第二話 幼馴染み
HRが終わり、妙に長く感じた学校から解放された僕は、手早く荷物をまとめて教室を後にした。
なにやら春香が話しかけようとしているように見えたが、秋人が防いでくれたようだった。
昇降口で靴を履き替えようとした所で、ふと思い出した。
図書室で借りた本の期限が今日までだった事を。
外靴を戻して踵を返す。
早く返して家に帰ろう。
そう思った。
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図書室の扉を開けると、既に数人の先客がいた。
その中に知っている顔を見つけた。
サラサラとした金髪を纏めてサイドに流している、春香にも負けない美少女だ。
しかし、鋭い目つきと他者を寄せ付けない雰囲気から、一人でいる事が多い。
彼女の名は浅黄結、クラスメイトだ。
一見不良に見える彼女だが、実は読書が趣味だという事を僕は知っている。
僕自身、図書室にはそれなりに通う方だから、ここで顔を合わせる事も多い。
話した事もある。
皆が言う程話しにくい人じゃない。
しかし今日は早く帰りたいから、素知らぬ顔で通り過ぎようとした………のだが。
「ちょっと、挨拶くらいしても良いんじゃない?」
そう言って軽く睨み付けてくる。
鋭い目付きで睨まれたら中々に怖いものがあるが、僕は平然を装って応えた。
「あぁ、ごめん。何か集中してるみたいだったからさ。……邪魔しちゃ悪いかなって。」
「別に……。富士崎は今日は何しに?」
「本を返しに来たんだよ。期限が今日までだったのを忘れていてね。」
苦笑いを浮かべる僕に、浅黄さんは呆れた様子を見せる。
「あんた、この前もそんな事言ってなかった?意外に忘れっぽいんだね。」
そう言って軽く笑う。
笑った顔に少しだけ見とれてしまった。
いつもそんな風に笑っていれば良いのに。
柄にもなく、そんな事を思った。
「ん、どうかしたの?」
「あ、あぁ、いや……何でもないよ。それじゃ、僕はこれで……。」
「そうかい。それじゃ、またね。」
「うん。」
浅黄さんと別れた僕は、手早く本を返却し、下校した。
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スーパーで買い物して家に帰ると、家の前に秋人がいた。
「よぉ、おかえり根黒。遅かったな。」
「秋人……どうしたの?」
「特に何もねぇよ。ただ久し振りに根黒と遊ぼうかなってな。」
「それなら連絡くれれば良かったのに。……まぁ良いや、入りなよ。夕飯はどうする?食べてくなら作るけど。」
「お、良いのか?悪いな!ご馳走になるよ。」
家に上がってお茶を出した。
料理をする間、秋人が風呂の掃除をしてくれた。
あれこれと作業をして、二人でテーブルに着く。
今日のメインは唐揚げだ。
秋人は大好きな唐揚げに目を輝かせていた。
鶏肉を多めに買っておいて良かった。
「ごちそうさん。いやー旨かった旨かった。根黒の料理久し振りに食ったな。また腕を上げたんじゃないか?」
「お粗末様。まぁ、一人暮らしにも慣れてきたからね。」
「最近オバさんには会ってるのか?」
「先週会いに行ってきたよ。未だにあれこれ心配してるんだから、あの人は……。」
「あはは、それだけ根黒が大事なんだろうよ。」
秋人の言うオバさんとは、僕が中学を卒業するまで世話になっていた孤児院の院長の事だ。
僕がまだ幼稚園児だった時に両親は事故で亡くなった。
院長は僕にとっての母親みたいなものだ。
多少過保護過ぎる人なのだが。
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それから秋人の色々な事を話した。
春香がいつも僕の事を気にしているとか、それを止めるのが大変だとか。
もう一人の幼馴染みである真冬が僕と遊びたがっているとか。
また今度会う約束をして、秋人は家へ帰って行った。