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一年生編 5月 第二十一話

 



「皆様、到着しました」


「ありがとうございます、シルビアさん」


「はえーやっぱ大きいねえ」


「むう……」



 送迎用のリムジンから出ると目の前の建物の大きさに圧倒される。



「MTV新社屋、地上12階地下4階となってございます。中には大小いくものスタジオがあり、5階には巨大なパーティーホールとなっているそうです。さあ、受付へと参りましょう」



 簡単な説明をするとエントランスへと案内するシルビア。



「施設内に入るにはこのIDが必要になります」



 受付へと移動すると、手早く処理を済ませ人数分のIDカードを手渡す。



「このカードを見えるところにつけておいて下さい。これで関係者であると判断するそうです。それから建物内の施設や自動販売機等はこのカードで清算になるそうです」



 カード内のチップで利用を蓄積され、最後出るときに清算される仕組みになっている。つまりはこのカードが無い場合や偽者であった場合は何も利用できないということになる。



「へえーうちの学園みたいだね」


「そうですわね」


「まあ、不特定多数が出入りするこういった施設には便利なんじゃないか?」


「そうなんだけどねえ。あんたちょっと落ち着きなさいな」


「そうは言うがな……」



 私が落ち着きが無いのには理由がある。



「何故私がこんな格好をしなきゃならんのだ」



 胸元が心もとない上に足元も風が入って気持ちが悪い。何の因果かこんな衣装を着るはめになるとは……



「いいじゃん、結構似合ってると思うよ」


「むかつく顔で言われてもな」



 半笑いで言われてもバカにされているとしか思えん。



「いえ、本当によくお似合いですよ」


「くく……そうね。本当よく似合ってるわ。そのドレス姿……くく」



 うっとりとした表情を浮かべる由美とは対照的に笑いを堪えるのに必死な恵にとりあえずチョップをしておく。



「まったく……」



 最初はいつもの私服で行こうかと思ったのであるが、一応は披露宴というフォーマルな場なので軍隊時代の正装であるグリーンのサービスユニフォームでを着用したのであるが……



「あんた、どこの仮装パーティーに出るつもりよ?」


「え? 素敵だと思いますけど」


「はあ……仕方がありませんね。お嬢様方お手伝いをお願いします」



 と三人に止められ、強制的に部屋まで連行される。その後は勝手にクローゼットを漁られた挙句に、祖母よりの贈り物で一生着ないと誓ったドレスを発見されると、全裸に引ん剥かれて着替えさせられる羽目になった。



「まったく酷い目にあった」


「いいんじゃない? たまにはこういうのも」


「そうですわね。いつもと逆で楽しかったですわ」



 受付を済ませ、部屋まで案内され今は待機中である。



「開始までまだ時間があるし、ちょっと探検する?」



 余りこういう場所に来た事が無いのか、終始テンションがあがりっぱなしの恵。



「すまんが、少し席を外す」


「ん? どこ行くの?」


「ああ、トイレだ」


「そうなの? 一緒に行こうか」


「いや、大丈夫だ」



 日本に来て思ったのだが、何故この国の女子は一緒にトイレに行きたがるのか? 



「漏らさないようにね」


「あほか」



 とりあえずチョップしておいた。



 部屋を出てすぐ長い廊下が続く。新築独特の匂いが充満する道すがら様々な人間が通り過ぎていく。恐らくテレビ局の関係者だろう男女がほとんどだが、芸能人らしき人物も見かける。

 通路の要所要所に監視カメラが設置されており、左右に動く所を見るとダミーでは無い事が窺える。しかし、これだけの数の監視をするとなると警備の人員もそこそこ必要だと思うが。



