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静時動刻

作者: での

サイレンの音


住宅街の路地裏にパトカーが止まる


中からでてきた警察官が路地裏に入っていく


「警察だ放火魔の門崎だな所まで同行してもらう」

若い警察官が銃を突き付けた、銃口の先にはガソリンの入った缶とライターを持った男が立っていた


男は動じない

むしろこちらに気付く気配も無い

それどころか、動く気配さえ…


「なんとか、言ったらどうだ…」

気味が悪い

まるで反応が無い

蝋人形でも相手にしているのかのようだ


「あ〜、あいつが現れたのか」

先輩が言った


「…あいつ?」


「そうか、お前は入ったばかりで知らないか、うわさ程度で聞いたことくらいはあると思うが」


先輩がボサボサの髪をかきながら、話してくれた


「何故かはわからないが、昔からあるんだよ、警察に通報してきて警官が現場に行ったら犯人が動かないって事がね」


「しかも、昔って言っても本当に昔だぞ警察の1番古い記録にものっている」


そういって先輩は笑った


確かに、人がしばらく動かなくなる類の話は聞いた事がある

都市伝説かと思ってたけれど現実にあるとは


「まぁ後2〜3日は動かないよ、署に連行しといてくれ」


-◇-


バタン


街の路地裏

築数十年たっているような木造の古い家


扉を閉めると少し家が揺れる


「おぅ、おかえり、どうだったって聞く程でもないか」


初老の男が軽く笑いながら話す


視線の先には若い男がいる腰まである長い黒髪が特徴で今時の若者には珍しい着物を着ている


「問題無い、警察にも連絡をいれたから任務完了だ」

若い男はそれだけ言って

階段を昇っていった


「やれやれ、相変わらずだ」

初老の男はそういいながらTVを見ている


博物館に泥棒が入ったといった内容のニュースが流れている


-◇-


「貴公の呪いを、今の私では解くことはできないけれど、いずれ私が生まれ変わった時は貴公の呪いを必ず解きますから」


女の人の声

徐々に力が無くなっていく手

そんな彼女の手を握りただ泣いている自分…


目が覚めた

凄く懐かし夢を見た

この夢を見ると少し鬱になる


「あの日からもう千年はたってるぞ」


もう彼女の名前も思い出せない


窓から外を見る

いつもと変わらない景色が拡がっている


「時斗さん、依頼がきとるぞ」


重蔵の声がする

また、いつもと変わらない1日が始まるのか


溜息をつき階段を降りた


-◇-


「今回の依頼は身辺警護じゃ」

重蔵はそう言って写真等の資料を机に並べだした


「…は?」

呆気にとられた

身辺警護いわゆるボディーガードってものだが

自分の呪いを考えると向いている仕事ではない


「そのての仕事はしないと言っていたはずだが」


「ふむ、聞いているよ、ただ今回は事情があってな、どうも時斗さんの呪い絡みらしいんだよ」


「呪い絡み…」

重蔵の家系は代々情報屋をしてきている、ほぼ誤った情報を仕入れてくることは無い


「話を聞こうか」

少し興奮してきている、こんな気分は久しぶりだ


「身辺警護をしてもらうのはこの娘じゃ」


重蔵から渡された写真と資料を見る


資料には

名前

家族構成

通っている学校

学校での成績等々


護衛をする人物の情報が

そんなに必要に無さそうな物も含め集められていた


…スリーサイズなんて何に使うんだ?


今回の護衛をする人物は

時乃 雫 16歳


写真で見た感じでは普通の女の子のようだが


「護衛する人物はわかった、でこの子が私の呪いとどういった関係が?」


資料を読み返したが

全く関係がわからない


重蔵が躊躇って口を開いた

「わしにもわからん」


わからない?

どういう事だ?

つい先ほど呪い絡みだって言っていたのに??


「依頼主は誰だ!!」

カッとなって

つい荒い言い方になってしまった


「最後まで話を聞け、これは向こうから言ってきたのは3つじゃ」


「まず、依頼主主は明かせん、次に護衛の対象者には護衛している事を秘密にすること、そして時斗さんの呪いに関係している事」


「な…それだけで」

苛々が治まらず、机を叩いた埃が舞った


「よく考えよ、依頼主が時斗さんの呪いの事を知っておったのじゃぞ」

重蔵は含み笑いをしていた


依頼主が呪いの事を知っていた…


考えるてみると不思議ではある


今となっては

呪いの事を知っている者は私と重蔵くらいだと思っていたが


少しの間目を閉じ

考えた

何故、依頼主は名前を伏せたのか

いや、今はそこはいいだろう


呪いについて

他に何か手掛かりがあるわけでも無い


「わかった、この依頼を請けよう」

余り乗り気では無いが

仕方が無い


「よし、早速高校への転入の手続きをしておくぞ」

重蔵は奥の部屋に入っていった


「は…」

呆気にとられた

転入?

