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死霊の異世界カーニヴァル  作者: 豚骨ラーメン太郎
第二章  クリストル王国
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第八話  関係

「おーい、根黒くーん!!早く早く!!」


大声でそう言いながら手を振るのは、幼馴染みの一人、白峰春香だ。


異世界に来てから一ヶ月と半月、僕達は休日に街へ出る許可を貰っていた。


この一ヶ月程で、鍛練の成果は如実に現れており、皆は確実に強くなっていた。


その皆の頑張りに応える形で、陛下から娯楽用の支援金が渡される事になったのだ。


今日、僕は春香に誘われて、街で遊ぶ事となっていた。


それを知った真冬が軽く拗ねてしまったようだけど、また今度真冬とも遊ぶ事を約束して事なきを得た。


それはともかく、実はこうして街に出るのは初めてなので、少しワクワクしていた。


外出許可と支援金は二週間前から渡されていたのだが、何の役にも立てていない自覚があった為、何となくそのお金を使う事を躊躇っていたのだ。


それを知ったマリアが「折角ですから行ってこられてはどうですか?お父様もきっと、それを望んでおられます。」と言ってくれ、そして丁度春香からのお誘いを受けたという事で、今日を迎えたのだ。


「おーい、根黒くーん!はーやーくー!!」


「あーはいはい、今行くよー。」


これ以上待たせたら更に煩くなりそうだ。


そう思った僕は、駆け足で進み始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「こうして根黒君と二人で遊ぶのって、随分久し振りだね!!」


