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入学編 第六話

 




 食堂では、朝食の用意が既に出来上がっていた。

先ほどの大失態(全裸で登場)をした百合であるが、まったく動じることなく自分の席へと移動する。

その途中、先ほど遭遇した二年生3人組と目が合い、一礼する。


「えーと、とりあえず自己紹介をしましょう」


苦笑しながら、心が仕切る。


「こちらのお二人が、今年からここ『風月寮』に住むことになりました、龍徳寺百合さんと吉田恵さんです」


「龍徳寺百合です」


「吉田恵です」


心に紹介され、立ち上がって自己紹介し、再度一礼する二人。

次に、二年生が順番に自己紹介を始める。まずは右側にいた、淡い栗色の髪を二つの三つ編みにした少女が立ち上がる。


「渡辺美里です。二年生で、風紀委員に所属しております」


同じように一礼すると、今度はその隣の、ふわっとしたボリュームのあるセミロングヘアで、瞳の大きな少女が立ち上がる。


「桜小路里奈です。二年生です。華道部に所属してます」


小さな身体を大きく振るわせて礼をする。

そして、最後に眼鏡をかけた少女が、


「進藤縷々です……文芸部に所属してます……」


少し面倒くさそうな様子で自己紹介する。


「それから、あと一人三年生の寮生がおられますが、まだ帰ってきていないようですね」


困ったような表情で美里の方へ視線を移すと、


「はい、詩織お姉さまは委員会の方へ出てます」


「そうですか。いつも仕事熱心ですね」


もう一人の寮生は、今日も欠席のようである。


「えーと、色々ありましたが……自己紹介も無事終えたことですし、ご飯を食べましょうか」


そうして、お互いの名前と顔を確認したところで、朝食を食べ始める。

さすがに初対面ということもあり、会話はあまり進まない。今朝の“アレ”を見たことが、さらに状況を悪化させているようだ。


「……」


「えーと、皆さんは誰かと姉妹契約を結んでおられるのですか?」


黙々と静かに食事をとる百合と、その隣で気まずそうにしていた恵が口を開く。


「そうですね。私と里奈ちゃん、洋子ちゃんと縷々ちゃん、それからここにいませんが、三年生の詩織ちゃんと美里ちゃんが、それぞれ姉妹として暮らしていますよ」


「んー、よくわからないんですけど、実際に妹になった場合、何をするんですか?」


「そうね。例えば……」


「お姉さま、お代わりはいかがされます?」


「ええ、ありがとう。もらえるかしら」


恵の疑問に答えようと考えていた洋子に、紅茶のお代わりをどうするか聞く縷々。その様子を見て、


「えーと、はい。なんとなく理解しました」


「そう?」


苦笑しながら納得する恵を見て、「ならよかった」と紅茶を飲む。

その傍らでは、若干頬を染めながら嬉しそうに洋子の姿を見つめる縷々。


「基本的に、妹は姉であるお姉さまの身の回りのお世話をさせていただくことが主になります」


ゆるい空気を引き締めるように口を挟む美里。


「んー、私には無理かな? 自分のことすらちゃんとできないし」


「そのような否定的な考え方でどうするんですか? いいですか、この風月寮の寮生として、自立と奉仕を――」


「はいはい、美里ちゃん。その辺で」


説教が始まりそうなので、心が止めに入る。


「まあ、あたしも同じ気持ちなんで、誰とも姉妹になってないんだけどね」


溜息を吐きながら言う薫。その言葉に、美里の眉がピクリと動く……


「そうですね。馬鹿でガサツなあなたでは、確かにお姉さま方をお世話することなどできませんよね」


「あんっ!?」


「何ですか?」


腕を組みながら見下す美里に、掴みかかりそうになる薫。


「……あれ、止めなくてもいいんですか?」


「んにゅ? ああ、いつものことですので、おかまいなくです」


ちょうど向かい側で、まだ食事中の里奈に聞くと、笑顔で答える。その姿はとても年上には見えないくらいであった。

激しく言い合う二人の横で、足を揺らしながら、さもおいしそうに食べている姿を微笑ましく眺めながら、静かに隣で紅茶を啜る百合に語りかける。


「なんか、結構賑やかな所だね?」


「ん? そうだな。多少変わっていると思うが……」


「貴女に言われたくありませんっ!」


「あんたに言われたくないわっ!」


一斉にツッコまれる百合。


「そうか? 至って普通だと思うが?」


「どこがですか!? 全裸で廊下に出る淑女のどこが普通なんですか!?」


「確かにあれは驚きましたねぇ」


「ええ、いくら女性しかいないとはいえ、もう少し羞恥心というものを養ってもらわないと」


「びっくりしましたです」


「割と大きかった……」


「そうですね、同性としては羨ましい限りでしたよ。縷々お姉さま」


「そう……羨ましい」


自分の胸に両手を当てて、お互い向き合い溜息を吐く。


「? 何のことか理解できないが、あれは仕方がなかっただろ? 着る服がなかったんだから」


「着る物が無いからって、裸でいいという理由にはなりません!」


「大丈夫だ。次は無い」


「あってたまりますかっ!?」


至って冷静に答える百合に、


「あんた、また口調が戻ってるわよ?」


呆れた表情で指摘する薫。


「む、そうだった……そうでした。失礼しました、美里お姉さま」


「……」


「あはは、見事に剥がれましたねぇ」


「ふむ、どうもここに来てから調子が悪い……」


「何を言っているの?」


「いや、私とてTPOを弁えているのだが……んー」


真剣に悩む百合を見て、少し心配になる皆……主に彼女の頭を。


「部隊にいたころはこんなことはなかったんだがな……」


「部隊って……貴女、どこにいたんですか?」


「ああ、ちょっとな。まあ、気にするな……気になさらないで下さい。お姉さま」


「……はあ」


本当に悩んでいる姿を見て、溜息を吐く美里。

その隣では(大変だな)と思いながらも、これからの寮生活がこの奇妙な同級生のおかげで退屈しなさそうだと、静かにほくそ笑む恵。


そうして、しばらく美里のお説教が続くのであった……。











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