「待て!重蔵」

何故、そんな話しになる


待てと言ったが

既に遅く


重蔵は奥の部屋に入っていた


あの部屋には堅牢な鍵がかかっているから入ることはできない


重蔵に遊ばれているのではないか、そんな気もしてくる


「考えても、仕方が無い」

椅子に腰掛け

再び写真を見る


「しかし、なぜこんな子に護衛が必要何だ」


そもそも

何故狙われているのか

狙っているのが

個人なのか

組織なのかも

わからない


呪いとの係わり何てもっての他


「貴公の呪いを…」

急に今朝の夢がフラッシュバックした


夢の中の彼女と写真の子が似ているわけでも無いのに


目眩がして

座っている椅子から落ちそうになった


「大丈夫か?」

顔を上げると、重蔵が立っていた

右手に大きな紙袋を持っている


「大丈夫だ…それより、もう部屋からでてきたのか、早かったな」


重蔵が部屋に入ってからまだ1時間とたってないはずだ


「色々と準備はしてあったからな、ほれっ」


重蔵から渡された紙袋の中には学生服と学生証が入っていた


「用意が良すぎだろう」

疑いの眼差しで重蔵をみる

「ほっほっほ気にするでない」

重蔵は笑っている


「グローブを着けて学校に行く許可もとっておいたぞ」


「それはありがたいが…いやいい」


出来過ぎてはいるが

追求しても、はぐらかされるのは目に見えている


幸い

時代についていく為

教科書が改訂される度読んでいるので

授業とやらにはついていけるはずだ


問題は呪いだ

他人に影響を与えるから

対策を考えないと


ふと嫌な予感がした


「なぁ、私はいつから学校に通う事になるんだ?」


「流石に呪いの対策を考える時間が必要じゃろ」


少し安心した


次の言葉を聞くまでは


「今日は無理じゃろうから、明日にしといたぞ」


嫌な予感が的中した


-◇-


だ…


2階のベットにバタンと倒れ込む


対策を練らないと…


先ず

第一に素肌に触られないことこれが1番大事だ


制服は袖が長かったし

グローブを着けて行けるのならさほど問題無いか…


今は9月だから、水泳と言う科目も無いだろう


流石にいきなり顔を触ってくるやつなんていないだろうし


次に怪しい行動をとらないこと、護衛対象に護衛していることを悟られるわけにはいかないからな


これは呪いの力を使わなければ大丈夫だろう…おそらく


…こんなところか?

大事な事を忘れて無いといいが


-◇-


ベットから起き

急いで着替えて

外に出る


学校に通うのは明日からだが、護衛自体は今日からだ

時計は7時を回っていた


先ずは彼女の家と通学路の確認だ


近所ということもあり、家はすぐに見つかった


「家に何かがあるって事は流石に無いよな…」


古い趣のある家だ

標札の横には某警備会社の名前があった


古い家に某警備会社のシステム…何とも言えない違和感を感じた


まぁ、いいか

その場から立ち去ろうとした


「あなた誰?」


まずい、誰かに見つかった…


声の方を振り向くと


時乃 雫が立っていた


よりによって、護衛する人に見付かるとは


どうしたものか…


「見たこと無い子だけど、子供がこんな時間に、私服でうろうろして、学校はどうしたの?」


…先ず初めに説明しておこう

私は生まれたのが

かなり昔になるから

身長が低い


顔付きも今時の高校生と比べると…多分中学生くらいに見られるであろう


ただ、さっきの彼女の言いようだと、小学生くらいと勘違いされてないか


「すみません、つい最近この辺りに引越してきたもので、明日から近所の高校に通う通学路を調べていたんです」

高校と言う言葉を強調した


「高校生!!」

彼女は驚いた様子でこっちを見ている


「ごめーん、全然見えなかった」

あははっ、って笑っている

「君、面白いよ名前は?」


「静動 時斗…」

名前だけ答えた

まだ高校生って事を疑ってる用に見える


「ときと…珍しい名前だね、僕は時乃 雫よろしく!」

彼女はそういって手を差し出した

多少躊躇ったが、私もグローブをした手を差し出す


「そういえば、高校に行く道を探してるんだよね、おねーさんについて来なさい」


手を引っ張って

学校の方へ走っていく

こちらが話し掛ける余裕なんて無かった


学校へ引っ張られていく途中、色々な人が彼女に声をかけていた


その内容が殆ど

雫ちゃん小学生の弟いたの(笑)

だった…

少し哀しくなった


彼女は笑顔で

「そんなこと無いですよ、新しく引越して来た子の道案内よ」

って答えていた

小学生の所も否定してくれ…


否定しようと声をだそうとした時には既に声をかけてくれた人達は遠くに行っていた


「しずちゃん、おはよう」向こうから、背が高い女の人が話しかけてきた


雫が「おはよー」って返している


「あれ、誰?この子、しずちゃん幼児誘拐でもしたの?」

幼児誘拐ときたか…


「残念、単なる道案内でした、僕が幼児誘拐なんてする訳無いでしょ」


「いや、あんたは何しでかすかわからないからね、可能性としてはあるよ」


二人で笑いながら会話をしている、背が高い子も雫と同じ制服を着ている、学校の友人かな?


長髪にして長身

モデルさんのようなスタイルだ


「驚くなかれ、この子はこう見えて高校生らしいんだよ」

雫が何故か自慢げに言っている


「えっ…高校生」

彼女は凄く驚いているように見えた


「僕も最初は小学生かと思ってたから大丈夫」

…何が大丈夫なんだ


「まったく、失礼な人達だ」

私はついつい悪態をついた


「ホントにごめんなさい」

背の高い女の人が申し訳なさそうに謝ってくれた


「いいのよ、涼子謝らなくて、勘違いするような姿をしてしる時斗が悪い」


「勘違いするような姿で悪かったな…」

つくづく、カンに障る


「ごめんなさいね、しずちゃんは悪気があって言っているんじゃ無いと思うから」

涼子と呼ばれた子が相変わらず、申し訳なさそうな顔をしている


「立ち止まっていると遅刻するよ、歩きながら話そっか」

私は、また手を引かれながら高校への道を歩いた

失礼な性格だか不思議な子だ

今朝会ったばかりのはずなのにもう打ち解けている


長年、重蔵の一族と請けた依頼の関係者としか会っていない身にとっては少し変な心地がする


でも、嫌ではない

凄く懐かしい感じがする


学校へ行く道すがら

雫と涼子に質問攻めにあった


私はとりあえず、怪しまれない程度に自分の事を答えた


…心なしか身長とかの事についての質問が多かった用に思えた


気が付いたら高校の前に着いていた


「ここが高校ね、またね、帰り道は迷わないように」

雫たちはそういい校門を通って行った


-◇-


夕台高校


目の前に見える

明日から通う学校の名前だ

海に沈む夕日が見える高台に設立したのが

名前の由来になっているらしい


記憶によると

元々は城が在った場所だった、明治時代に取り壊されて、20年ほど前に高校が建設された


流石に学校内に忍び込む訳にはいかないので


私は怪しい人影が無いか、近くに在った木に上って監察することにした


-◇-


学校が終わるまで

木の上で監視をしていたが

昼辺りに、チャイムがなると同時に勢いよく多くの学生が一箇所に集まり、


何やら凄い争いがあっが、その場に彼女はいなかったので特には意味は無いか…


しかし、何故パンの袋を握って喜んでいるのだろうか?


