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一年生編 5月 第二十五話

 


 ここが占拠されてどれくらい時間が経過したであろうか? 人質となった者達にとっては既に数時間が経過したかのように感じる。しかし、実際は占拠されまだ一時間しか経過しておらず、見張りの様子から外部にもまだ気づかれていないと思われる。

 何故そう思うか? それはこの国の警察機構は優秀であり、もし外部に漏れていれば既に当局に包囲されている頃だろう。しかし、そういった動きどころかサイレンすら聞こえてこない。

 そして、何しろ彼らは未だ犯行声明を発信しない。というより、彼らの目的は一体何なのかすら未だ不明なのである。

 そういった状況下で迂闊に動くのは自殺行為であると判断したシルビアは未だ動かずに二人を庇うように他の人質と共に身を潜め機会を伺っていた。

 この時点で既に詰んでいるということは彼女自身理解はしていた。こういった状況の場合は、すぐにでも避難……逃げ出すことが生き残る確立が一番高い。逃げ遅れた時点で、生存率はぐっと下がる。それは今までの経験からというよりは、これまでテロリストに人質にされた人間が無事生存したという例が非情に少ない。

 それを理解している人間がこの中に何人いるのであろうか? 周りを見れば怯え震える者や涙を流す者、それと祈りを捧げる者。

 このままではジリ貧である。とはいえ、迂闊に動く事ができない。流石の彼女も焦りを隠せないでいた。しかし、今できる事はできうる限り時間を稼ぎ本家が動いてくれるのを待つことしかない。


 彼らがここを占拠して、間もなく1時間といったところですか……


 未だ拘束する気配を見せない彼らの様子を見ながら心の中で溜息を吐くシルビア。一体何がしたいのか? ここを占拠した手際から見れば素人では無い事は解る。


 目的が何であれ危機的状況であることは変わりはありませんね。


 リーダ格である男を囲んで密談をしている様子を静かに確認しながら、二人の様子を見る。由美の方はこういった事態への対処方法を幼い頃から訓練されているだけあって、今の所は落ち着いていた。しかし、恵の方はまずい状態であった。先ほどから顔面が蒼白で呼吸も荒い。


 このままではまずいですね……


 完全にパニックによる発作にも似た症状が見える。今はまだ由美のおかげか多少マシになってはいるが、切れかけの糸のようなもので予断を許さない。


 本家は既に動いているとは思いますが、さてこれからどうしますか……








 テレビ局が占拠されて数時間、暗い施設内には複数の武装した男達が巡回をしていた。一応警戒の為にと命令されているものの、外部への連絡手段を完全に遮断しており犯行声明を未だ発表していないこともあってか余り緊張感は無かった。

 落成記念パーティーが公の催しではなく、スポンサーや要人のみに行う所謂内々のみの招待に留まっている事とも一つの要因になっているが、それ以上に平和なこの国でテロ等起きるはずが無いという先入観は加害者である彼らの頭の中にも根強くあるからであろう。

 そうした油断が命取りになるとは、この時点では彼らには想像できやしないだろう。




「流石にこの人数だと時間がかかるわねえ」



 銀色の髪を靡かせながら一人の女性が呟く。目の前には武装した男達が気を失っていた。それは先ほど談笑しながら巡回していた者達だった。



「お嬢様は……エントランスを抜けた先」



 端末を確認しながらレシーバで位置を確認しながらゆっくりと進む。暗い廊下の先、非常灯が微かに照らされた角を見つめながらため息を吐く。



「へえ、素人に毛が生えた程度かと思えば、中々骨のあるのもいるみたい」



 まるで獲物を見つけた猛獣のような笑みを浮かべる。そんな彼女の視線の先には一つの影が見えていた。




 ……


 …………




 銀髪の女性が見つめる先……廊下の角で静かに息を殺す百合。同じく暗い廊下の先にいる人物を捕らえており、背中から腰にかけて嫌な汗が流れていた。


 こんな感覚に陥ったのはいつ以来だろうか? 久しく感じた事が無い感覚に緊張し、思わず下唇を噛んでしまう。


 まずい……この先にいるのは間違い無く化け物。



「はあ……これじゃあ足りないよな」



 手持ちの武器を見つめながら溜息を吐く。できれば避けたいがそうもいかないと覚悟を決める。


 一瞬の静寂……しかしそれはすぐに破られることとなる。

 何故ならいきなりこちらへ向けて数発撃ち込まれたからである。足元の弾痕に生唾を飲み込む。



「あーと、こちらには攻撃の意思は無いわ。とりあえず両手を挙げてそこから出てきてもらえると助かるのだけれども?」



 女性の声? てっきり鍛え抜かれた蛇のような男かと思っていたが……



「いきなり発砲しておいて、信じるとでも?」



 しかも結構狙ってきてる。というかそれは撃つ前に言う台詞だ。



「ちょっとした勘違い?」


「そうか、勘違いなら仕方無い」



 とりあえず返事と共にお返しをする。



 ……


 …………




<いきなり発砲しておいて、信じるとでも?>


 あら? 普通じゃないと思っていたけど、まさか女の子だとわね。まあ、性別で判断するほど私は差別主義者では無いしね。でも、問題はそこじゃあ無いのよねえ。



「ちょっとした勘違い?」



 そう、いつもの癖で撃ってしまった。やっぱ警戒しちゃった? 怒らしちゃったかしら? とはいえ正体が解らない相手に筋を通すほど私はお人よしじゃあ無いのよね。時間も無いし、そういえばそろそろ部下達が配置が完了している頃……なんて考えていたら。



