第六話 忠誠の証
進化の結果、俺はレヴァナントという中級の魔物になった。
身体能力が結構上がっているようだ。
スキルレベルも上がって言う事なしだ。
ふと気付くと、ステータスを眺めてニヤニヤとする俺を、セレスとサリスが心配そうに見つめている。
「………あー………さて、まずは…………そうだな、お前達のステータスを見せて貰おうか。」
何とか話を作る。
「ステータスを……?ご主人様、鑑定宝珠をお持ちなんですか?」
「いや、俺は魔眼というスキルを持っていてな。これで人や魔物のステータスを見る事ができるんだ。」
「す、凄いです!鑑定宝珠無しでステータスを見られるなんて!!」
セレスが驚いて大声を上げる。
サリスも目を見開いて静かに驚いている。
「まぁ、とにかくそういうスキルがあるってのを覚えといてくれ。………ステータス、見ても良いか?」
「もちろんです。お好きなだけご覧下さい。」
「僕も大丈夫です。」
サリスの一人称は僕なのか………。
どうでも良いか。
お言葉に甘えて、ステータスを見よう。
魔眼発動。
【ステータス】
『名前』
なし
『種族』
スケルトン
『スキル』
魔力感知Lv3
魔力操作Lv3
火属性魔術Lv4
風属性魔術Lv3
土属性魔術Lv2
魔力回復促進Lv2
『称号』
元賢者
ネクロの従者
【ステータス】
『名前』
なし
『種族』
スケルトン
『スキル』
体術Lv3
剣術Lv4
見切りLv3
魔力感知Lv2
魔力操作Lv2
無属性魔術Lv2
『称号』
元剣聖
ネクロの従者
………………………強くね?
二人ともレベル4のスキル持ってるし。
生前もかなり強い人間だったんじゃなかろうか。
しかし、名前はないのか。
名持ちではなかったんだな。
……………ふむ。
「セレス、サリス。」
「はい、何でしょう?」
「どうか致しましたか?」
二人は不思議そうに首を傾げる。
「お前の名前はセレスだ。」
セレスの方を向いて言った。
「そして、お前の名前はサリスだ。」
今度はサリスの方を向いて言った。
二人は、今更何を言うのだろう、というような顔をしていたが、突然大きな力が沸いてきて、事態を把握した。
「ご、ご主人様!まさか、私達に名付けをされたのですか!?」
「あぁそうだ。……どうだ?」
「どうだと言われましても…………。」
「力が沸いてきます。これならもっとご主人様の力になれる。」
セレスは未だに混乱しているようだが、サリスは名付けを受け入れたようだった。
「何だセレス、もしかして嫌だったか?」
そんな反応をされるとちょっと心配だ。
「め、滅相もございません!!ご主人様より名を頂いて、嫌な訳がありません!!」
なら良かった。
「お前達が俺の仲間になった証だ。受け取ってくれ。」
「うぅ………過分なる褒美、感謝致します。」
「仲間…………ありがとうございます。」
セレスは泣いているしサリスも心なしか笑っている気がする。
スケルトンだけど。
スケルトンだけどな。
魔眼を発動してステータスを見ると、ちゃんと名前が付いていた。
「さて、お前達に余裕があるなら、探索にでも行きたいんだが?」
「もちろん大丈夫です!」
「お供します。」
という訳でレッツゴー。
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探索しました。
…………え、戦闘?
スケルトンはサリスが細切れにしてレイスはセレスが焼き払いましたが?