「ま、民間施設だしな。そこまで大層に固める必要は無いか」



 こういった大型の施設に入るとどうしても、監視や警備システムを推し量ろうと警戒してしまうのは悪い癖だ。ま、一種の職業病だろうとか考えつつ目当ての場所へと辿り着く。



「流石にここにはそういった類の物は仕掛けられていないか」



 女子トイレに監視カメラなんかあったら普通に盗撮だな。などと思いながら個室のドアを開ける。

 当たり前というか綺麗に掃除された個室には、ちゃんと音消しの音楽が流れるボタンまで完備されていた。

 そのままドアの鍵をかけ、下着を降ろすと便座に腰掛ける。



<あーあ、やってらんないわよ。大体何よ? あのエロ親父が>



 む、誰か来たか。



<人が怒らないと思って触りまくりやがって、何が流石現役聖盾の生徒だよ。しかもどさくさにまぎれて人のアソコにまで指を這わせて気持ち悪い>



 まあ、トイレだしな。不特定多数の人間が利用して当たり前か、とはいえ酷く柄が悪いな。



<誰かいるの?>



 私の気配に気づいたのかこちらに声をかけてくる。というか、流石に今声をかけられるのは恥ずかしいのだが。

 とりあえず悪い事をしているわけでも無いので普通に扉を開けて出る。



「……」



 どういうわけか先ほどまでの勢いは無く無言で私を見つめる。

 知り合いでも無いし、まあ別に秘匿会話を聞いた訳でも無いのでそのまま無視して手洗いまで進む。



「ちょっと、待ちなさいよ」



 そのまま少女の横を通り過ぎようとしたところ声をかけられる。



「なんだ?」


「今の聞いてたの?」



 今のというのは、あのエロ親父云々か。



「聞いたからどうなんだ?」


「盗み聞きとか失礼じゃないの」


「意味が解らん。それに先に用を足していたのは私だ。後から来て勝手にほざいていたのは貴様だろうが」



 なんでトイレで絡まれているんだ私は。



「なっ!? 貴様って誰に向って言ってんのよ?」


「私の目の前の変な女に言っているが?」


「はあ!?」



 なんなんだこいつは? さっきからしつこい上にうるさい。



「貴方、私の事知らないの?」


「生憎と初対面で絡んでくる失礼な奴は知り合いにいない」


「本気で言ってるの!?」



 なんなんだこいつはさっきから、どれだけ自分が有名だと思っているんだろうか? そこまで考えて気づく、そういえばIDカードをぶら下げていた。

 なるほど、つまり彼女は私の事をADか何かと勘違いしているということか。ということは、



「ああ、なんだ芸能人か」


「やっと気づいたの」


「で、誰だ?」


「~~~っ!!!」



 地団駄踏み出したぞ。というか早く戻りたいんだがどうしようか。



「あんた、本気で言ってるの? 私のこと知らないなんてどこのもぐりよ!?」


「知らないものは知らん。それよりそろそろ行きたいのだが、どいてくれないか」



 出入り口を塞いだ状態なのでものすごく邪魔である。



「神裂! 神裂千秋よ!」



 いきなり名前を叫びだしたので思わず首を傾げてしまう。



「私の名前、これを聞いてもまだ解らないの?」



 息を荒げて名前を叫ばれても……ん? どこかで聞いた名だな。確か、恵が何か言っていたような……



「ああ、うちの学園に同じ名前のアイドルがいたな。そういえば歌は聴いた事はあるが顔は見た事無かったな」



 なるほど、彼女が例のアイドルか。しかし、恵に聞いていた情報とまったく違うんだが。



「やっと理解した答えがそれなの。ていうかあんた聖盾の生徒なんだ」


「ああ、友人に誘われてな。ここの披露宴に呼ばれただけだ」


「そう」



 なんだ、今度は急に大人しくなった。



「ああ、そういえば今夜は羅豪家の人が来るって言ってたけど……まさかあんたじゃ無いわよね」


「違うぞ。私は龍徳寺百合、由美と同じ1年だ」


「そう、貴方があの……確かに噂どおりね」



 なんだ? 名乗った瞬間に納得されたぞ。しかも、噂どおりとか一体何を噂されているのだろうか。



「それで、そろそろ開放してもらっていいか? 友人にトイレに行くと言って出た手前あまり長いと心配されるのでな」


「そうね。おっきい方と勘違いされたら困るものね」


「大凡アイドルと思えない発言だな」


「ふんっ」



 ふて腐れる千秋を無視して歩き出す。



「おい」


「何よ?」



 由美達が待つ待合室へ向おうと歩き出したのであるが……



「なんで着いてくるんだ」


「別に」



 トイレからずっと私の後を黙ってついてくる千秋。



「まあ、私はかまわんが。私のような一般人と行動を共にすると色々問題があるんじゃないか」


「大丈夫よ。それにあんたの友人、私のファンなんでしょ? 挨拶くらいしておくわ」



 えらく殊勝なことを言うな。



「それから、あんたさっきの事絶対誰にも言うんじゃないわよ」


「ん? ああ、そういうことか」



 どうやら私が友人に先ほどの事を喋られるのが嫌で着いて来たのか。確かにアイドルという人種はイメージが大事だからな。



「別に喋るつもりはないが」


「ふんっ、信用できるものですか」



 どうやら相当嫌われたようだ。まあ、別に気にしないが。

 そう思っていると待合室に着く。

 そうして待合室の扉を開けた瞬間、私は我が目を疑った。



「はあ~い。初めまして~神裂千秋です」



 先ほどまでの態度とは違う、というか最早別人ではないかと疑ってしまう。満面の笑顔を振り撒き媚を売る姿に苦笑してしまいそうになる。




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