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眠たかったので多少短めで投稿しました。
鏡屋を訪ねてから五日が経った。
恭介からは二度連絡が来ていた。一度目は三日目、影女が自分の近くまで接近をしていないかの確認。次の日にまた連絡があったがまだ原因となるものの特定には至っていないという中間報告だった。
外出の際に時々視界の端に見え隠れしている影女に驚いて思わず小さく悲鳴を上げてしまうことはあったが、あの精神が蝕まれてしまうような非日常生活からは何とか脱却できたとようやく安堵していた。
あの日から連絡を取っていなかった綾香と孝弘にもメールでだが簡単な返事を送った。それから鬼のような返信や着信がスマホには残っていたがそれは放置をしていた。数少ない友人が心配をしてくれてありがたいのだが今の状況を説明する程にはまだ気持ちの整理が出来てはいなかった。
(友達居なくなりそうだわ、ばあちゃん)
ベッドに大の字になりながら真琴はぼんやりと部屋の天井を眺めている。
必要時意外にはなるべく視界が広くなる場所には出たくは無かった。お守りのお陰で近くに影女が寄ってこないことは分かっているのだが鏡屋の階段前の一件が心の中に深い爪痕を残していた。
(このまま休んでたら会社だってクビになるよね……)
あーあ、と深くため息をついた。
真琴は田舎にはありがちな病院との複合型の大型介護施設で事務員として働いていた。勤めだしてからは真面目に働き上司や周りの同僚にもそこそこの信頼を受けるようになってはいたが、それを差し引いても今日までは今まで使ったことの無かった有給をフルに使って休みを取っているのだ。流石にこれ以上仕事を休むのは限界だった。
(病院と複合型って言うところがまたねぇ……)
いらぬ想像を働かせてしまうだろう事は想像だに難くない。それどころか今は想像どころか本物が見えてしまっているのだ。余計なトラブルに巻き込まれてしまわないか心配するのも無理は無いだろう。
何を考えても悪い方向にしか考えは向かなかった。
そんな時真琴の耳に、着信を知らせるバイブ音が聞こえてきた。
発信先は柏木恭介と表示されている。
「はい、七瀬です。柏木さんですか?」
『お昼時に申し訳ありません。今お時間を頂いても宜しいでしょうか』
恭介は知らせたいことと実際にあって確かめたいことがあるので車で迎えに行くと言うと電話を切った。
その十数分後に再度真琴に恭介から着信があり、真琴は簡単に身支度を済ませると家から出ると恭介が運転する車に乗り込んだ。
「突然呼び出してしまい申し訳ありません。今までの調査の結果をお伝えするのと実際に現地調査にお付き合い頂きたいと思いまして今回はご同席いただきます」
「出来れば出かけるなら先にお伝え頂きたかったですが」
「申し訳ありません」
恭介は申し訳なさそうにそう言うと車のダッシュボードに乗せていたA4用紙の束を真琴に手渡した。
タイトルは「ぬ九八二号」。訳が分からない。
真琴が一枚目のタイトルに眉をひそめていると恭介が助け舟を出した。
「そのページには意味はありませんよ。今までご依頼頂いた件数です」
「…いろはにほへと?」
「そうなります」
「うわ、すごい件数なんですね」
「先人の苦労の跡が垣間見えますよ……。まぁそちらに驚かれていたら説明が進みませんので十枚めくって頂いても宜しいでしょうか?」
「あ、はい」
素直に真琴は十枚目紙をめくる。
そこには見覚えのある名前と見知らぬ名前が並んでいた。
誤字脱字などが御座いましたらご指摘頂ければ幸いです。