<そうか、勘違いなら仕方無い>


「っと……」



 一発の発砲音と共に足元に弾痕が刻まれる。


 へえ、面白いわね。なるほど、じゃあ少しだけ本気で相手をしてあげようかしら。


 笑みを浮かべながらもう一度、同じ場所に銃口を向け、相手が潜んでいるであろう場所に数発連射しながら走る女性。


 そのまま一気に潜んでいる相手へと一撃を加えるべくそのまま角から身を乗り出し間を詰め銃口を向ける。



「!?」



 一瞬怯んだ様子を見せたが、即座に状況を理解したようで銃口を逸らすように右へ動くと同じようにこちらへ銃を構える。



「いい動き……だ・け・ど・脇が甘いっ」



 相手の銃が宙に舞う。



『後はそのまま相手の眉間にこちらの銃口を当て拘束して終了』



 そう思っていたが今度はこっちの銃が宙を舞う……


 右手の痛みを無視して、そのまま左手で相手の腕を掴み締め上げながら背中に回りこむ。ここで初めてお互いの顔を見知る事となる。



「思っていたより若いわね? それにその恰好……誘ってるの?」



 胸元を強調した白いドレスを着た少女、このような場所に似つかわしくない姿に苦笑する。



「そっちは思っていたより年を食っているようで」



 同じく軽口を吐くが、こちらは割と余裕が無いようで表情は固い。



「強がっている所も中々かわいいわ~」



 百合の首筋にそっと指先を添える。その様子を静かに目で追いながら緊張した面持ちで喉を鳴らす。



「何をっ……」



 そのまま大きく開かれたドレスの胸元へと指先を入れられ、びくんと身体が反応する。



「女の子の身体って色々と便利なのよね」



 中を弄りながら言う。



「ちょっと待てっ……そこは関係なっ……んっ」



 最初は武器を隠し持っているかを探る指の動きが、優しく蠢きまるでピアノを弾くかのような動きで固くなった突起物を弄る。



「女の子の身体って色々便利なのよね。例えばこことか……」


「だからっ……やめっ……」



 そのまま下腹部を舐めるように下へと手を移動する。そしてそのままある場所へと手を差し入れる。ちいさな水音と共に背中を逸らす。



「なんで? 濡れてるのかしら? もしかして……変態?」


「だから……やめっ……んっ……はぁっ……」



 自然と息が荒く、心なしか頬を赤く染めながら俯く姿を見て満足そうに笑みを浮かべる。


 今日は厄日だ……そう心の中で思う百合。とりあえずどうしようか? 相手は別の方向でこちらを攻めてくる。これ以上やられては困るのでとりあえず、



「んっ……いい加減っ……にっ……しろ!」



 ダメもとで思い切りかかとを後ろへ蹴り上げる。油断していたのか、思わず拘束していた手を緩める。その隙をついてそのまま相手の前方に素早く間合いを開く。



「あらら~思っていたよりやるわねぇ、それに思っていたより『こういう事に』慣れてるのね」


「はあはあ、はあ……そうだな、ここ最近散々されてきたからな」



 同級生には揉まれ、どこぞのメイドには襲われで……軍にいた頃より貞操の危機が増しているような気がする。というか確実にこっちの方が危険じゃないか……平和な国日本、恐ろしい国だ。



「なんか嫌な事? 思い出させたみたいで、ごめんね」



 両手を顔の前で合わせて片目を瞑る。



「いや……まあ、なんだ色々あってな。それで? そちらは見たところテロリストの仲間では無いようだが?」


「そうねぇ」



 頬に人差し指をあて、少し考える素振りをする。



「正義の味方」



 そのまま手のひらを表に向けながらこめかみ辺りでピースサインをする。



「……」


「なによ? この国じゃあこういうのが流行っているんじゃないの?」


「生憎と私もこの国に来て日が浅いのでな、どういうのが流行りかさっぱり解らん」


「あっそ。はいはい、とりあえず敵じゃありませんよ」


「急に投げやりになったな」



 殴りたい衝動に駆られるが、向こうの方が実力が上な為我慢するしかない。



「まあ、味方っていうのは本当で……貴方『龍徳寺百合さん』ね」


「そうだが、何故?」



 私の名前を、と続けると少し真面目な表情で



「私は羅豪家特別執行機関の『ヴェロニカ・パヴロヴナ・ドストエフスキー』よろしく~」



 そういって右手を差し出す。



「ああ、よろしく」


「あらら、警戒されちゃった?」



 差し出された手を握り返す事無くお辞儀だけで済ました事に苦笑する。



「何、手癖の悪い人にはどうしてもな」


「ひどいわ~ ところで? 貴方一体何者なの?」


「普通の女子高生だが?」


「普通の女子高生がこんなもの持たないわよ? 後結構使い込んでるし、それに体術もどこかで見た事があるのよね」



 先ほどまでのふざけた表情から一転また厳しい表情でこちらを見つめる。ああ、このパターンは前にも一度あったな。そう思いながら今までの経緯を説明するのであった。



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