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残りの人生と、これからと。

作者: 奥野鷹弘

職場にいたら、こんな物語が頭に沸いてきたんです。

あれから数年後にして、俺は東京から北海道に帰郷した。


_午前10時_



やはり北海道はいい。何がいいって、やはり地元だし、故郷だからじゃないだろうか。この、灰色の町並みに溶け込みながらも力強く映える緑の山々だとか、少し走れば空が半分以上拝める嬉しさとか…、なによりどこか皆が穏やかにしてるところが、俺にとってみればちょうどいいのかもしれない。



親には、今日帰宅することは伝えていたが何だかんだいって身体が思うように動かない。

やりたいことが見つからないからと、自分ではどうしょうもないムシャクシャな気持ちをぶつけて飛び出してきた俺は、今手ぶらで自宅へ向かっている。『必ずこの地じゃ得られない、デカイもの持ち帰って来てやるっ!』と、意地張った俺はどこにいったんだろうか。

母さんには伝えといてみたものの、電話越しで『そうなんかい。んじゃ、楽しみにしておくわら。』なんて、事情を全部話したくせに優しい声出しやがって…。ああ、母さんは別にしても父さんだけは勘弁だよ。なら、死を選ぶべきだった。

そんな呟きをもんもんとしていたら、周りから変な目で視られた。ああ、イヤな人生だ。


_午後0時_


千歳空港から降りて数時間、札幌行きの電車に乗り継ぎ席でひと休憩をした。本州に進出していない、セイコーマートのホットシェフのフライドチキンを懐かしさと愛しさの両方を噛みしめながら窓に目を向ける。流れる風景の中にもちゃんとその土地ならではの風景があり、そのなかには自然と共存としているかのように穏やかな農業家の人も見かけた。空は果てしなく青く、澄みわたり、まるで逆さの海のように穏やかな風が雲を流してさざ波のように見えた。

だから、こんな世界は捨てたもんじゃない。いや、捨てられるものじゃない。と、感心した。だからこそ、身体が動かなくても親に一目会いたいと帰ってきた。

_午後?時_


そんなところにヒョンと俺の顔を観ながら笑うサングラスの女性がいた。そして『となりいいですか?』と尋ねたと思いきや、空いてるとなりに座りだした。

『あっ、あの!!』俺は少し苛立ちを感じて強めに口にした。すると彼女は何事もないような顔で、話を反らし続けた。

『相変わらず、ブスな顔ね。』


さすがに、いきなりの罵声はふざけてると思い、怒りに任せ立ち上がり去ろうとしたその瞬間、俺は腕を掴まれた。

『逃げないで、航くん。コウくんでしょ、相変わらず誰にも真似できない普通な格好と素振りだもん。んね?ワタシだよ、私ー。』

そう彼女に云われて、俺の感情はどこか別なものに変わった。

『はぁ?なんだよー、オマエかよ。ブスで、最低な、憎たらしいほどの嫌みな女………ブタ。』

『……ッチ』

『なんか違った?』

『そうよ、そうよ。なんで判んないのよー、一番ブタ呼ばわりしてたくせに、この姿で何にも判んないって、目、ダメダメー。』

『っうせー。』


俺は、何か忘れてたのかもしれない。例えそれが本音じゃなくても、本音だとしても 裏の裏まで気持ちを読み取って大切にしてくれてた人のことを。

逆にそれが当たり前のように感じてしまうぐらい彼女に寄り添い、泣いて、笑って、頑張って……でも、社会はそんなもんじゃなくって、厳しくて、苦しくって、でもその達成したあとの感動が素晴らしくって…だから、生きるって言うものは、とてつもなく感動的なものに違わない。


だからこそ、自分の力で東京でチャレンジしたかった。『今の実力じゃ叶わない』て、進路相談のセンコーも、バイト先のセンパイも『ただ貯めるだけじゃなくて』なんて言われてたっけ…バカだなぁ。


『………ねぇ、航くん。元気だった?あれからずっと年賀状送ったりしてたんだよ。東京に飛び出したとは、変な噂として聴いてたんだけど…まさか、旅行の帰りに見かけるとは思わなくてね。それでずっと探してようやく見付けたってワケだよ。』

『…ホント、スゴいよお前。小さいときから、俺を見つけてはニヤニヤしてたもんな。』

『……っち、違うってば!』

『…ま、俺じゃない誰かとイチャイチャ、ナンチャラナンチャラして、顔染めてんだろうしな。良かったな。』


ああ、コイツ…いや、恵に会わなければ、今頃俺は何を考えてたんだろう。ちゅうぷらりんの俺はきっと、通りすぎていく同年代の社会人を見て憎んでツバを吐いていたんだろう。そのツバを吐けるならまだしも、飲み込む性格だからこそ、もっと複雑になっていたに違わないな。


