第三話 空域
目の前には散乱した骨。
これが魔物との初戦闘だと思うと、何か微妙な気分になってしまう。
「まさか一撃で終わるなんて…………。」
魔物としての格の違いを考えると、そうおかしな事でもないのかも知れないが。
「………まぁ勝てたのならそれで良いよな。それよりも………スケルトンって、何か素材になるような部分とかあるのかな………?」
魔物によっては武器や防具の素材となる部位を持っていたり、毛皮や肉を買い取ってもらえたりするらしいが。
まぁスケルトンじゃどうしようもないか。
そもそもいつここから出られるのかもわからんし、バッグ一つ持ってないんじゃ、嵩張るだけだしな。
そう思い直して、俺は先に進む事にした。
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「そりゃ最古のダンジョンとか言われるくらいだし、今まで無数の悪人が落とされてきたんだから、かなりの数の屍霊がいるとは思ってたけど…………これほどか。」
日の光がないからどれくらいの時間が経ったのか、正確にはわからないけれど、体感的には二時間くらいは経ってるんじゃないかと思う。
屍霊の身体は疲れる事がないし、腹も減らなければ眠る必要もない。だから延々と歩き続ける事ができたんだが…………。
「魔物…………多すぎだろ。」
そう、敵の数がとにかく多いのだ。
ちょっと歩けばすぐにエンカウントする。
ほとんどはスケルトンだったが、たまにレイスという不透明な霊体型の魔物にも遭遇した。
レイスには物理攻撃が効かない。
本によれば、霊体型の魔物に攻撃したければ、光か闇、もしくは火の魔術を使うか、無属性魔術の身体強化の応用で、魔力を身体に纏って戦うしかないらしい。
…………闇の魔術を使おうかとも考えたが、流石にぶっつけ本番はないだろう、と考えた為、レイスを見かけたら逃げていた。
魔力を纏うのに関しても同様だ。
俺の無属性魔術は、未だそんな領域には達していない。
スケルトンは物理で一撃だ、何も面白い事はない。
ーーーそれにしても困った。
身体的には疲れなくても、精神的にはそういう訳にはいかない。
どこか休む場所が欲しい………。
しかしそんな都合の良い場所がすぐに見つかるはずもなく。
俺は宛もなくただひたすらに歩いていた。
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もうあれから何時間経ったのかわからない。
歩いては見つけたスケルトンを殴り飛ばし。
その場で休んでは迫りくるレイスから逃げていた。
もういい加減頭がおかしくなりそうだ…………なんて思っていても、普通に正気を保っていられるのは、祝福のお陰かもしれない。
だからと言って、このままでは不味いだろう。
早急に休める場所を見つけなければ。
俺は少し焦っていた。
その焦りが功を呼んだのかもしれない。
右手に見える小道の先に、何やら不思議なものを感じる。
生理的に嫌悪するような、それなのに心が安らぐような、そんな相反する性質を持った何かがある。
俺は意を決して、その道を進んだ。
道の先は、それなりの広さを持つ空間だった。
この空間を見て、俺は一つの仮説に行き当たった。
ーーーこれ、ダンジョンの空域じゃないか?
ゲームでのセーブポイントのようなものだろうか。
もちろんセーブなんて機能はないが、この世界のダンジョンには、魔物が入れない空域と呼ばれる空間がある、と本で読んだ事があった。
おそらくここは空域で間違いないだろうが、だとしたら一つ疑問がある。
「何で俺入れてんだ?」
一応魔物なのだが………。
「うーん……………もしかして、自我があるからとか?それか邪気がないからとか………もしくはその両方か。」
考えられるとしたらそんなところか。
もしや先程感じた嫌悪は、魔物としての俺が感じたものではなかろうか。
考えても答えは返ってこないし、そういう事にしておこう。
とにかくここなら魔物は来ない。
思う存分休めるし、魔術の鍛練だってできるはずだ。
スキルレベルは上がらなくても、できる事はあるだろう。
ダンジョン踏破に向けて、いっちょ頑張るとしますか。
スィーリア「ねぇ、ネクロ君。聞きたい事があるの。」
ネクロ「スィーリアからの質問とは珍しいな。どうしたんだ?」
スィーリア「ネクロ君はよく、本で読んだ、とか言うけど、ちょっと知識ありすぎじゃない?そこまで本読んでばかりいたのかしら?」
ネクロ「………まぁな。他にできる事もなかったからな……。俺は、ほら……………無能魔術師とか言われてたし。」
スィーリア「あ…………………ご、ごめんなさい。悪い事を聞いたかしら。」
ネクロ「いや、良いんだ、気にしてないから。うん、本当に……………。」
………………………。
スィーリア「(気不味い……………。)」