変わった事と言えばそれくらいで、特に何も無くその日の護衛は終了した


家に帰ったら重蔵に詳しく護衛の事を聞かないといけない、


流石に狙っているグループを知らないと


彼女に近付く者が誰彼、怪しく見えてしまうからだ


-◇-


「正直な話し、わしもどんなグループに狙われているかわからん」

重蔵が残念そうに答える


私が言おうとした言葉を静止して、重蔵は続けた


「正確には狙っている可能性のある人物・グループが多すぎて何処が狙ってくるのかがわからんのじゃ」


多くの組織が狙うような人物…いったい彼女は何者なんだ


「しかし、それほどの人物なら、今まで話題にのぼらなかったんだ、そもそも、私の手におえる依頼なのか…」


いくら呪いの力を使おうが、多くから狙われている人を護衛するのは難しすぎる…


「わしも依頼を請けた後、彼女を狙っている組織らについて色々調べたんじゃが…」

重蔵は手元にある資料をパラパラと開いている


「狙っている組織らが動き出したのが、つい最近なんじゃ」

そういって、資料をこっちによこす


「残念ながら、それが何故なのかはまではわからかったがの」

渡された資料を見る


「ここに載っているので組織は全てか?」

溜め息がでる

資料の中に載っている組織は十数種類はあったからだ

「わからんよ、氷山の一角かもしれんしの、また調べておくよ」

重蔵は奥の部屋へ入って行った


-◇-


狙っている組織に対しての対策

狙っている理由…

そんな事を考えていたら朝になっていた

遠くで鳥が鳴いている


今日からは学校内部での護衛も可能になる


ぼうっとした頭で制服に着替えて外にでる


先ずは、彼女の家に行かないと


「おっはよー、ホントにうちの高校の制服をきてきてる!」

雫が朝からハイテンションで挨拶をしてきた


「おはよう」

少し気の抜けた返事で返す


ん…なんか失礼な事を言われた気がするが


「それじゃ、学校に行こうか」

彼女は明るくそう言った


道行く人に挨拶をしながら通学路を歩いていく


「時乃さん、最近まわりで変わった事とか何かあった?」

ふと、気になって質問してみた、これぐらいは怪しまれないだろう


「変わった事ねぇ、最近だとちっちゃい転校生が今日から学校に来るくらいかな」

雫は笑いながらこっちを見ている


「でも、何で急にそんな事を聞くの?」

雫は不思議そうに首を傾げる

…怪しまれた?


「いや、新しい高校がどんな感じか気になって」

とっさに出て来た言葉がそれだった

駄目だ返答になってない


「成る程、特に普通の高校だと思うよ」


「あー、でもうちの担任は変わってるかな」

雫は絶対に驚くから楽しみにしててね、って顔をしている


何とかなったのかな


「急に変な事を聞いてきたから驚いたよ、探偵さんが身辺調査でも、してきたのかと思ったよ」


うーむ、あながち遠からずではあるな…

感が鋭いのか


「いやー、最近よんだ少年探偵の小説があってね、時斗の容姿がそっくりだから(主に身長)まさかリアル探偵かって思ってね」


…つい最近読んだ小説か、心のなかでついつっこんでしまった


「流石にそれはないだろ」


「お二人さん、おはよう」涼子が挨拶をしてきた


「おはよー」

「おはよう」

雫と私は挨拶を返した


「あっ、高校の制服をきてる、似合ってるよ、可愛い」

涼子が微笑んだ


似合っていると言われるのは嬉しいが、可愛いは余計だ…


「涼子実は…」

雫がニヤリとしてこっちを見た


「なに?」

涼子が興味津々顔で雫を見ている


「時斗は少年探偵で、年齢を偽って高校に転校してきたの、そして、高校で起きる難事件を次々と解決へ…」

雫の暴走が始まった


「おい!それは最近読んだ小説の話だろ」


「時斗さんって、少年探偵だったんですか」

涼子が驚いた表情でこっちを見ている


「いや、涼子さん違いますから」

私は軽く否定した

雫は何故か不満顔だ…


「ノリが悪いわね」

「あるときは小学生探偵、またあるときは幼稚園児探偵、


今回は初めての高校生探偵に挑戦!!


果たして、高校生って事で通していけるのか、そう私は少年探偵時斗!!


