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帰り道真琴はコンビニで予定通り恭介にコーヒーを買うと車の中に乗り込んだ。
「ありがとうございます」
手渡されたコーヒーを受け取ると恭介は笑顔を浮かべる。
「では帰りましょうか」
コーヒーを一口のみ、ドリンクホルダーに固定をすると恭介は車を発車させた。二十分もしないで自宅まで着くだろう。
車はゆっくりとしたスピードで陽に照らされた道を進みだした。
「柏木さん、質問とかしてもいいですか?」
「ええ、お話できることであれば」
真琴はまず何から聞いたものかと少し思案する。聞きたいことが多すぎて頭がまとまらない。
影女のことやあのお守りのこと。恭介がやっていたことも気になるし、これからのことも聞いておいた方が良いだろう。取りあえずは一番自分に関係のある今後について聞いた方が良いだろう、そう真琴は結論付けた。
「まずあの影女ってもう私の前に出てこないですか?」
「ええ、後何十年かは出て来れないと思います」
「え?完全に追い払った訳じゃないんですか?」
「もう亡くなっている方をもう一度殺すことは出来ないですよ。私たちが見えないようにしたというのが近いと思います」
「封印!とかいう感じですか?」
真琴の言葉に苦笑すると恭介は頷いた。ニュアンスはあっているらしい。
「まぁ、見れる人には見えるでしょうがそれはごく一部の方に限られると思います。もし七瀬さんが見えるようになってしまったらまたお店にお越しください」
「見えないことを祈ります」
「ごもっともです」
「あー、そういえば何ですけども。何でさっきはやっつけたはずの影女がまた出てきたんです?あれがまた出て来るってやつでしょうか」
「それについては危険な目にあわせてしまい申し訳ありませんでした」
ハンドルを握りながら恭介はぺこりと頭を下げる。勿論真琴に責めるつもりは無く好奇心から聞いているだけだ。
「昨日のうちに憑き物落としをしておいたのですが……。どうやら影女は分霊していたようでそちらから出てきたようです」
「分霊?」
「神霊を分けることです。神霊は何度でも分けることが出来てその本体も変わらないとされています」
「え、それって無敵なんじゃないですか?」
「もともと亡くなってたり神様ですから死ぬことは無いですけどね。本来分霊は神様などの神格が高いものに対して行うことが多いのですが……」
「影女って神様なんですか?」
「いえ、それほど神格が高いようでしたらもう少し準備をしなければ歯が立ちませんよ。影女は一寸長生きしてるお化けみたいなものです」
「死んでるのに長生きとはこれいかに……」
小難しい話になってきたため真琴は肩をすくめる。そのうちに車は市街地まで走ってきたようだ。先程までは一台もすれ違わなかった車がちらほら見えてきた。
「念のため七瀬さんはもうしばらくお守りをお持ちください。一週間ほどして何も無ければ恐らく大丈夫でしょう」
「本当にありがとうございました」
今度は真琴が深々と頭を下げた。それを横目で見て恭介は笑顔を浮かべる。
「まだまだお聞きしたいことはあるんですがきっと理解できないと思うのでやめときます。なので最後にもう一つお聞きしても良いですか?もしかしたらお願いになっちゃうかもしれませんが」
「ええ、構わないですよ」
恭介はいつもと変わらない笑顔を浮かべて返事をした。