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死霊の異世界カーニヴァル  作者: 豚骨ラーメン太郎
第一章  プロローグ
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第一話  溜め息




ーーーあぁ、またやってしまった。


朝、目覚めた僕の目に映ったのは壁に掛けられた、見慣れた時計であった。


その掛け時計は、登校の門限が残り10分であるという、どうしようもなく絶望的な現実を見せつけている。


溜め息をこぼし、せっせと登校の準備をする。


顔を洗って洗面台を見ると、今にも死にそうな、腐った魚のような目をした凡人が映っている。


鏡に向かっておはようと言うが、もちろん返ってくる声はない。


高校から一人暮らしを始めて、かれこれ半年ほど経過している。


自分以外誰もいない家に出立の挨拶を告げ、外へ踏み出した。


空を見上げる。見ているこちらまで沈んでしまいそうな曇り空だ。


いや、もしかしたら沈んだ僕の心がそう見せているのかもしれない。


ーーーあぁ、憂鬱だ。


また一つ、溜め息をこぼす。


遅刻常習犯の僕にとって、遅刻とは恐れるものではない。


むしろ友達だ。遅刻いずまいふれんど。


教師は既に諦めているし、遅刻以外には目立った悪行もしていない為、周りからも「こいつはそういう奴なんだ」という程度の認識でしかない。


ならば何故、僕は今こんなにも憂鬱なのか。


それは、一部のクラスメイトに理由がある。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



誰一人いない閑散とした廊下を歩いて、教室へ向かう。


扉の向こうからは、担任教師が本日の連絡事項をつらつらと述べていた。


再度溜め息をこぼし、扉を横に引く。


ガラガラとした音が、やけに大きく聞こえた気がした。


教師とクラスメイトが一斉にこちらを見る。


またか、といった視線がほとんどだ。


「富士崎、やっと来たのか。これで何度目の遅刻だろうな?」


担任教師が溜め息をつきながらそう聞いてきた。


「すみません、寝坊してしまいまして。」


もはや常套句となった言葉を紡ぐ。


「まぁいい。そろそろHRも終わるから、席に着きなさい。」


「はい。」


慣れたやり取りをして、自分の席に向かう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「根黒君、また夜更かししてたんでしょ。何度も気を付けてって言ってるのに……。」


ホームルームが終わって早々、こちらに来てそう言ったのは、幼馴染みである白峰春香だ。


明るめの茶髪をポニーテールにしている、整った顔立ちをした美少女だ。


怒った顔をしているつもりだろうが、周りから見れば子どもが拗ねているようにしか見えない。


天真爛漫で誰にでも優しい彼女に惚れている男子はそれなりに多い。


僕が遅刻すると、いつもこうして注意をしに来るのだが、その度に何人かから睨まれてしまう。


ただ睨まれるだけならば、どうという事はないのだが……。


「おいネクラ、てめぇ白峰と話したいからってわざと遅刻してんじゃねぇだろうな?」


ーーーほら、やってきた。


僕は心中で盛大な溜め息をこぼした。


この髪を少し赤く染めた不良風の男は、赤瀬夏樹と言う。


春香に惚れている男の一人であり、春香がことある毎に僕に構おうとするのを苦々しく思っているらしい。


その度にとばっちりを食らうこちらの身にもなってほしい。


そもそもネクラって誰だよ。僕は根黒(ねくろ)だ。


「そんなんじゃないよ赤瀬君。僕だって遅刻したくてしてる訳じゃないさ。」


「そうだよ赤瀬君。根黒君だって頑張ってるんだよ?」


ーーー最初に注意しにきたのは誰だよ。


ついそんな事を思ってしまう。


春香が僕を庇えば庇う程、後で面倒な事になるのでやめてほしいのだが……。


赤瀬が苛ついたような顔でこちらを睨んでいる。


どうしようかと思っていたところに、助け船がやってきた。


「まぁ落ち着けよ。そろそろ授業始まるし、こっちに来いよ春香。赤瀬も、そろそろ席に着いた方が良いんじゃないか?」


そう言って割り込んで来たのは校内一のイケメンだ。


成績優秀、文武両道なイケメンの名は青島秋人。


春香が僕に付き纏おうとするのを、いつも止めてくれる。


春香と同様、僕の幼馴染みでもある。


秋人は僕が赤瀬に目を付けられているのを知っている。


それを助長しない為に、校内では僕と接しようとしない。


これは僕と秋人と、そして春香ではない、もう一人の幼馴染みとの間で決めた約束だ。


幼馴染み二人はそれを了承してくれている。


その事を春香は知らない。


彼女のせいで僕が度々苛められているなんて知ったら、きっと彼女は自分を責めてしまうだろうから。


僕が二人に口止めをしているのだ。


春香は、幼馴染みの二人が急に僕と接しなくなったのに疑問を抱いていたようだったが、それも最近では触れなくなっていた。


何はともあれ、こうして今日も秋人に助けられた。


友情に感謝しよう。

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