夕台高校に起きる難事件を見事に解決してみせる!!!」

ビシッとキメポーズをとる雫


「せめてこれくらいしてもらわないと」

ふうって溜め息をついている


「できるかっ!!」


そんなやり取りが続いて、気が付いたら高校に着いていた


「雫さんと涼子さん、おはようございます」

校門には40歳くらいのスーツを来た女性が立っていた


「教頭先生、おはよー」

「教頭先生、おはようございます」

雫と涼子が挨拶をしている、彼女はこの高校の教頭先生らしい


「あらあら、もう転校生と仲良くなったの、早いわね」

教頭先生が微笑みかけた、優しい笑顔だ


「まぁね、僕の数ある特技の中の一つですから」

雫が自慢げに言った


「じゃあ、また後でね」

雫と涼子はそういって教室の方へ走っていった


「では時斗君、初めまして、教頭の冴原です、先ずは職員室に案内しましょう」

教頭先生の先導で学校に入る


廊下の途中で教頭先生が話し掛けてきた

「時斗君の事は重蔵さんから聞いているよ、この高校に入ってきた理由も…」


授業中なので辺りに人気は無いが、重蔵からは教頭先生については何も聞いてない

「教頭先生は重蔵とどういった関係なんですか?」


「もしかして、あの人何も言ってなかった?」

教頭先生はふうって少し溜め息をついた


「あの人らしいわね、私は簡単に言うと協力者っていった所ね」


教頭先生が言うには

重蔵は全世界にネットワークを持っているらしく

色々な場所に様々な任務をこなす人と、それをサポートする人がいるらしい


重蔵の一族が長年いろんなネットワークを持っていたことは知っていたが

まさか、これほど凄いレベルだったとは


「雫さんの事、頼みます、彼女凄くいい子だから」

教頭先生の言葉は力がこもっていた


「わかりました」

私はただそれだけしか答えられなかった


「さて、この話はここまでにして職員室に行きましょうか」


職員室に行き

校則等の簡単な説明を受けて、教科書を受け取る


「君か!我がクラスに転校してきたって生徒は!!」

大きな声がした

声のした方を向くと

上下青いジャージ姿をした30代くらいの男性が近付いてきていた


「私の名前は五藤!君のクラスの担任だ!よろしくっ!!」

先生はビシッっと親指を立てた、満面の笑顔、白い歯がキラッと光った気がした


「よろしくお願いします」なんだろう…

自分の中の全身の細胞がフル稼働して震えている気がする、


全身全霊でこの先生を警戒しているようだった


五藤先生に連れられて教室の前まで行く

クラスは1年3組だった

教室はざわざわしていた


「ちょっと待っててくれ!!」

先生はそう言って教室の中に入って行った


「今日は!みなさんおまちかね!転校生が来る日です!!」

中から先生の声がする、教室の外にいても聞こえる程声がでかい


「それでは!転校生に来てもらいましょう!!カモーン転校生!!!」


…帰りたい気持ちで一杯になった

溜め息混じりで教室の扉を開ける


おぉって声と小さって声が生徒から聞こえてくる


私は先生の方に歩いて行き一声

「うざい」


『うざい』と言う言葉は知っていたが、まさか使うことがあろうとは


教室が急に静かになった

生徒の方を見渡す

雫と涼子は同じクラスらしい

雫は必死に笑いを堪えているようだ


「先生はその程度ではへこたれないぞ!!転校生!!自己紹介を!!!」

右手をマイクを持ってインタビューをする人の用にこっちに向けている


先生の時を一ヶ月ぐらい止めたいと本気で思った


「静動 時斗です、よろしく」

渋々ながら名前を言う


雫はこっちに気付くように『ナイスツッコミ』と書いた紙をみせる


そんなに面白かったのか…


-◇-


「やっぱり君面白いよ、五藤先生に初対面であんな事を言うなんて」

休み時間になって

雫が机に来るなり笑っている


私の席は1番後ろで、雫の席とは離れた位置あった、ただ全体を見渡すには調度良い席だった


今は休憩時間で、雫以外にも何人か私の机の周りに集まっていた


「この子か、昨日しずちゃんが言ってた高校まで案内した小学生ってのは、確かに小さい」

大柄な男がガハハハと豪快に笑っている


「時乃さん、昨日いったいどんな話をしたんだ」

溜め息をつく


「どんなって、富迫君が行った通りの事だよ」


「静動さんは、何で手に黒い手袋をしてるの?」

小柄な男の子が質問して来た

小柄だと言っても私よりは背が高いが


「潔癖症でね、一応学校からの許可はとってあるよ」言い終わったと同時に殺気!!


「そんな症状、僕が性根から叩き直してあげる」

何故性根から?

ってツッコミをいれる暇なが無い、目が本気さを物語っている


だが触られる訳には行かない


手を狙ってきた一撃目

回避

同時に机から離れる


「まだまだっ、富迫!陸!確保っ」

捕まえに来た二人の脇を擦り抜けて、廊下に出る


「涼子後の事はお願いね」

雫はそう言って、廊下に出て行き時斗を追い掛ける


「えっ?しずちゃん、授業始まっちゃうよっ」

涼子が廊下を見たときには既に二人の姿は無かった


「時乃さんは、単に次の授業サボりたかっただけなんじゃない、静動くんも災難だね初日から」

陸と呼ばれた、小柄な男が苦笑いをしている


「しかし、時斗の身のこなしは凄かったな、しずちゃんの一撃をかわすとは」

富迫が感心している


「後は任せたってなにをすれば良いのよ…」

涼子が戸惑っている


「それは、ノリで言ったんじゃないかな」


-◇-


あれ、何故護衛する人物から追い掛けられているんだ…


廊下を走る

この高校にきたばかりだから地形が全くわからない


「今日きたばかりの人が、逃げ切れると思って?」

雫がノリノリで追っ掛けてくる、速い


階段を一気に駆け降りる


どちらに行けばいいのか解らないので廊下を左に曲がる


「甘いわね、そっちの突き当たりは行き止まりよ!」

雫が言った通り、突き当たりは非常階段の入口で鍵がかかっていた


こうなったら窓から飛び降りるか

ここは2階だし

向こうはスカートだ追って来れないだろう


窓から下を見る

幸い下の教室には誰もいない

外にも人がいる様子は無い雫はまだ階段を降りている


窓から飛び降りる


着地


上を見上げた

流石に雫が飛び降りてくるという事は無かった


「何とか、まくことが出来たか」

気が抜けて、その場に座り込んだ


「甘い!甘いぞ時斗!某ハンバーガー店の朝メニューよりもずっとね!!」


某ハンバーガー店の朝メニュー?

というかこの声!


おそるおそる顔をあげる


「もう、逃げ切れ無いよ」そこには満面の笑みをした雫が立っていた


いったい、いつの間に


「こっちは2階から飛び降りたんだぞ、それに飛び降りた所は見られていないはず」


「流石に、突き当たりの廊下で見失った時は少し驚いたわ、外で音がして飛び降りたって事がわかったけど」


「残念ながら降りた場所が悪かったね」

雫が視線を移す、その先には渡り廊下があった


「あそこの渡り廊下の屋根2階から行くことが出来るのよ」

成る程、渡り廊下の屋根の高さはそこまで高くない、高校生程度なら、降りることは可能だ


「人がいなかったから、スカートの事も気にしなくてよかったしね」


逃げ切れ無い

私は座っていて

雫の方は立っている


…呪いの力を使うか

どのみち、捕まって地肌を触られてしまうと発動してしまうんだ

周りに他に人はいないし


10秒、いや5秒だけでいい、それだけあれば隠れるのには充分だ


まさか護衛対象に使うことになるとは…

決意を固めて、じっと雫の方を見る


雫がゆっくり近付いてくる


「なーんてね」

雫が急に止まって笑った


「まさか、2階から飛び降りる程嫌とは思わなかったよ、時斗ごめんね」

どうやら、もう捕まえる気はないみたいだ


「ごめんね、単に次の授業に出たく無かっただけなんだよ」

雫が謝った


「そんな事で、私を巻き込むな、転校初日の初めの授業をサボることになったんだぞ」

まさか、初日から授業をサボる羽目になるとは


「だって、一人でサボってもつまんないじゃない」

雫はむーっとふくれている


「だったら、他のサボりたがっているやつを誘えばいいだろうが」

頭を抱えてしまう


「うーん、あのクラスの人は誰もサボりたがらないからね、それは無理」

雫は残念そうに言った


「それに、時斗に少し頼みたい事があったしね」


「授業をサボりたかったのは、先生が嫌だったから」


雫は深刻な顔をしている


「嫌と言うのは?」


「授業中ずっと僕を見てるんだよ、気持ち悪くない?」


「それは…」

単に自意識過剰じゃないのか?


