もう一人の僕
ーーー?
巨人の姿がない。気付くと僕は自分の部屋にいた。
「やぁ」
「また、君か…じゃあここは夢の中なんだ」
シマエナガの化身が現れたということは、僕は巨人を前にして気絶したのだろうか。此方が夢落ちの先、現実の世界だったらお粗末で平和な話で済むのに、夢入りでは自分が現実から逃げているように思える。
「君が情けない奴なわけじゃないよ。僕が君を呼んだんだ。」
「そうなのか…え? 声に出てた?」
「いいや、僕ね、今は君に全神経を集中させてるんだ。いつもは町中に感覚が散っているんだけど、全シマエナガで君を囲えば心を読むくらい簡単だよ」
シマエナガ少年はそう言いながら僕の頭に手を突っ込み脳を取り出してみせた。
「こんな事が出来ちゃうなら、わざわざ君にお願いしなくても済むね。あははは」
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ーーー港町を俯瞰した景色が見える。
建物、と言っても田舎なので大木の方が大きいのだが、その天辺程度の高さだ。
(これも夢? それとも巨人に殺された!?)
風に舞う木の葉やシマエナガを含む鳥達が、僕の体を平然とすり抜けて行く。やけに平和だし、巨人の姿も見当たらない。いったい何処へ行ったのだろうか。フラレイドの姿も無く、化け物だと騒ぐ人々の姿も無く…。
(うぉ!)
全身が急に引っ張られた。今ならやんちゃ坊主に括り付けられた風船の気持ちがわかる。
瞬間、今度は反動で顔が真下を向いてしまう。
(え…僕?)
そこには歩いている自分の姿が見えた。じゃあ今ここにいる僕は………? もしや幽体離脱…は寝てる時にしか起きない。
試しにもう一人の僕に近づいてみた。彼の周りを一周し、しげしげと見つめる。露骨に目を合わせてみるが、反応のないところを見るとどうやら僕の姿は見えていないようだ。何事もないかのように歩いているし、街もパニックにはなっていない。相変わらずシマエナガが邪魔だが。
(もう夢も現実もよくわからない…。でもどちらにせよ、僕の行動を変える必要はないはずだ)
取り敢えず状況を整理してみることにした。自分は誰にも見えていなくて、行動範囲はもう一人の僕から半径7mくらいだろうか。物体への干渉はおそらく不可能。…僕ができるのは思考することだけ…?
社会から疎外されたような気分になった。
(思い切り侘びしい顔をしよう。少しは気が晴れるかも…)
孤独フェイスで下にいる僕を睨むと、彼は顔を見上げて…口角を上げた。
(僕を見た? 僕を笑った?)
彼の目は笑っていない。その冷たい視線によって僕の背筋は凍りつく。
(あいつは僕じゃない!)
恐怖で退くが、見えない紐がこれ以上は逃げられないぞと言ってくる。僕は奴に引きずられていくしかなかった…。