贄
右手には山、左手には海が広がる国道を一台の車が走っている。運転手の名前は柏木恭介といった。
年のころは三十台位だろうか。白いワイシャツにグレーのスラックスをはき、ネクタイはしていない。ジャケットは助手席にたたまれて置かれていた。顔は良くも悪くも一般的な作りで特徴は無い。陽の光がまぶしいのか似合わないサングラスを掛けていた。ただ、恭介にはひときわ目立つ特徴があった。先天性白皮症、いわゆるアルビノと呼ばれる遺伝子疾患と見間違うほどに白い肌をしていたが、髪の色はアルビノの特徴の一つの金髪や銀髪ではなく、日本人らしく黒色をしていた。
柏木の目的の町までは後三十分程で到着といったところだろうか。北海道の道央に位置する静かな町だ。
恭介はドリンクホルダーに納まるコーヒーを手に取ると一口飲んだ後に少し伸びをした。
依頼ともイタズラとも言えないSNSの書き込みの確認に遠路はるばる車を走らせていた。あの内容であればイタズラである可能性のほうが大きいのだろうが、調べてみると何となく気になる点が少し見つかった。
最初の『助けて下さい』が書き込まれたのはどうやらネットカフェのPCからで、それに対して返事をしたところ再度住所が書き込まれた場所はPCからではあったが、書き込まれた住所からは一つ隣の町からのようだった。
書き込みは勿論パスワードが設定されていて書き込んだ本人にしか見られないようにしている。ネットに詳しいものであれば勿論パスワードを調べることもできるのかもしれないが、その可能性は限りなく低いだろうと考えると恐らくは同一人物の書き込みなのだろう。
しかし何故わざわざ別々の場所からわざわざPCで書き込みを行っていたのだろうか。スマホがあれば何処からでも書き込みなんかは出来る時代だというのに。まぁ特定を避けたり、外出先でたまたま書き込みを行った可能性もあるわけだが。恭介は何となく腑に落ちていなかった。
ちなみに周囲の市町村を管轄をしている同業者に書き込まれた住所を確認してもらったところ、どうやらその町の大地主との事だった。
一応連絡先を教えて欲しいと何度か書き込んでは見たものの、それから音沙汰はなし。仕方なくこうして車で向っているところだった。だが、実のところ恭介はここの所仕事が立て込んでいたため息抜きのつもりで車を走らせている意味もあった。少し前に仕事の出来る事務員が増えてくれたことで店を開ける余裕も出来た。仕事に関しては今までかなりブラックだったもあり、店を任せてこうして景色を眺めながらドライブをするのも何時振りだったか記憶に無い。
出来ればこのまま「仕事」にはならないで、何時振りかの羽伸ばしにならないか。恭介は景色を眺めながらぼんやりとそんなことを考えていた。