「自意識過剰かと思ったでしょう、僕も初め気のせいだと、思ってたんだけど、それが毎回続くと流石に…、涼子たちもそう言ってたし」

雫は深い溜め息をついた、相当参っているみたいだ


「それは、他の先生に言った方がいいんじゃないのか?」


「それで、どうにかなるようだったら、サボるまではならないよ」


「夏休みが終わってから、急に社会の先生が倒れて、代理に今の先生が来ているのよ」

代理に…少し怪しくなってきた


「で、他の先生に言っても、倒れた社会の先生が退院するまでの辛抱だから、我慢してくれ、だって」

雫の拳に力が入っている


「いつ退院か、わからないのか?」


雫は首を振る

「わからない、いつも、もうすぐ退院だって言われるから」

ますます、怪しくなった

もしや、社会の先生は雫を狙っている組織の人物なのか…


いや、だとしても

あからさま過ぎる


「教頭先生には話した?」


「いや、まだよ」


「なら、教頭先生に言いに行ってみよう」

教頭先生は協力者って言っていた

もしかしたら何かつかんでいるかもしれない


「でも何で教頭先生なの?校長先生ならまだわかるけど…」

雫は不思議そうに首を傾げている


しまった、学校という組織は、まだ上に校長と言う存在がいたのか…


「ほら、校長先生ともなれば毎日の業務が忙しいんじゃないかな」

とか、適当な事を言ってみる


「うちの校長は暇ってイメージしかないわ、今頃校長室で寝てるんじゃないかしら」

雫は呆れ顔をしていた


…校長先生っていったい


「校長は頼りになりそうに無いから、やっぱり教頭先生に言ってみるよ」

少し諦め気味に雫が言った


「で、時斗に頼みたい事って言うのが」

そういえば初めに頼みたい事があるって言ってたな


「社会の先生の身辺調査をしてほしいの」


「………は?無理だよ、普通の学生にそんな事が出来ると思う?」

社会の先生の事を調べることは、難無く出来るとは思うが、ここでは普通の学生を演じないといけない


「できるできる!だって時斗は少年探偵でしょう?」


「まだ言っていたのか、だからそれは小説の話だろうが」


キーンコーンカーンコーン

学校で鐘の音が鳴る、どうやら授業が終わったらしい


「じゃあ、社会の授業も終わった事だし、教室に戻りますか」


3組の教室に戻る道すがら、雫は社会の先生を警戒しているのか、やたら辺りを気にしていた


「しずちゃん、お帰りなさい、時斗さん、お疲れ様」

教室に戻った事に気付いた涼子が声をかけてきた


「ただいま涼子、授業時のあいつの態度はどんな感じだった?」


「凄くソワソワしていた、何か焦ってるみたいだったよ」


そんなあきらさまで大丈夫なのか…

呆れてしまった


-◇-


一日の授業が終わり

雫達と帰路につく


「静動君は何か部活に入らないの?」

陸が聞いてくる


「入る気はないな、余り運動神経が良い方では無いし」


護衛の任務もあることだし

「残念、富迫君が、廊下から飛び出す動きを見て是非我が部に欲しいって言っていたのに」

陸が勿体なさそうに言った

「二階から飛び降りといて運動神経が無い、は無いでしょう」

雫は笑っている


「2階から飛び降りるって、そんな危険な事をしたんですか」

涼子が驚き慌てている


「そこまでの状況に追い込まれたので仕方なくですよ」


-◇-


途中の交差点で涼子達と別れた

彼女達の家は交差点を挟んで反対側になるらしい


交差点から坂道を降りていく


雫の家の前に着く

二日目も特に何も無く護衛が終わる


「じゃあ、また明日、社会の先生の事お願いね〜」

雫はそう言って、玄関から家の中へ入って行った


まだ言ってる…

結局、教頭先生は午後から出かけていたらしく、会うことが出来なかった


帰ったら重蔵に色々聞こう、教頭先生の話とか


色々と考えているうちに、家に着いた


家に重蔵はいなかった


重蔵が家を空けると言ったことはたまにある


机の上には書き置きが


「時斗さんお疲れ様、ちと、所要で出掛けてくるぞい、明日の昼には帰って来る予定じゃ」


後は朝夕の食事の場所を書いた紙が一つ


少し考えた後

重蔵の携帯電話に電話をかける


重蔵の部屋から着信音がなった


…重蔵、携帯を忘れて行っているぞ


重蔵が携帯を忘れる程の事が、何かあったのか…


ただ、連絡する手段が無いので知るのは明日移行になる


とりあえず、夕食を食べ、明日に備えて寝ることにする


怒涛の一日となった

3日目が始まる


-◇-


いつも通りの朝が始まったはずなのに

いつもと違い心の中は少し充実していた


重蔵には連絡がとれないので、机に書き置きを残して家を出た

「9月から社会の先生になった人物が怪しい、雫を狙っている組織の一員の可能性あり」


雫の家の前で雫と合流する

「おはよー時斗、どう?あいつについて何か判明した?」


「時乃さんおはよう、流石に1日では無理だ」


「おっ、調査について否定しなかったね、って事はやってくれてるの?」


「出来る範囲でね…」

重蔵もいなかった事だし

調査について否定するのも面倒になった


行きに涼子とも合流し、学校に行く


今日も教頭先生が校門に立って挨拶をしていた


私達は挨拶をした後

社会の先生の事を教頭先生に話した


「あら、あの先生がそんな事を…わかりました、何か対処を考えます、今日の授業は保健室に行って、休んでおきなさい」


「そうね、そうします」

雫は少し不信そうな顔をしている


玄関で靴を履きかえる時に校門が見えた


教頭先生の顔が

少しにやけているようにみえた

まるで、獲物が目の前で眠っているのを見た肉食獣のような…


「時斗何してるの行くよ」


…多分気のせいだろう


「時乃さん、さっき教頭先生に話した時、不信な顔をしてたけど、どうかしたの?」


「僕が不信に思っていたのを当てるとは、流石少年探偵」

雫は驚きつつも笑っていた

「いや、教頭先生が二日連続で校門の前に立っていたから珍しいなって思っただけ」


