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死霊の異世界カーニヴァル  作者: 豚骨ラーメン太郎
第二章  クリストル王国
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第九話  メイドの説教

春香と街で遊んだ日から、一週間が経過した。


僕達が異世界に召喚されてから、もう二ヶ月程になる。


最初はどうなる事かと思っていたが、僕も含めて、皆がこの世界に適応しつつあった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「何だか元気がないご様子ですが………どうかなさったのですか、ネクロさん?」


今日は休日だ。


僕はいま、マリアに誘われて中庭で紅茶を飲んでいる。


マリアと仲良くなって以来、たまにこうしてお茶会に誘われていた。


ここ最近は彼女が忙しかったので、会うのは今日が久し振りだ。


「いや、何でもないよ。心配かけてごめんね。」


「本当……ですか?何やらお顔の色がよろしくないようですが………。」


「あぁ、まぁ…………最近、あまり眠れなくてね。」


春香との一件以来、眠れない夜が続いていた。


あれから春香とは会っていない。


真冬の話では、鍛練も休みがちなのだとか。


連日顔色が悪く、体調も良くないらしい。


秋人も真冬も、僕と春香の間に何かがあったのは察している様子だが、それを問いただしてくる事はなかった。


その優しさが、余計に僕を苦しめていた。


「どうやらかなりお辛い様子ですね。今日はもう休まれた方がよろしいです。」


マリアもこうして気遣ってくれる。


こんな僕なんかを。


「あぁ、そうだね。………部屋に戻る事にするよ。」


そうして、僕は中庭を後にした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



部屋に来たからと言って眠れる訳もなく。


僕はベッドに座って宙を見つめながら、あの日の事を考えていた。


後悔してない訳ではない。


しかし、この関係を崩したくはない。


そんな事を考えている自分に嫌悪する。


同じ事ばかりが頭の中でぐちゃぐちゃに混ざりあう。


何時間経っても、答えは出なかった。


こんな事になるなら、あの日、彼女の誘いを受けなければ良かった。


そんな見も蓋もない事を考えて。


また自分を殴りたくなる。


いい加減頭がおかしくなりそうだった。


すると、誰かが扉を開く音がした。


「大丈夫ですかネクロ様?今にも死にそうな顔をしていらっしゃいますよ。」


「ミレイ………。」


入ってきたのはミレイだった。


この一週間、ミレイは何も聞かずに世話をしてくれていた。


それが急にどうしたのだろう?


「いつも以上に腐った魚のような目をしておられますが、いつの間にスキルレベルを上げられたのですか?」


「僕の目が腐ってるように見えるのはスキルのせいじゃないよ。そんなスキル持ってないし。これは単なる隈だよ。」


「おや、そうでしたか。ネクロ様の目元には常に隈があるのですね。」


「暗に僕の目が常に腐ってるように見えるって言ってるのかな。流石に僕でも怒るよ。」


「私を調教するのですね!やめて下さい!!」


「やめて欲しいなら服を脱ごうとしないでくれるかな。しないから。」


「あら、それは残念です。」


「どっちだよ………。」


久し振りにこんなやり取りをした気がする。


ミレイは僕に近付いて、頭の上に手を置いた。


そしてゆっくりと、優しく頭を撫でる。


「メイドの癖に頭を撫でるなんて不敬なんじゃない?」


「お嫌なら払って下さって結構です。」


すかさず手を払おうとすると、逆に僕の手を取って引っ張りながら、自身はベッドの上に正座をした。


絶妙に僕の身体を操り、一瞬のうちに僕はミレイに膝枕をされていた。


何だよ今の身のこなし……こいつ絶対ただのメイドじゃないだろ。


「いいえ、私はただのメイドです。」


「心を読まないでよ。ただのメイドはそんな事できないから。」


「でしたら私はスーパーメイドです。スーパーだからできるんです。」


「そっか、スーパーなのか。それなら仕方ないね。」


静寂が部屋を満たす。


彼女は無言で僕の頭を撫でていた。


さっきまではあの日の事で頭がいっぱいだったのに、今の僕は少し落ち着いていた。


この世界に来て、ミレイに助けられたのは、これで何度目だろう。


「ねぇ、ミレイ………僕の話を、聞いてくれるかい?」


「はい、何なりと。」


ーーーありがとう。


感謝の言葉を告げた後、僕はゆっくりと、これまでの事について話始めた。 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ーーーそんな訳で、僕は春香に対して、最低な事をしてしまったんだ。」


話し終えて外を見ると、もうかなり暗くなっている。


かなり長く喋っていたと思う。


ミレイはずっと膝枕したまま、何も言わずに聞いてくれた。


彼女は話を聞いてどう思っただろうか?


