一人前に魔法が使えるようになったらご褒美下さい 第一話 その1
駅のホームには、少数の乗客が並んでいる。
「まもなく、13番線に電車が参ります」
到着のアナウンスが流れると、並んでいた乗客はそわそわし始める。
ゆっくりと電車がホームに入場してくる。
それを、今かとホームの乗客たちは見つめる。
電車の乗客たちは、扉が開くのを今か今かと待ち構えている。
「ラシュラトス、終点です」
扉が開くと、多くの乗客が降りてきて、ホームは一気に人で一杯にな
る。
スーツ姿のサラリーマン、学生服を着た学生、作業着の人など様々で
ある。
コツッ、コツッ、コツッ……
人々の歩く音が、広い構内で靴音の輪唱を奏でている。
そんな中、一筋の悲鳴がこの状態を切り裂いた。
「きゃー、私の鞄!!」
一気に、注目が集まる。
視線の先には、女子学生がうずくまっている。
彼女の視線の先には、一人の私服の男性が走って逃げている。
手には、学生用鞄。
あきらかに不釣合いだ。
あれが女子生徒の鞄であることは、周囲のものが把握するのに時間は
かからなかった。
しかし、逃げ足は速く、気づいたものが追いかけるも人が多すぎてた
どり着けない。
一方で、騒ぎに気づいたものの、何が起こったのかわからないものは
この男に道を譲ってしまう。
「ひったくりだ!!」
気づいた者が叫ぶも、誰がひったくり犯人か、どこにいるのかが
分からず、構内が混乱し始める。
「空けて!」
大声ではないが、通った声が耳に入ってくる。
そして、窃盗犯への1本の道が出来上がり、そこを一筋の光が走る。
その光は窃盗犯の足に絡みつき、躓き倒れてしまう。
乗客たちは、その場を囲むように眺めている。
そこに、駅員が到着し窃盗犯は連行される。
駅員が女子学生の鞄を本人に返された。
女子学生は駅員におじぎをして何かを話した後、しばらく
周囲を見回していたが、諦めて改札口に向かった。
コツッ、コツッ、コツッ……
再び、駅構内は雑踏を取り戻し、人々が行きかう。
まるで、何事もなかったかのように……。