「言われて見たらそうよね、昨日は時斗さんを迎る為に立っていたんでしょうけど」

涼子も首を傾げている


「まぁいいわ、今日4限は保健室てゆっくり寝とこう、昨日は本を読んでて、寝たのが3時だから寝不足なのよね」

雫が眠たそうに欠伸をした


4限の授業が始まった


私は雫の護衛があるので

始まる前に体調が悪いと言って抜け出したが


雫は先に保健室に行っていた


保健室に行く途中で携帯電話が鳴る、重蔵からだった

「どうした?」


「時斗さんの見た書き置きを見ての、社会の先生の事じゃが、彼は白じゃ」


「白?あきらさまに怪しいのにか」


「彼は協力者じゃ、倒れた社会の先生もそうじゃったが、わしから気をつける用いっとくよ」


「協力者…そういえば昨日聞いたが教頭先生もそうなのか?」


「そうじゃ、昨日の昼から別任務で週末までいないがの」


別の任務で出ている…?


嫌な予感

冷汗が止まらない


「今朝、校門前に教頭先生はいたんだが…」

保健室に向かう足が早足になる


「そんなはずは無いぞ、教頭とは別任務の都合で、さっきまで会っていたからの」

重蔵の声の調子も深刻な感じになった


「また後でかける」

嫌な予感がどんどん強くなる、走って保健室まで行く

…保健室には誰もいなかった


窓の外を見ると

怪しい車が止まっていた、裏口の所で他の教室からはまず、見えないだろう


考えるより先に体が動いた4階にある保健室の窓から飛び降りていた


地面に着地する


車を見ると、スーツを着た男らが誰かを車に乗せている


雫だ!


急いで車に走っていく


この距離なら、間に合う

車が発車する前に触ることが出来る


触れたモノの時を止める呪い…たとえ衝撃だろうと


一応止める時間は調整出来る


ただ、地肌に触れたモノは意識しなくても2〜3秒ほど止まってしまうが


「10分ぐらい止まってろ!!」

雫を巻き込んでしまうが仕方が無い


車に触れるはずだった

いや、確かに触れたのは確かだ


なぜなら、次の瞬間

止めたはずの車に跳ね飛ばされていたのだから


生まれて初めて受ける衝撃、鉄の塊にぶつかるのってこんなに痛いんだ…


いや、痛いって感覚も久しぶりだ、すっかり忘れていた


地面にたたき付けられる

今度は衝撃が止まって

全然痛く無かった


重蔵に電話をかける

…が繋がらない


「くそっ、どうなっているんだ」

わけがわからない


家まで走って行くしかない

家のドアを急いで開ける

勢い余ってドアが壊れる所であった


驚いた顔で重蔵がこっちを見ている


「どうしたんじゃ息を切らして、それに電話もせずに」


「雫がさらわれた!重蔵の電話は繋がら無いし」


「なんと!なにをやっておるんじゃ!!」

重蔵は頭を抱えた


「とりあえず、情報をくれ、それと携帯も見せてくれんか細工されてる可能性がある」


私は

教頭先生がいたこと

連れていった奴らの特徴

車の車種、ナンバー


そして、車に跳ね飛ばされた事を話した


「その教頭は偽者じゃな、そして、今回の実行犯じゃ」


「連れていかれた場所はわからないのか!!」

焦りばかりが先行する


「まずは、落ち着くんじゃ、場所はわしの協力者達が調べておる」


「時斗さんは相手の事を知るのが先決じゃ」


「つい最近に、博物館に泥棒が入ったのを知っておるか?」


「いや、知らないな」

何故急にそんな話を


「わしは、今回の雫の誘拐はこの博物館に盗みに入った集団が犯人だと思っておる」


「根拠は?」


「先ず一つが実行犯と思われる東條英孝と言う男、こいつは変装の天才じゃ」


「次に盗まれた物、古い剣なんじゃが、一般には知られていないが草薙の剣なんじゃ」

草薙の剣、確かヤマトタケルが使っていた物だったかな


「そして最後に、時斗さんが車に跳ね飛ばされた事、これが決め手じゃの」


-◇-


保健室に入って


ベットで横になって


社会の授業が終わったら涼子に起こしてもらって


みんなでお昼を食べて


午後の授業を受けて


放課後になって、みんなで一所に帰って


そうだ、今日は交差点角にある、シュークリームのお店に寄って帰って


時斗驚きだろうな、あそこのシュークリーム美味しいから


で、家に帰って


ご飯を食べて


お風呂に入って


読み掛けの小説を読んで


そして、少し勉強して寝る


いつも道理の一日が終わっる


はずだった


目を覚ますと

僕は薄暗い部屋にいた


僕は夢でも見ているのだろうか?


ほっぺをつねってみる

…痛い


辺りを見回す

ドアを発見


ドアノブを回す

鍵がかかっていて開かない

ここは何処なのだろう?

せめて外を見ることはできないだろうか


薄暗いって事は少なくとも光りが入ってきているはずだ


天上を見上げると、壁に小窓がついていた


少し高い位置にあったが、椅子を使えば外を覗けそうだ


椅子にのって

窓から外をみる


「うそっ」

思わず声が出てしまった


窓からは海が見えた

看板も見える


僕は停泊中の黒塗りの船にのっていた


やっぱり誘拐!

いや、でも何故船?


まさか、海外に売り飛ばされるとか!!


いくら僕が美少女だからって〜


とまぁ、冗談はそこまでにしておいて


何故、僕を?


時斗が

『最近変わった事無かった?』

と言ってた事を思い出した


時斗は何か知っていた?


でも、最近変わったことって?

それが、僕の誘拐に関わっている?

でも、記憶にない


ガチャ


鍵がかかっているドアが開き、男が入って来た


右手にはかなり古い剣のような物を持っていた


「ホントにこんな子供が例の力を持っているのか?」


例の力?

全く理解できない


「僕を誘拐してどうするの、ロリコンおじさん」

強がって悪態をつく


無反応


右手に持っていた剣を腕に押し付けてきた


錆びていて茶色だった剣が一瞬で碧みを帯びた、美しい剣に変わっていった


剣が僕の手から離れた瞬間、再び元の錆びた剣に変わっていた


手品か何かだろうか?


