-2-
山の中へと続くにはあまりにも場違いなほど綺麗に舗装された道があった。
道路の脇にはきちんと等間隔に電灯が配置をされ、うっそうと茂る木々は適度に枝を払われその下に伸びる草は刈られていた。奥へと進んでいくとまるで関所のような門が姿を現す。
その門の先には大きな平屋建ての屋敷があった。武家屋敷の様と言った方が想像し易いかもしれない。敷地は三百坪はあるだろうか。非常に立派な作りをしていた。
中を伺うと母屋の他にも離れが幾つか見えるが、門の前からでははっきりとした全容を伺うことは出来なかった。
母屋の中へ入ると使用人だろう紺色の着物を着た女性たちが忙しそうに廊下を歩き回っている。手には食事時なのだろうか漆塗りのお膳が持たれていた。
百メートルはありそうな廊下の先には等間隔で障子が並んでいる。着物の女性たちは一人ずつ障子の前で膝をつき何事かをしばらく伝えた後、頭を下げたままゆっくりと障子を開ける。
その先には八畳程の和室があった。部屋の中にはテレビやパソコンなどの家電製品は無く、立派な一枚板で出来た座卓だけが置かれていた。
「お食事をお持ちしました」
着物の女性はそう言うと頭を下げたままお膳を畳の上に上げると静かに障子を閉める。そして立ち上がると何処かへと戻って行った。
和室の中には女性が一人正座をしていた。年のころは二十歳を少し過ぎた頃だろうか。豪華な刺繍がされた赤い着物を羽織っている。だがその化粧の無い顔には疲労が色濃く浮かび上がっていた。
女性は深く溜息を吐くと障子の前に置かれたお膳を手に取り、座卓の上に運び食事を始める。
麦飯とお吸い物、大根の漬物が二切れだけ。着物や座卓、食器からは想像がつかぬほど質素な食事がお膳の上には載っていた。それでも赤い着物の女性は黙々と食事を口に運び、僅かに表情を崩していた。この食事の時間だけが気を抜くことができる瞬間だった。
部屋を替え、隣の部屋も全く同じ光景があった。
和室。座卓。豪華な着物の女性。
その隣も。その隣も。その隣も。その隣もその隣もその隣も。
まるで金太郎飴のようなその光景は廊下の最後まで変わらず、あまりにも現実離れをしていた。
暫く時間が経ち、全ての部屋の女性が食事を終えお膳を廊下に戻すと何処からか紺色の着物を着た女性たちが現れ、今度は無言でお膳を手に取り戻って行く。
その女性たちが廊下を歩く音が無くなると母屋は誰も存在をしないかのように全ての音が無くなった。




