第四話 魔術
魔力の操作。
言葉にするのは簡単だが、それを実行するのは難しい。
魔力は身体の中に流れている、血液とは別の何かだ。
流れているとは言っても、魔力それ自体に質量はなく、通常は触れる事さえできない。
元の世界でいう『気』のようなものだ。
気などというあるかどうかもわからないものよりは、そこにあると実感できる分、操作はしやすいのだが。
最初は魔力を感知する事から始めなければならなかったが、これに関しては俺達はすぐに習得する事ができた。
何せ今まで無かったものが身体を流れているのだ。
ちょっと気にすれば気付かない方が無理がある、という程簡単に、俺達は魔力感知ができるようになった。
だが操作となるとそうはいかない。
才能豊かな秋人や、天職が賢者である真冬でさえ、魔力操作の習得に一週間かかった。
魔力操作自体は、無属性の人の方が得意らしい。
無属性魔術は魔力操作が最も重要であるからだ。
だから、近接戦闘職の秋人も真冬と同じ速度で習得する事ができた。
それでも一週間かかったのだ。
だが俺はと言えば、実はこの魔力操作を一日で覚えてしまった。
それは何故か。
おそらく、本来なら魔術に優れているはずの魔術師を天職に持ちながら、当時属性が無かった事が原因ではないかと考えられる。
つまり、生前の俺はこの世界の誰よりも、魔力に関する才能が溢れていたとも言える。
その為、スキルの中でも魔力関係だけレベルが突出していたのだろう。
普通ならたった二ヶ月でスキルレベルが3になるなんてあり得ない。
おそらく剣聖である秋人でさえ、剣術スキルのレベルは未だ2に上がっているかどうか、といったところだろう。
それだけこの世界でのスキルというのは上達しにくい。
そんな中、魔力の感知や操作の技術を加速度的に身につけていった俺は、異常といえば異常だったのだろう。
何が言いたいのかと言うと、そんな魔力を扱う事にかけては世界最高の才能を持ち合わせていると言っても過言ではない俺は、闇属性の魔術を行使する事ができるようになるまでに、そう長い時間はかからなかったという事だ。
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「闇縛り」
魔力で作られた黒い闇が、目の前にいるスケルトンを縛り付ける。
スケルトンはカラカラと音をたててもがくが、そんなもので俺の魔術は解けはしない。
動けないスケルトンに近寄り、殴り飛ばして戦闘を終わらせた。
「まぁ、これなら実戦にも使えそうだな。」
既に何体かのスケルトンを相手にし、闇属性魔術の使い心地を確かめた。
魔術と体術の組み合わせは未熟も良いところだが、魔術単体に関してはそれなりに形になってきた。
そもそもこの世界の魔術に決められた形はない。
火属性なら火を出せるし、闇属性なら闇を出せる。
そこからは本人の想像力と魔力操作と魔力量に依り、だ。
また、自分の作った魔術には名前をつけるのが一般的だ。
そうする事でイメージを具体化させ、より早く発動できるようになるから。
名前の付け方も人それぞれ。
俺はカタカナよりも日本語的な名前の方がしっくりくる。
逆に春香なんかは初歩的な回復魔術をヒールと名付けていた。
閑話休題。
ともかくスケルトンを相手に魔術が使えるのは理解した。
次に相手をするのは、今まで避けていた霊体型の魔物、レイスである。
ずっと逃げている訳にもいかないだろうと、魔術を鍛えた暁にレイスを倒す事にしたのだ。
レイスを探してダンジョンを歩き回る。
幸いな事に、それから何度かスケルトンとの戦闘をした後、早くにレイスを見つける事ができた。
フワフワと浮いている半透明な姿。
感情を映さない瞳でこちらを見て、スーっと滑るように襲いかかってくる。
レイスに物理攻撃は効かないし、当たり前だがレイス自体も物理攻撃はしてこない。
精神に作用する闇属性魔術で心にダメージを残そうとしたり、特殊な魔術で気力や体力なんかを吸い取ろうとしてくるのだ。
なので、基本的にレイスを近付かせるのは得策ではない。
俺は瞬時に魔力を練り上げ、魔術を行使した。
「闇縛り」
レイスの動きが止まる。
屍霊には闇属性も有効だというのは本当だったようだ。
次に攻撃魔術を発動する。
「黒弾」
闇で作られた黒い弾丸が飛んでいく。
黒弾はレイスの頭を撃ち抜き、レイスは霧のように消え失せた。
「………こんなに簡単に消えるのか?」
と不思議に思ったが、よく考えれば何もおかしな事はない。
レイスは見た目通りに打たれ強い方じゃないし、俺は名持ちのゾンビだから、そこらへんの魔物より多くの魔力を保有している。
魔力が多い方が強い魔術を放てるのは、この世界の常識だった。
「まぁ悪い事はないか。次の獲物を探そう。」
という事で探索再開。
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その後、幾度かの戦闘を経て、納得のいく結果を得られた。
あれから出会ったレイス達には、様々な闇属性魔術を叩き込み、魔力を纏った体術などの練習もさせて貰った。
要練習といったところだが、とりあえずの結果としては上々だろう。
まだ余裕はあるし、探索を続けよう。
と考えて歩き出した、その時。
背後から妙な気配を感じた俺は、咄嗟に振り返った。
すると後ろには、細剣をこちらに向けている一匹のスケルトン。
その後ろにはスケルトンがもう一匹いる。
思わず後ろに退こうとする。
しかし、スケルトンが突き出した細剣は、俺の左肩を易々と貫いた。
その突きの速度に驚いたが、痛みを感じない事が功を奏した。
咄嗟に細剣を掴み、スケルトンを殴ろうとする。
スケルトンは細剣を手放して大きく後ろに下がった。
追いかけようとした俺に、複数の火の球が迫る。
後ろに控えていたスケルトンの魔術だ。
スケルトンが魔術を行使した事に驚愕しつつ、無属性魔術の障壁を発動する。
障壁に火球がぶつかって煙が立ち込める。
俺は煙の中を突き進み、全速力で飛び出した。
ーーー魔術を使ったスケルトンの方に。
すると、骨魔術師を守ろうとした骨剣士が邪魔をしようと襲いかかってくる。
だがーーー
「それを待ってたんだよっ!!」
俺は無属性魔術で身体強化を施し、高速で骨剣士の伸ばされた手を掻い潜り、その身体に掌底を打ち込んだ。
思いの外骨剣士は硬かったらしく、バラバラにはならなかったがほとんどの骨は折れている。
もう立ち上がれまい。
そう思って骨魔術師に向き直ると、骨魔術師は思いもしない行動に出た。
「サリス!!」
と叫んで、倒れた骨剣士に走り寄ったのだ。
…………………………。
「………え?………喋った?」