恵は顔を紅くしながらも、ボソボソと言葉を溢して何処かに消えていった。その言葉はあまりにも俺には不似合いだった。



_午後5時_


札幌に無事に着いたあと、お迎えに来てくれた妹の車に乗り込んだ。妹はまるで知恵袋と笑い袋のように溜め込んでいた感情をぶつけてきた。まあ確かに、兄弟とはいえど連絡を途絶えていたのだから仕方がない。そのまま家につくまで俺は漬け物に浸かるかのように、妹に話漬けにされた。



_午後10時_


俺は、恐る恐る両親に話をしたことを悔やんだ。だって両親は何も無かったのように、『いい経験だったじゃないかぁ。少し休んで、次を考えてみなさい』で済んだのだ。何だか納得いかない。


布団が一新されていた。はじめは拒んだものの、何だか新たな生活が始まるような気がして嬉しさと涙が止まらなかった。たぶん路上生活のせいもあるんだろう。

結局、東京に出た俺は、バイト先でも職場の先でも、相談口も、両親の意見に逆らって出てきてしまったことで何処かに罪悪感を抱き自信に繋がるアピールが一つも出来なかったように思える。いや親のせいなんかしていない、ただこんなにも親の力が偉大すぎて未熟だと感じるのが不愉快なんだ。


俺は布団の中にさらに潜り息を思いっきり吸った。そして、これ以上にないばかりに感謝が溢れた。


昼間送ったメールに返事が来たのか、携帯が明るく点滅した。夜中の2時ぐらいの時だった。


_午前9時_


母さんと俺以外は、職場に向かい静かだった。母さんは静かに昔の曲のCDを流しなら口ずさんでいた。

目をこすりながら見渡したテーブルには、大好物の煮物が置いてあった。ボサボサ頭ではありながらも誘惑に負けて、箸を手にした。

母さんは微笑みながら、俺の髪をとかし鼻をすすらした。どういう意味かを考えないように、必死に俺は白いご飯を頬張った。



_午前12時_


身綺麗にした俺は昨日のメールのことを、母さんに話した。母さんはさらに嬉しそうな顔で、楽しんでおいでと肩をトンと叩いて見送る仕度した。

俺は何だか落ち着かなくて、『これは何て言う気持ちなんだ?』『これは恋だっていうやつなのか?』『いや緊張なのかもしれない!』そんなこんな意味わかんない発狂しながら家を飛び出した。


今日の空もいい天気だった。晴れとも言わない、快晴とも言わない、まるで天国にいるようだった。


_午後?時_



俺は急ぐ気持ちに、周りが見えなくなりそうだった。久々の町並みといい、外出。そしてなんとも言わぬ、この熱い気持ち。ヒトはこの一瞬を味会うのに、どのくらい苦労しているのだろう。逆にその気持ちが裏返ったとき、どのくらいの恐怖を感じてしまうのだろう。俺はそのどちらでもない道から、一歩右にずれたのだ。一歩、そして一歩。考えるだけで張り裂けそうなこの気持ちを、グッと抱え歩み寄っていく。


不安な気持ちが確かになったとき、周りの空間は俺の動作よりも遅くなった。俺を抜こうとした小さな坊主も、手を繋いでいる女の子とその母親と、杖をついて必死にあるくお年寄りなんかはもっとゆっくりに…。お婆ちゃん、そのままじゃ信号赤になっちゃいますよ。


歩道信号と同じくして進む車たちも今日だけゆとりをもって走る。


そして俺は、彼女へと向かう。


『航くんで、初めてでありたいから…』

恵は、そう呟いた。




太陽は以外と近くにいてくれた。なんとも言わない暖かいぬくもりだった。俺を眩しいぐらいに照らした。


_午後5時_



彼女とのデートは、この上なかった。行くところ行くところお花畑で満たされ続けた。帰るのが怖いほど、川を渡るのが嫌なほど離れたくなかった。でも仕方がないことだと思いつつ、俺は約束事をした。


『いつでも待ってる!今度こそ正直になる!!』

と。




_午後8時_


『…お宅の息子さん、見えてなかったんでしょうね…。現場検証しなくても明確なんですが、あの時信号は赤でした。そこに青になったと発進させた黄色い車は、息子さんの姿に気付かずに跳ねてしまったようです。あの距離では亡くなるのは滅多にはありませんが、息子さんの打ち所が悪かったのでしょう…。御愁傷様でございます…。』



恵と共に駆けつけた航の両親は、言葉がみつからないまま泣き崩れてしまった…

恵はひとり、凡てが済んだあとに夜の空に向かって泣き叫んだ。

なんともいえない気持ちで、溢れてくれたら

それは、嬉しいかな。

小説らしくなくて、すみません。

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