僕を軽蔑するだろうか。


どうしようもない男だと、呆れてしまうだろうか。


ずっと黙っていたミレイが、口を開いた。


「今世紀最大のドクズですね、流石はネクロ様です。今すぐ穴掘って生き埋めになって下さい。」


「そこまで言うの!?」


「冗談です。しかし………そんな事があったのですか。」


唐突にギャグとシリアスを使い分けてくるこのメイドに、たまについていけなくなる時がある。


「ねぇ、ミレイ………僕はどうすれば良かったのかな?どれだけ考えても、わからないんだ。」


「ネクロ様……………あなたは馬鹿です。」


急に何を言うんだこのメイドは。


「あなたはアホです。クズです。どうしようもない甲斐性なしです。」


「う、うん…………否定はしないけど。」


流石に泣きそうになる。


「そんな馬鹿でアホでクズで甲斐性なしなネクロ様が、何度思考を巡らせたところで、答えなんて出る訳がありません。」


「そう……なのかな?」


「そもそもネクロ様が一人で考えたとしても、それはまた独り善がりなものになるだけです。」


「…………そうかもしれないね。」


「ですから考えるのをやめましょう。開き直って下さい。」


「開き直ってどうするのさ?」


「話すんです。」


「話す?」


「そうです。ハルカ様に、ネクロ様のお考えを全て話すのです。」


「そんな事をしたら僕達は………」


「ネクロ様………人間関係というのは儚く、そして脆いものです。ちょっとした事で変化してしまい、時としてそれは、改善不可能なまでに壊れてしまう。」


「だ、だから僕は」

     「だからこそです!!」




「だからこそ、人間はその絆を守る為に努力するのです。………ネクロ様、今のまま時間が経って、それで元の関係に戻れるとお考えですか?」


「それ……は…………」


それはできない。


もう既に、歯車は回ってしまったのだから。


「もう元の、何も知らずにいられた関係には戻れません。だからと言って、このままではあなた方は二度と、心の底から笑う事はできなくなります。ネクロ様はそれでも良いんですか!!」


それはーーー




「嫌に決まってる。」


そうだ。


そんなのは嫌だ。


「僕は春香と一緒にいたい。真冬や秋人とも………一緒にいたいんだ。」


「でしたら、一人殻に閉じ籠っていてはなりません。たとえ関係が崩れようとも、ネクロ様はハルカ様と話し合わなければなりません。………ネクロ様の望む、新しい関係を作る為に。」


「僕の望む関係………。」


「はい、そうです。今はまだ、確かな理想がなくても良いんです。わからずとも、行動すべき時があります。過去に失敗したのなら、未来ではなく今取り戻して下さい。」


心にかかっていた靄が、陽の光によって溶けていくように消えていく気がした。


「あぁ………君の言う通りだ。ミレイ、本当にありがとう。」


「まったく………ネクロ様には私がいないと駄目ですね。」


「そうみたいだね。ミレイ、これからも僕の側にいてよ。また、こうして僕を助けてくれ。」


彼女は顔を赤くした。


耳の先まで赤くなって、瞳は潤んでいる。




「ネクロ様………それはプロポーズ」

          「言わせないよ!?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はぁ………何だか疲れちゃった。今日はよく眠れる気がするよ。」


「それは良かったです。しかし念のため添い寝を……」


「いや、いらないから。ミレイもそろそろ出なよ。寝るの遅くなっちゃうよ。」


「えぇ、わかっております。…………しかし、ネクロ様が寝られるまでは、このままでいさせて下さい。」


そう言って、彼女は再び僕の頭を撫で始めた。


「まぁ、ミレイがそうしたいなら…………それじゃ、おやすみなさい。」


「はい、おやすみなさいませ、ネクロ様。」


その言葉を最後に、僕は久し振りの深い眠りに落ちていった。

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