では気付かなかったセレスだが、強く言うとはっとして、命令通りにした。
静寂の中で上を見るが、そこには何もない。
「なぁサリス、さっき確かに聞こえたよな。」
「はい、僕にも聞こえました。もしかしたら何かがいるのかもしれません。」
「だよな……。よし、何者かわからないが、言葉を理解しているなら出てきてくれないか?」
そう言うが、反応はない。
「出てこないのならば敵だと判断する………。」
そう言って俺は闇を作り出す。
闇を辺りに広げて無差別に攻撃しようとすると。
「ちょ、ちょっと待って欲しいっす!!」
そう言って、一人のレイスが姿を現した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なら、お前は憐死人なんだな?」
あれから近くの空域に場所を移し、そこに入って邪の者でない事を確認してから、俺達はその男の話を聞く事にした。
「はい、そうっす。自分はあまり戦闘向きじゃないんで、あぁして姿を隠して暮らしているんす。」
話を聞く限り、この男はセレス達よりも更に前の時代の人間だったようだ。
とある国の有力貴族の子飼いで、その国の暗部と呼ばれる部隊に所属していたらしい。
主に他の貴族や国の情報収集なんかを行っており、最終的には暗部の隊長を任されていたのだとか。
ならば生前はその手の天職を持っていたのかと聞いてみたところ、何と天職は忍者であったと言う。
忍者は剣聖や賢者と同じくらい希少な天職だ、とクリストル王国の貴族は言っていた。
浅黄が忍者の天職を持っていたからな。
こんなところにも先輩が……。
ちなみに名前はないようだ。
屍霊になった時に名前は捨てたらしい。
話を戻すが、暗部の隊長まで任される程の人間がなぜこんな所にいるのかと言うと。
「いやぁ……自分の雇い主である貴族の悪事が国にばれちまいまして。部下達を逃がす為に、仕方なく………。」
という事らしい。
なかなか人情に溢れた良い奴だったようだな。
死んでここに落とされてからは、その技術を生かして隠れて過ごしていたらしい。
戦闘は得意じゃないと言っていたが、天職が忍者であったのなら、そこらへんの騎士よりはよほど強かったのではないかと思う。
「じゃ、邪神の祝福!?進化!?それ、まじっすか!?」
俺達がここから出る事を目標にしていると教えると、目を輝かせて質問を重ねてきたので、いくつかの事を教えると更に目を輝かせた。
レイスなのに表情が豊かだな。
「あぁ本当だ。見た目ではわからんだろうが、俺達は三人とも中級の魔物だからな。」
「す、凄ぇっす!驚いたっす!」
テンション高いな。
そして今更だがその喋り方は何だ?
こいつ本当に暗部だったのか?
と不思議に思って聞いてみると、生前はもっとクールだったのが、長い年月を経ていつの間にか変わってしまったらしい。
まぁ数百年も一人でいたなら自分のキャラなんて忘れちまうか。
そんな身も蓋もない事を思った。
「あ、あのぉ………お願いがあるんすけど………。」
何やら手を擦り合わせてニヨニヨと笑っている。
いかにもな下っ端の仕草が似合う男だ。
「お、おう……何だ?」
「実はですね、自分を旦那のお仲間に加えて貰いたいんすよ。」
旦那って何だ。
「お前もここを出たいのか?」
「もちろんっす!!自分がどれほど外の世界を夢見てきたか………。」
半透明の涙を流して外への想いを熱く語る。
そりゃ何百年もいるなら、外の世界への憧れは俺達よりも強いだろう。
悪い奴ではないみたいだし、偵察特化なら俺達にない部分も補ってくれるかもしれないから、連れていくのも良いかもな。
一応、静かに後ろに控えている二人にも聞いてみた。
「なぁセレス、サリス、お前達はどう思う?」
「そうですね、私としては歓迎です。悪い霊じゃないようですし。」
「僕も賛成です。これから探索を続けていくなら、偵察職は有用になりますから。…………ただし。」
と続けて、サリスが細剣を抜いて男に突きつける。
「一つ言っておく。ご主人様の配下になる以上、ご主人様を裏切る事は僕が絶対に許さない。もしその忠誠に傷が入ったのなら、その時は僕がこの手で断罪する。」
怖ぇよ。
ていうか何で配下なんだ。
普通に仲間で良くないか?
「いや、普通に仲間で………」
「もちろんっす!!この魂に賭けて、旦那を裏切るような真似はしないっす!!」
人の話聞けよ。
「なぁ、別に配下じゃなくて良くないか?普通に仲間で………。」
「それはいけませんご主人様。邪神の祝福の恩恵を受けるのならば、ご主人様の配下でないといけないのです。」
あ、そうだった。
「という訳で旦那!自分を旦那の部下にして下さいっす!!」
地面に頭をぶつけそうな勢いで土下座をする。
どんだけ外に出たいんだよ。
「……わかった。お前を俺の仲間に加えよう。………そうだな、お前の名前は………レイ、だ。」
安直だが、呼びやすいし良いだろう。
名付けをすると、レイは身体を震わせて感動していた。
「な、名付けまで………旦那、感謝するっす!!」
これでちゃんと俺の配下になったはずだ。
早速ステータスを見せてもらおう。
魔眼発動。
【ステータス】
『名前』
レイ
『種族』
レイス
『スキル』
物理透過Lvー
体術Lv3
短剣術Lv2
投擲術Lv2
気配察知Lv3
気配隠蔽Lv4
魔力感知Lv3
魔力操作Lv2
無属性魔術Lv2
闇属性魔術Lv1
『称号』
元忍者
ネクロの従者
名持ち魔物
……………ふむ。
まぁ生前の件を考えたらそうおかしな事ではないのだが。
何というか……………
…………………強くね?
何かこんなんしか出てないからわかりにくいかもですけど、普通はレベル4のスキルなんて持ってないです。
レベル3持ってたら憧れになるくらいです。
この従者達……強い(確信)