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-3-

 恭介はビジネスホテルに戻っていた。既に時間は夜十一時を回っている。

 帰りにコンビニで適当な食事を見繕い部屋で食べた後はユニットバスでシャワーを浴び、ベッドの上で寝転びながらスマホを弄っていた。

 スマホの画面には神社庁の号令で同業者が開発した連絡用のアプリが表示されている。まだ、新着は無いようで直ぐに画面を切り替えると例のSNSサイトが表示をされる。先ほど確認した新着書き込みは案の定厄介な内容だった。


 『監視されています。お気をつけて。直ぐ連絡係を手配します』


 何処からかは分からないが見られていたのだろう。考えてみると恐らくはあのアパートに来たところを監視されていたのだろうか?向こうはこちらの動向が分かっているようだ。勿論このビジネスホテルも。油断は出来ないが相手が分からない以上対策の仕様が無いことも確かだった。何せ心当たりが無い。向こうの連絡先がやって来てくれるのを待つのが関の山だ。

 ただこちらから出かける必要が無いのが恭介としてはありがたかった。ゆっくりと羽伸ばし、いや考える時間があるということだった。


 備え付けの冷蔵庫から冷えたスポーツドリンクを取り出すと一気に半分ほどを飲み干し、適当にテレビをつけるが好みの番組はやっていないようだった。直ぐに電源を切る。

 あまり仕事熱心にしていては体に毒だ。恭介は直ぐに頭を切り替えると部屋の電気を消しベッドの中に潜り込んだ。




 朝目覚めるとベッドの横の棚の上に置かれているスマホに通知を示すライトがちかちかと点滅をしていた。首を動かしベッド横の備え付けの時計を眺めるとデジタル表示で6:48の表示。

 もぞもぞと手だけを伸ばしスマホの横にある眼鏡を取りあくびをしながら目に掛ける。次にスマホを手に取るとを寝ぼけた目でロックを解除し通知の内容を確認した。


 例のSNSへの書き込みがあった様だ。

 

『伺います』


 日時や場所の指定はなし。思わず溜息が零れる。もう少し情報の開示が欲しいところだ。秘密主義にも程がある。または長々と文章を打ってられないほどの窮地に追い込まれているのか。どちらにしても厄介そうなことに代わりは無かった。


 手早く洗面と着替えを済ませる。シャツは皺になっているがこの際どうでも良いだろう。昨日冷蔵庫に入れ忘れた生暖かいスポーツドリンクを手に取り残りを一息に飲み干す。

 後は何か腹に入れたいところなんだけどなぁ。そう恭介が思っていたところにドアがノックされた。

 横目でデジタル時計を眺めると7:05。一寸迷惑すぎる時間じゃないかと苦笑しながら恭介はシャツの襟を正す。


「どちら様ですか?」


 ドアの向こうにそう呼びかける。


「中に入れていただけませんか」


 聞こえてきた声は予想に反して女性のものだった。女の子、といっても差し支えは無いだろう。


「ええ、ですのでどちら様ですか?」

「お嬢様より伝言をお預かりしています」

「ああもう」


 恭介ドアの向こうには聞こえないようにつぶやくとチェーンを掛けたまま少しだけドアを開けた。それにしてもお嬢様と来たものだ。どこぞの資産家が依頼主だろうか?もっと情報が欲しいところだった。


「もう少し開けて頂かないと入れません」

「入らせないためのチェーンです。知らない人を部屋に入れてはいけませんと教えられていますので」

「ああもう」


 向こうはこちらに聞こえるよう大きな声で言ったようだ。こういうやり取りには慣れていないのかもしれないな。恭介はそう思いながらチェーンを外した。


「どうぞ。まだ散らかっていますが」


 チェーンを外した音を聞いたのかドアを開いて、高校生ぐらいの女の子がするりと部屋の中に入ってくる。顔立ちは整っているが少しきつい印象を受けた。長い黒髪は肩の辺りで揺れている。外は少し寒かったのか手は真っ赤になっていた。

 女の子は後ろ手にドアの鍵を閉めるとすたすたと歩き窓際に置いてある椅子に腰掛けた。疲れているのか長い溜息を吐いていた。


「お茶でも飲みますか?」


 恭介は苦笑しながらそういうと備え付けの冷蔵庫からお茶の入ったペットボトルを取り出すと女の子に渡そうとするが手で遮られる。やれやれと肩をすくめるとお茶を冷蔵庫の中に戻した。


「こんな早い時間にお越しいただきありがとうございます。で、あなたが『連絡先』でしょうか?」

「そうです。こんな所までご足労頂きありがとうございます」


 向こうの心象でも悪くしたのだろうか。『連絡先』は嫌味たっぷりにそういうと頭を下げた。


「私のことは恵美めぐみとお呼び下さい」

「はい、分かりました。私は柏木恭介といいます。宜しくお願い致します」


 『連絡先』こと恵美は時折窓の下を覗きながら続けた。


「今回の依頼はお嬢様の救出です」

「はぁ」

「はぁ、って何か問題でも」

「スパイ映画宜しく監禁されているお嬢様を助け出すようなことは無理ですよ?」

「あなた方の得意分野ですのでご安心下さい。お嬢様より直々のご依頼です。間違いはありません」


 人選はミスってるよなぁ、お嬢様。とは口に出さずに再度「はぁ」とやる気の無い返事を返した恭介に苛立ったのか恵美は椅子から立ち上がる。怒らせるのも手段の内だがどうやら簡単にいったらしい。


「拒否権はありませんよ拝み屋さん。これから目的地について来て頂きます」

「まぁまぁ。落ち着いてお座り下さい」

「時間がありません」

「そんな事言われても困ります。これでも公務員ですから。ちゃんと御依頼書を作成いたしますね」

「そんな時間はないと」

「仕事ですから無理です」


 ぴしゃりと言い放つと恭介はそれ以上何も言わなかった。沈黙は三十秒も持たなかっただろう。恵美は盛大な溜息を吐くと椅子に腰を下ろした。


「ではご依頼をお受けいたします」


 笑顔を浮かべ恭介はキャリーケースから台帳を取り出した。

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