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 真琴は恭介から手渡された「ぬ九八二号」の書類をぺらぺらとめくりながら内容を斜め読みしていた。

 内容は簡単に説明をするとあの影女の正体について記されていた。枚数は三、四十枚はあるだろうか。ちょっとしたレポートの様だった。


「柏木さん。さっきのページのことですけど」

「ああ、はい」


 恭介は運転を続けながら返事をした。あれから五分程は車を走らせているだろうか。真琴には見覚えのある道を進んでいた。


「あれって戸籍謄本って奴ですよね?私初めて見ましたよ」

「まぁ財産分与の時でもなければ見かけないですよね」

「で、何で私の家族の戸籍謄本がこのレポートみたいな物に挟まってるんでしょうか?」

「まぁこれでも公務員ですからね。戸籍謄本の取り扱いなんかには慣れています」

「いや、そうじゃなくて他人の戸籍謄本ってそんなに簡単に手に入るものなんですか?」


 恭介は悪びれもせずに肩をすくめる。


「まぁ、こんな事を生業にしているものですからね。国のほうからあれやこれやと特例を受けております。案外厄介な仕事なんですよ」

「まぁ詳しく聞くのは怖そうなんでやめておきます。で、あれが必要な意味って何ですか?」


 真琴はぺらぺらと紙をめくり件の戸籍謄本のコピーが差し込まれているページにファイルを戻した。


「はい、今回のご依頼の鍵がそこにあります。除籍された方のところを見てみていって下さい。……ああ、バツが書かれているやつですね。上のほうには除籍の判が押してあります。見ていただきたいのはそこからちょっと先のページです」


 真琴は素直に言われたとおり除籍された名前を確認していく。かなり昔のものなのだろう手書きで書かれた自分の苗字が並び、聞いたことの無い名前が並んでいる。また、亡くなられたのだろう事が直感的に分かる様に大きくバツが書かれている。除籍の判も見て取れた。

 何枚かページをめくっていくと祖母の名前が載っていた。その先には父の名前が載っている。


「問題はそのページです。七瀬サナという方がいらっしゃると思います」


 除籍された名前の中に七瀬サナを発見する。祖母の妹だろうか、サク江の隣に並んでいた。


「恐らくその方が影女です」

「はい?」


 あまりにもあっさりと答えを出した恭介に真琴は上ずった声で返事をする。


「二歳ほどで亡くなられています。死因は不明ですが事件性は無いようです。事故死かあるいは突発的なものでしょう」

「はぁ」

「その後どのようにして心霊となったのかは定かではありませんが、今は所謂悪霊といわれる存在になっています」

「またなんでおばあちゃんの妹なんかに取り憑かれなきゃならないんですか……」


 流石に真琴の理解は追いついていなかった。正直なところはいそうですかと信じられるような内容でもなかった。

あの影女がおばあちゃんの妹だとしても自分に取り憑く意味だって分からない。身内の悪霊に取り憑かれるなんて何か私の家族が悪いことでもしていたのかと疑いたもくなる。


「恐らくですが七瀬さんはもともとは心霊を見ることの出来る体質にあるのでしょう。今まではどうだったかは定かではありませんが、現在は見えてしまう状況にあります。影女は自分の姿が見える七瀬さんにはあれこれと手を出しやすいことを知って……。その後は体験されたとおりです。心霊の世界では、血族に狙いを定めることはより大きな力を行使するに当たって都合がいいのです。勿論その使い勝手は悪いとは思いますがね。また、今回のご依頼のような件の場合、多くは心霊が新しい体を欲しがっている事が多いんです。そして厄介なことに向こうに悪意などは無いことが殆どです」

「悪意がない?」

「そうです。自分だけの世界の中で誰にも注意をされることなく過ごして来た場合、七瀬さんは善悪の判断が出来ますか?」

「いや、無理でしょう」

「そうです。無理なんです。社会性を持つ前に心霊になった場合は特に厄介な相手になります。欲しいもので手が届くものなら何でも手にしてしまうことが大半です」

「幽霊に社会性ってあるんですね……」

「社会性というよりも生前の考え方や行動パターンに従うことが多いと思います。七瀬さんはまだ大丈夫だと思いますがこの年になると知らないことをするの結構しんどいんですよ。心霊になってもそこは同じみたいです」


 寝たきりのおじいちゃんの心霊がいましたと付け加えると恭介はこの道で最後のコンビニの駐車場に車を停めた。


「ちょっと飲み物を買ってきましょう。七瀬さんは何がいいですか?」

「あ、コーヒー。出来ればブラックで」

「かしこまりました」


 ドアを開け、恭介がコンビニの中に入っていく。きっと気を使ってくれたのだろう。真琴の目からは涙が溢れていた。悲しいわけでも悔しいわけでもなかったが、ただ涙が目から溢れてくるのを止めることが出来なかった。一種のパニック状態だろうか。


 きっと良く分からないことを聞かされすぎているからだろう。真琴はなんとなくそう思うとシャツの袖で涙を拭く。


(新しい体を欲しがっていることが多い?簡単にさらりと言ってくれちゃって……。そうなったら私はどうなるんだよ)


 あの日階段での出来事が脳裏によぎる。あのまま影女の顔を見てしまったいたら今ここにいるのは七瀬サナということになるのだろうか?自分の考えと思っていたより危険な状況だったことに体が震えた。


(で、この道はあの廃校に行く道だよね。最終決戦ってやつかな)


 レジでは恭介がブラックのコーヒーを二本買っているのが見えている。


(あの色白さんが悪霊退治してくれるのかね?心細い気がするんだけどなぁ)


 真琴の思いは幸いにも届いていないようで恭介はドアを開け車に入ると笑顔でコーヒーを差し出した。


「ありがとうございます」

「それを飲んで落ち着きましたら廃校に向かいましょう」


 真琴は答えずに缶コーヒーのボトルを開けた。

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