俺の出る幕なんて無かった。
だってアイツら俺に戦わせてくれないのだから。
セレスはわかるがサリスは何なんだ。
何をどうしたら細剣で骨を細切れにできるんだ。
剣聖すげぇ。
いつか再会したら、秋人もそんな人外になっているのだろうか。
あまりにも暇すぎて、そんなどうでも良い事を考えていた。
すると、道の先から初めて見る屍霊が。
いや、正確には見るのは初めてではない。
何故ならそいつは…………ゾンビだったから。
とは言っても、俺がゾンビだった頃と比べても、その違いははっきりしていた。
だって所々腐ってるし。
正直近付きたくもないのだが、折角の初ゾンビだ。
色々と試させてもらおう。
そう思って近付くと。
「おっと、同類じゃねぇか。」
このゾンビ、喋りやがった。
「おいおい、無視すんなよぉ。寂しいじゃねぇの。」
何か馴れ馴れしいぞこいつ。
「お前さんも俺のお仲間だろぉ?こんな地獄へ落ちるくらいだ。随分悪い事したんじゃねぇの?」
あぁ、こいつは……………悪霊か。
当たり前か。
【悪霊の墓】は悪人共が落とされる場所だ。
セレスとサリスがたまたまそうじゃなかっただけで、きっとこれが普通なんだろう。
そんな事を考えている間にも、そのゾンビはペラペラと喋り続ける。
「お前は一体何をしたんだ?殺人か?強姦か?まさか盗難なんて小さい事言わねぇよな?ちなみに俺は強姦と暴行だ。貴族の娘をやっちまってな。あの時の事を思い出したら、今でも笑えるぜ。お父様に言いつけてやるーなんて言って……かっかっかっ、最後には何も言えなくなってたけどな。他にも………」
「黙れよ。」
「あん?」
「黙れって言ったんだよ、この腐れ外道が。」
「おーいおい、何言っちゃってんの?外道って………お前さんだって一緒だろ?こんな所に落ちてんだから、生きてる時には色々と…………いや待てよ?お前さんまさか、憐死人か?」
「憐死人?何だそれ?」
「冤罪だとか私怨だとかでここに落とされた憐れな屍霊の事を、ここでは憐死人って言うんだよ。………そうか、お前さん憐死人だったのか。」
「だとしたら何だ?」
「いや別にぃ?………くくくっ……くはっ…………憐死人とかまじかわいそぉ。かわいそすぎて笑えるぜ……くけけけっ!!」
うぜぇ。
「まぁ、憐死人は憐死人らしく隅っこで泣いてな。所詮、お前さんはその程度のーーー」
「今すぐその薄汚ない口を閉じろ。」
そう言ったのは、サリスだった。
「あぁ?たかがスケルトンが何偉そうな事言っちゃってる訳ぇ?」
「そんなものは関係ない。貴様はご主人様を侮辱した、死ぬには十分な理由だ。」
怖ぇよ。
止めようとしたら、セレスに肩を掴まれた。
「ここはサリスに任せて下さいご主人様。……………本当は私が焼き滅ぼしたいのですが。」
怖ぇよ。
ぼそりと焼き滅ぼすとか言うなよ。
「……てめぇ、あんまデカイ口叩いてると、やっちまうぞ?たかがスケルトンが出しゃばってんじゃねぇよ。どうせなら後ろのゾンビを出しやがれ。」
残念、ゾンビじゃなくてレヴァナントだ。
「言葉の節々に教養の無さが滲み出ているな。貴様のような雑魚以下のゴミ虫は、ご主人様がお相手をする価値もない。僕の手で真なる地獄へ送ってやろう。」
怖ぇよ。
サリスってこんなに毒舌キャラだったのか?
今は懐かしいスーパーメイドのミレイが可愛く見えそうなくらいの毒舌だな。
「ちっ………まぁいいや、このスケルトンぶっ潰して、そこのゾンビを食らうか。」
だからゾンビじゃなくてレヴァナントだ。
「お前如きがご主人様を食らうだと……?笑えない冗談だ。地獄で己の弱さと不運を嘆くが良い。」
「てめぇ、本当にむかつく奴だなぁ。んな事言ってると、本当にやっちまーーー」
次の瞬間、サリスが抜いた細剣がゾンビの足を貫いていた。
「ーーーは?」
ゾンビは何が起こったのかわからなかったのだろう。
呆けた表情で固まっていた。
サリスは細剣を引き抜くと、次に逆の足を貫く。
また引き抜いて今度は右肩。次に左肩。
腹、胸、股、喉、目、口。
次々と目にも止まらぬ速さで貫いていき、あっという間にゾンビは蜂の巣になった。
当然ながら、いくらゾンビでもここまでされては生き残れない。
既に遠い世界へ旅立っている。
サリスを細剣を振って血を払い、剣を直してこちらに向き直った。
そして深く頭を下げる。
「余計な時間をかけてしまい、申し訳ありませんでした。」
「あ、あぁ、いや…………それは別に気にしてないんだけど。」
「そうでしたか。何やら困っておられるご様子でしたから。」
「いや、困ってるというか…………そんなに怒る事だったか?」
「当然です。あのゴミ虫はご主人様を侮辱したのですから。叶う事ならあと一千回程殺したいところですが。」
「その通りです。サリスが出なければ私が消し去ってやりましたのに。」
怖ぇよ。
そしてセレス、お前もか。
「お、おう、そうか。」
何でこいつらそんなに忠誠心高いんだ?