「ふははは、本物だ!!やった、やったぞ」

男が凄い勢いで笑っている、正直気持ち悪い


「っ…」

腕に軽い痛みが走った

見ると血がでている


男が持っている剣が

再び碧みを帯びて光っていた


「美しい、美し過ぎる、これが草薙の剣か…」

男が剣を一振りする

風を斬る音が聞こえた


「ここまで軽いとは、よく手に馴染む」

男の笑いが止まらない

それどころか、どこと無く

狂喜を増していく


「試してみたい、どれほどの物かを」

これは、まずい展開かもしれない、殺される


冷汗が止まらない

震えが止まらない


もう、腕の傷の痛みなど忘れてしまった


男がこっちを見ている

頭を抱え、しまったって顔をしているように見えた


「すみません、お嬢さん、少々取り乱してしまいました、ようこそ我が船へ」


「客人の前で無礼な振る舞いをしたことをお許し下さい」

男は急に人が変わったようだった


「客人って、あんた達が僕を誘拐したんでしょ!目的は何?金?」


「誘拐の目的はあなた自身、正確にはあなたの持っている能力!!」

能力?

さっきも言っていた気がする


「能力って何?」


「後でお話ししますよ、少し待っていて下さい、

あなたの能力が本物とわかった今、この町に要は無い」


男は無線で

船を出すように命じた


少し揺れた船が動き出したようだ


再び今度は凄い揺れ

…船が止まった


「何事だっ!!」

男が荒げた声で状況を確認している


「わかりません、急に船のスクリューが止まってしまって」


「さっさと原因を確認しろ!!」


「原因は不明ですよ、急にスクリューだけ動かなく」

ドアが開いて人が入ってくる


「東條さん!見知らぬ子供が看板に!!」


「ここがわかるとは、ただのガキでは無いな、発砲しろ!後、仲間がいないか辺りを捜せ、私も出る」


東條が外に出ていく

ドアに鍵をかけて


恐る恐る

窓から外を見る


確かに子供がいる

何処かで見た事がある服装

「時斗…なんでここに!」


-◇-


雫がいる場所がわかったのは、夕方になってからだった


「すまんの時斗さん、時間がかかった、行くぞい」

重蔵が急いで車に乗り込む、時斗も急ぎ助手席に乗った


「とばすぞ、奴らはまだ港にいるみたいじゃが、いつ出港するかわからんからの」


港に着いた

まだ、奴らのと思われる船は停泊していた


「今回は戦闘向けの協力者がおらん、時斗さん一人に任せる形になるが…」


「別に問題は無い、むしろ呪いの力を考えると、一人の方がいい

いざとなったら髪止めを外す…」


「気をつけてくれ」


「重蔵も見つかるなよ」


船へ向かって走る


距離が遠く感じる


後少しで船に着く


船が動きだした


「行かせるかっ!!」


船に跳び移る


「停まっとけ!!」


船のスクリューの時間を止める


振れているモノ経由でも

ある程度の距離ならば止める事が出来る


さて、船は止めたが雫は何処だ?


看板に出た所で、十数人の黒い服を着た男たちに囲まれた


「マシンガンって、銃刀法違反もいいとこだね」

雫の居場所を聞いても無駄だろうな…


男達は何も言わずにマシンガンを撃ってきた


囲まれているので、回避するてだては無い


まぁ、回避する必要も無いのだが


銃弾は着ている着物に振れて止まっている


1回転し、銃弾の方向を逆に向ける


銃弾の時が動き出す


銃弾同士でぶつかり

その場に落ちるモノもあれば

撃った人物に返って行くモノもあった


「何だっ!何が起きたんだ!!」

黒服の男の中の一人が惨状に怯え、脚を引きずりながら下がっていく


「君達がさらって行った、女の子何処にいるか知らない?」


「知らない!命だけは助けてくれっ」


溜息をつき

黒服の男達の時を止めていく


看板の真ん中に人の影


…雫?


うずくまっている女の人に近付く


シュッ

風を斬る音がした


後ろに飛んで避ける


着物にかすり

切れ端が落ちる


「あからさますぎるんだよ、東條!!」


「ちっ、少しは油断してほしかったが」

東條がマスクを取り

姿を現した

右手には剣を持っている

べったりと紅い血が付いた


「その剣、まさか」

雫を…


「良いぞ、これは、切れ味も最高だ!

キサマも後を追わせてやる」


東條が剣を振るう

軽い音だけが聞こえ

剣を目で捉らえる事ができない


重蔵が言ってた事が本当ならば

剣に斬られる訳にはいかない


止まっている時を動かす力

雫はそれを持っているらしい


車に跳ね飛ばされたのは

止めたはずの時が動いたからだった


今、東條が持っている剣

恐らく草薙の剣であろう


剣の止まっていた時間が動き出している


呪いの力を使おうにも

常時止めた時が動く状態では効果が無い


ただ、相手は剣だ


東條から離れ

時を止めた黒服の男からマシンガンをとる


「残念だな東條、古代にこんな兵器は無かっただろう」


銃口を東條に向ける


何故か、東條はニヤついている


発砲


碧白い光が東條の前に現れ

銃弾を防いだ


あの碧白い光はなんなんだ?


持っているマシンガンの弾丸を全て撃ち尽くしたが

東條には傷一つ、ついていない

凹んだ銃弾が無惨に足元に転がっているだけであった


「残念だったなガキ

太古の遺産を甘くみるなよ」

東條がこちらに走ってくる


また他の黒服の男からマシンガンをとり

距離を空けながら撃ち続ける


やはり光が銃弾をたたき落とす


何か手はあるはずだ


かのヤマトタケルも不死身ではなかったはずだから


!!頭に衝撃が走る


そうか、ヤマトタケル


可能性としてはある

この力なら可能でもある

試してみる価値はある!!