「そう言えばそうだね。」


「何でか知らないけど、高校生になってから根黒君は私達を避けてたし……。」


ぶすっとして拗ねていらっしゃる。


苦笑いを浮かべながら弁明する。


「あはは………まぁ、折角高校生になったんだから、僕は僕で交遊関係を広めようかと思ってね。」


もちろん嘘だ。


春香は僕が虐められていたのを知らない。


その原因が自分にある事も。


秘密にしようと決めたのは僕自身だし、そもそも虐めとは言っても、そう大したものではなかった。


ちょくちょく難癖付けられるくらいで、リンチを受ける事もなかったし。


だから黙っていた。


「そんな事も言ってたね。それでも普通に話すくらいは……………」


ブツブツと文句を言っている。


「春香達に頼りたくなかったんだよ。僕は春香達みたいに皆の人気者になれるような人間じゃないし。」


「そんな事ないと思うけどなー……。」


こうなった時の春香は面倒だ。


話を変える事にした。


「そう言えば、最近リルの調子はどうだい?」


リルとは、春香が契約した狼型の従魔の名である。


従魔師と契約した魔物は、契約主の魔力によって作られた異空間に入る事ができる。


より大きな魔力を持っている従魔師は、より多くの魔物と契約できるという訳だ。


「リルちゃんはねー、最近また少し大きくなったんだよ!もうすっごく可愛いんだ!!」


従魔の話になると大きな瞳をキラキラと輝かせた。


さっきの話はすっかり忘れたようでほっとした。


「そっか、良かったね。」


「うん!」


リルは春香が初めて契約した魔物だ。


思い入れは強いだろう。


騎士団に連れられて皆で王都の外に行った際に、群れとはぐれたリルを見つけたのだ。


空腹で倒れていたリルを、可愛いからという理由で春香が介抱したのだ。


それで契約までしてしまうのだから、彼女には従魔師としての才能があるのだろう。


その才能を、少しだけ、羨ましく感じた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



もうそろそろ日が落ちる時間になってきた。


空の色も郷愁を誘う赤が広がっている。


「あー楽しかった!今日はありがとね、根黒君!!」


腕を上げて身体を伸ばす彼女は、夕日に照らされていつも以上に美しく見えた。


「こちらこそありがとう。とっても楽しかったよ。」


「えへへ………それなら良かった!」


そんな事を話しながら商店街を歩いていると、前方が騒がしくなっているのに気づいた。


「………なんだ?どうしたんだろう?」


「んーわかんない。何かあったのかな?」


二人して何とか奥を見ようとしていると、人垣が割れて誰かがこちらに走ってきているのが見えた。


「どけぇ!!道を開けやがれっ!!」


そう言いながら、身体の大きな男が刃物を振り回しながら走り寄ってきていた。


僕は突然の出来事に身体が止まってしまった。


男はどんどん近付いてきている。


早く逃げなければ。


そう思って逃げようとした。その時。


「リルちゃん!脚!!」


春香がそう叫ぶと同時に、黒い影が男に向かって突進した。


男はその黒い影ーーーリルに驚き、止まってしまう。


その隙を逃さず、リルが男の脚に食らいついた。


「うわっ!!何だこいつ…………ぐわっ!!!いってぇ…………」


痛みに呻く男の手に、リルがすかさず食らいつく。


刃物を落とした男を、周りにいた男性達が一斉に抑え込んだ。


「ふんっ!どんなもんだい!!」


可愛い声で春香はそう言う。


周りの人達が拍手をする。


「すげぇな姉ちゃん!そいつは従魔かい!?」


「やるじゃないの!!」


「お姉ちゃんかっこいいー!!」


やいのやいの。満更でもなさそうだ。


しかしその中で悲痛な泣き声が響いた。


徐々に周りが静かになる。


一人の女性が、多量の血を流している少年に覆い被さって泣いていた。


おそらく先程の男にやられたのだろう。


あの怪我では、そう長くはもたないかもしれない。


「誰か!誰か回復魔術を!誰か!!」


女性が叫ぶが、誰も名乗り出ない。


当然だ。魔術師は珍しい。


平民で魔術が使えるものは滅多にいない。


その上、水属性による回復魔術では重症は治せない。


少年の出血量を見るに、小さな傷でないのは一目瞭然であった。


本来ならば、あの少年はここでその人生に幕を下ろしていたのだろう。


しかし、ここには彼女がいた。


「私に任せて下さい!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その後、光属性魔術によって少年の怪我を治した春香は、再び起きた拍手の渦に呑み込まれたが、何とか抜け出して、僕の手を取って走り出した。


そしてとにかく人気のない場所を探して、今に至る。


「はぁ…はぁ…はぁ…………ごめんね……根黒君。走らせちゃって。」


彼女は息を整えながらそう言う。


「いや………気にしないでよ。大丈夫だから。」


「ありがとう…………ふぅ……。いやー、それにしてもビックリしちゃったね!急にあんな事になるなんて!!」


「うん、そうだね。」


「でも良かったー!皆が助かって!!」


「うん……そうだね。流石は春香だよ。」


堂々と戦った彼女の姿が忘れられない。


惨めに逃げようとした僕自身との差を、見せ付けられたような気分だった。


「どうしたの?何か………あった?」


気を遣わせてしまったようだ。


才能を持った幼馴染みに嫉妬して、それを心配されるなんて。


僕は………どうしようもないクズだ。


「ううん、大丈夫だよ。さぁ、そろそろ戻ろうか。」


そう言って踵を返して歩き出す。


しかし、後ろからついてくる気配はない。


不思議に思って振り返る。


「どうしたの春香?帰ろうよ。」


「……………嘘だよ。」


「……え?」


「根黒君、嘘ついてるよ。」


心臓が止まったような錯覚を覚えた。


言葉が出なかった。


「何かあったんでしょ?ねぇ、教えてよ。私を………頼ってよ。」


…………………。


「あのさ、春香。何を言ってるのかわかんないけど、もう帰らないと、メイドさんにも怒られちゃうよ?だからさ、ほら………」


「どうしてっ!!」


突然の怒鳴り声にびくりとする


それにいつもの声と違う。


これは……………泣いている………のか?


「どうして、いつもそんな風に嘘つくの?私、そんなに頼りないかな?根黒君にとって、私はそんなに小さな存在なのかな?」


…………………。


「私、真冬ちゃんみたいに頭良くないし、秋人君みたいに何でもできる訳じゃないけど。でも………私だって、根黒君の役に立ちたいよ。」


意味がわからなかった。


どうしてこうなっているのか。


彼女が何を求めているのか。


僕にはわからなかった。


「根黒君、いつも苦しんでたよね?あっちの世界でも!こっちに来てからも!!」


心が締め付けられる思いがした。


ーーー気付いていたのか。


「何で苦しんでいるのか、私にはわからなかったけど………。いつか話してくれるって!いつか私にも頼ってくれるって!!」


そう、信じていたのに。


今にも消えそうな声で、彼女はそう言った。


彼女はお世辞にも鋭い人間だとは言えない。


むしろ心の機微なんかには特に鈍いはずだ。


どうして気付いたのか。


「何で、そう思ったの……?僕が傷付いているって。」


「わかるよ…………ずっと見てたから。」


その言葉がどういう意味なのか。


それがわからない程、僕は馬鹿ではなかった。


いっその事、それに気付けない程に鈍感だったらと思った。


「あのね………私ね…………」




どうして、虐められている事を彼女に告げなかったのか。


どうせ他の幼馴染みは知っているのだ。もう一人知ったところで、大して変わりはないのに。


どうして、その原因が彼女にあるのだと告げなかったのか。


教えたとしたら、きっと彼女は他の幼馴染みと同じように接してくれたのに。


どうして、そんな言い訳を作ってまで、彼女と離れようとしたのか。


それはーーー








「私ね…………根黒君の事が」

       「春香!!」


…………………………。


「そろそろ………帰ろう。」








彼女は振り返らなかった。


何も言わず、走り去っていった。


夕日に輝いた彼女の瞳が。


その瞳から溢れた美しく光る雫が。


僕の心を、蝕んでいった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



虐められたのは良い口実だった。


彼女を傷付けたくないから。


そんな聞こえの良い言い訳で、彼女を遠ざけようとした。


彼女の気持ちに気付いてしまったら。


気付いている事を認めてしまったら。


僕達四人はきっと、幼馴染みのままでは、いられなくなってしまうから。


その関係を壊したくなくて僕はーーー






あぁ、僕は………どうしようもないクズだ。

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