今日会ったばかりだよな?
これがチョロインというやつか?
「…………ご主人様、僕達は本当に感謝しているのです。ご主人様は、ダンジョンからの脱出を夢見ながらも半ば諦めていた僕達に希望の光を灯して下さり、名前まで与えて下さいました。そして、仲間とまでも言って下さったんです。…………僕は決めました。この身朽ち果てるその時まで、ご主人様に全てを捧げて仕えると。」
おぉ……サリスが饒舌だ。
これは珍しい。
「私もサリスと同じ気持ちです、ご主人様。不肖セレス、ご主人様の為に全てを投げ出す覚悟です。」
「あー………まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけどな。自分の事も考えるんだぞ?お前達も楽しくないと、何か俺も嫌だし。」
俺の最大の目的は異世界を楽しむ事だからな。
パーティメンバーが楽しんでくれなきゃ、そんなの嘘だ。
「ご主人様………。」
「うぅ………ご主人様ぁ…………。」
サリスは感涙を堪えるような声を上げる。
セレスは泣いてる。
お前骸骨だよな?どこから涙出てるんだ。
「まぁそういう訳で、俺達は全員で楽しみながら脱出を目指すんだ。良いな!!」
「はい!!」
二人の声が重なった。
『条件を達成したわ。従者の種族が進化するわよ。おめでとう、やったわね。』
またスィーリアのアナウンスだ。
「!?…………い、今のは一体?」
「急に声が………。」
「おぉ……お前達にも聞こえたのか。今のは邪神の声だ。」
二人は俺の言葉に驚いている。
固まっている二人から闇が出てきて、そのまま二人を包んでいく。
今回の条件は何だったのだろう。
状況から考えると………忠誠心とか?
もしくは絆とかかもしれないな。
さて、二人はどんな進化を遂げるのか。
進化はやはり数分で終わった。
闇から出てきたのは、二体の骨人間。
…………あんまり変わんなくね?
と思ったが、俺の時もそうだったな。
下級と中級は、あまり見た目に差がないのかもしれんな。
初めての進化を果たしてそわそわしている二人を魔眼で見る。
【ステータス】
『名前』
セレス
『種族』
ワイト・マジシャン
『スキル』
魔力感知Lv4
魔力操作Lv4
火属性魔術Lv5
風属性魔術Lv4
土属性魔術Lv3
魔力回復促進Lv3
『称号』
元賢者
ネクロの従者
名持ち魔物
【ステータス】
『名前』
サリス
『種族』
ワイト・ソルジャー
『スキル』
体術Lv4
剣術Lv5
見切りLv4
魔力感知Lv3
魔力操作Lv3
無属性魔術Lv3
『称号』
元剣聖
ネクロの従者
名持ち魔物
おぅ………。
強すぎだろ。
スキルレベル5って………。
これ、俺が主で良いのか?
むしろ俺の方が格下なんじゃ…………。
そんな事を考えて、一人で悶々としていると。
「ご主人様、私進化しちゃいましたよ!進化!!」
セレスはぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。
見た目は骸骨だ。
「これで、またご主人様の力になれる。」
サリスも無垢笑みを浮かべて喜んでいる。
見た目は骸骨だがな。
………俺の見た目も青白い肌したゾンビだが。
とにかくここは。
「よし行くぞお前達!!俺達の冒険は、ここからだ!!」
「はい!!」
※物語は終わりません。
今更ですが、ネクロ君がセレスとサリスに勝てたのは偶然ではありません。
しかし簡単そうに見えて実はギリギリの勝負でした。
邪神の祝福+名持ち+ゾンビ
という事で、存在の格そのものは圧倒的に上でした。
更に無属性魔術の身体強化によって意表を突く事で、かろうじて勝ちを拾った……………という感じです。
スキルレベルが表すように、技術的な面では今のネクロ君は、二人の足元にも及びません。
(魔力操作だけはセレスとタメ張れそう)