看板にある

ありったけのマシンガンを拾う


分速500発銃弾が次々と東條を襲う


「無駄だと言うのがまだわからんのかな」

東條は高らかと笑っている


ガチリ

鈍い音がした

持っているマシンガンの弾がついに切れた


「ハハハ、弾切れかもう足止めする術はあるまい」


マシンガンを捨て

右手に握っていたあるものを東條に投げた


「石か?こんなもの防ぐまでもない」

剣を縦に振り下ろす

赤黒いモノは縦に真っ二つに切れた


赤黒いモノの時が動き出す


液体となり東條の目に降り注いだ


「血かっ小癪な!」


「こんなもの、数秒程度の足止めにもならん」

東條は血を拭った


視界が戻る

時斗は目の前まで迫っていた


一閃

碧白い剣の道筋先に紅い点

手応えあり



右足が熱い

すんでの所で避けたつもりが

足が痛くて動かせない


「視界を封じて、草薙の剣を奪いとる魂胆だったんだろうが、残念だったな」

東條が笑いながら時斗に近付く


10・9・8・・・


足を止めたから、焦ることもない


「なぁ、東條、ヤマトタケルがそれほどの剣を持っていたのに

何故死んだのか知っているか?」


4・3・2・・


「知るか、弱かったから、が・・・」


東條の背中に紅い華が咲いた

膝を付き崩れ落ちる


「ヤマトタケルは上空からきた氷の塊が原因で死んだ」

時斗は東條が落とした草薙の剣を拾う


「それが、どうしたって言うんだ」


「おそらく、この剣は知覚出来ないモノに対して

防御壁を展開しない」

剣に付いた血を拭く


剣の碧白い輝きは失われ

錆びた茶色い塊に変化した


時斗が東條に触れ東條の時を止める


…しまった、雫の居場所を聞いていない


-◇-


窓から外を見ていた


時斗らしき人物が黒服の男等に囲まれて


テレビでしか聞いた事が無い重低音が響き渡った時

恐ろしくなって後ずさった

もちろんそこには足場が無い

足は空を踏み

バランスを崩し

尻餅を付いた


痛みなど感じなかった

外に轟く銃声

人の悲鳴

恐怖が痛覚を麻痺させている


唯、隅で震えていた


外の音が止でから何分たっただろうか


ガチリ

ドアから鍵の開く音


恐怖でドアの方を見れない


「無事だったか、よかった、探したよ」

聞いた事のある声の気がした

恐る恐るドアの方を向く、小さい男の子が立っていた


右手には錆びた茶色い剣を持っていた


「時斗…?時斗なの?」

喜びと恐怖が混じり

頭が混乱してきた


「時乃さん、ごめん遅くなって」

時斗は足を引きずりながらこっちに歩いてくる


足に怪我を負っている

唯、ひどい怪我のはずなのに血が出ていない…


「時斗…足、大丈夫?」


「歩くのに少し不自由だけど、心配無いよ」


「血が出てないみたいだけど」


時斗はそうかといった顔をし、その場に座った


「時乃さんは今回巻き込まれてしまったんだし

色々話さないといけないね」


時斗から聞いたことは耳を疑いたくなる事ばかりだった


時斗が呪われていて

1000年近く時が止まっていること

また、触れると呪いの影響で

触れた人の時が少し止まるため

潔癖症と偽っていたこと

僕が何故狙われたのか


事細かに教えてくれた


「信じたくは無いけど

現実として巻き込まれてしまったから

信じるしかないよね」

まだ困惑している

何故こんなはた迷惑な力を持ってしまったのか


「時斗、帰ろっか」

手を差し出す

時斗が手を握り返す



「痛!!」

時斗が顔をしかめる

足から血が流れ出している

手に持っていた剣が三度碧白い光りを…


咄嗟に手を離す

…さっき聞いたばかりだったのに

うっかりしていた


-◇-


僕が誘拐されたあの事件


博物館の盗品を内部で奪いあう、内部紛争があった

ニュースではそうゆう事になっていた


時斗は、今入院してる


流石にあれだけの大怪我だ

僕の髪を縫い込んだリストバンドを付けているので

取り敢えず、呪いは抑えられてるらしい


だから、入院でどうにかなるんだけど


怪我の理由が


止めた銃弾に気付かれ無いよう

自らが囮になったはいいけれど

東條の太刀筋が意外と速くて

避けきれなかったとか


時斗には悪いけど

少し笑っちゃった


-◇-


「やっぱり、此処から見る夕日は最高ね」


夕台高校屋上

雫と時斗はそこに居た


「…柵が邪魔で見えない」

時斗の眼前は調度

柵の手摺りの位置


「時斗、それ狙ってやってんの」

雫はお腹を抱えて

大爆笑している


「呪いが抑えられてるから、すぐに伸びるさ」

ちょっとした強がりを言う


「あはは、楽しみにしてるよ」


「それは置いといて、なんで屋上に呼び出したんだ?」


…少しの間


雫がよしっと気合いを入れている


「この前は助けに来てくれて、ありがとう」

雫がとびっきりの笑顔でそういった


夕日に照らされ

やや朱色がかった笑顔はとても可愛く映った


「まだ、御礼を言ってなかったから」

雫は朱く染まった頬を掻いている


「改まって言うと恥ずかしいね」

雫はあははって笑っている


「こっちも、呪いを抑える事ができる様になったから

時乃さんには凄く感謝しているよ」

本心だった

永年の夢であった

歳をとることが出来る様になったから


「でも、謎なのよね」

雫が腕を組んで考えている


「1000年も生きていたら、僕のような力を持った人の

一人や二人、出会ってもよさそうなのに」


「会った事は何度かあったけど

完全に抑える程の強さは、時乃さんが初めてだよ」


雫はそう…とだけ言った


「私も聞きたい事があるんだけど」


「何?スリーサイズと体重以外なら教えてあげるよ」


「初めから、私の事を少年探偵だって言ってたのって

小説以外に何か知ってたの?」


「いや、根拠は小説だけだよ」


「だったら何故、あそこまで執拗に言ってたんだ?」


「あの小説ね、実在の人物が元になってるの」


「古い時代の着物を着

黒く長い髪を束ね

黒いグローブを手に纏っている

調度、初めて時斗に会った時の格好と同じね」


…身長の事は前に聞いていたが

まさか、服装とかまで同じとは


「そして、探偵の名前なんだけど

時を止めるって書いて『ときと』なの、偶然の一致にしては出来過ぎでしょ」

雫は静に笑っている


「一体誰だ、書いたやつは」

私も笑うしか無い


「さて、そろそろ帰ろっか

途中美味しいシュークリームを奢ったげるよ

退院祝い」

雫が手を差し出す


「それは楽しみだ」

手を繋ぐ


もう、私の手に黒いグローブは必要ない

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