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一年生編 春 第十八話

 



 私、シルビア・カートレットと申します。とある事情から今は寮母として、ここ聖盾女学園に勤めております。本業は羅豪家従者、所謂メイドでございます。この学園に通う羅豪家ご息女『羅豪由美』お嬢様に使えており、本来はお嬢様の学園での生活を影から御守させて頂くはずだったのですが……



 寮母としての最初の仕事は、ここに住む寮生である彼女らの朝食を作る事から始まる。流石は資産家や名家のご息女が住む寮だけあって食材も高級なものが多い。



「おはようございます」



 そろそろ下拵えも終えた頃、不意に扉が開かれる音と共に元気な声が聞こえた。



「おはようございます。美里様」



 二年生の渡辺美里お嬢様、特徴である三つ編みが二つ均等に括られた、淡い栗色の髪の少女。



「今朝もお早いお目覚めで流石でございますね」


「いえいえ、そんな。シルビアさんこそ、毎日ご苦労様です」



 堅苦……真面目な方で誰よりも早くに起きては準備を手伝っていただいております。淑女が通うこの学園の生徒らしく、清楚可憐といった言葉が似合いそうな方です。



「今朝は新鮮なトマトが手に入りましたので、トマトスープとサラダ、サンドイッチをご用意しております」


「それはとてもおいしそうです。では、私はお姉さまを起して参ります。ごきげんよう」


「はい、承知いたしました」



 仰々しく挨拶を交わす。


 そろそろ皆様が起きていらっしゃる時間でございますね。






「思うんだけど、あんたっていつも同じ格好しかしてないわよね」


「何だやぶから棒に」


「いや、あんた基本全裸じゃん」



 朝から他人の部屋に押しかけておいて失礼な事を言う奴だ。私とて服くらい着る、ただちょっと面倒なだけで普通の女子だ。



「あんたが普通ならグラビアとかいらないわね」



 グラビアとか言うな、グラビアとか。



「えらく俗っぽい事を、お嬢様らしくない台詞だな」



 情報ではこの学園に通う生徒の中には性教育すら受けていない者もいるくらいに閉鎖的と聞いたが、



「ああ、あたしはその辺り特殊かもね」


「世間からすればこの学園に通う奴らの方が特殊だと思うがな」



 この年齢で子作りの方法も教えられないとかありえん。



「籠の中の小鳥なのよ。まあ、それもごく一部の子達だけよ」



 ベッドに腰掛けながら足をバタバタとしながら茶を啜る。しかし、寛ぎすぎだろう。



「何よ?」


「別に」



 私の視線を不信に思ったのか急にジト目でこちらを睨む。相変わらず柄が悪い。



「あんたに言われたくないわよ」


「そうか?」


「そうよ。今だってそうじゃない」


「なにがだ」



 全く失礼な奴だ。私は朝の日課をこなしているだけに過ぎんと言うのに。



「日課ねえ、あたしは別になんとも思わないけど、それって普通なの?」


「何を言う、こういった物は結構デリケートなんだぞ?」


「そんなもんかしら」


「なんだ、歯切れが悪い」


「そうね、もう慣れたわ」



 余り興味が無いのか、退屈そうな表情で見つめる。

 それを無視して、作業に没頭する。一つ、一つと丁寧に拭いていく。専用の布で吹き上げると輝きが増し、窓から差し込む陽の光を反射する。

 彼女が無言になって少し経過した頃だろうか、不意に扉をノックする音と共に元気な声が木霊する。



「やっほー百合、朝食ができたって……」


「おはようございます」


「ああ、おはよう」



 返事を返すなり何故か二人は固まっていた。



「あんた、朝っぱらから物騒な物取り出して何してんのよ?」


「あらあら」



 引きつった表情する恵、指を指すな、指を。



「何って、いつもの日課だが」



 薄桃色の絨毯の上に敷かれたビニール素材の敷物。

 その上に無造作に置かれた、装備品を一つ一つ丁寧に拭いていく。



「あーやっぱりあんたらもそう思う?」



 奥の方から呆れた表情で二人に声をかける薫。



「ええ、といいますかお姉さまがこの部屋にいることも驚きなんですけど」



 同じく由美も同意する。



「あんたらほどじゃないわよ。それにあたしはここにいる同級生の中で浮いてるしね」



 自重ともいえる笑みを浮かべる。



「そんなことありませんよ。もっと浮いてる人がここにいますから」


「そうですわね。同級生どころか学園中でも百合さんほど個性的な方はおられないと思いますわ」


「それは褒められているのか?」


「貶されてるのよ。気づきなさいな」



 呆れたように言われても困るんだが、まあいい。



「しっかし前々から思ってたんだけどさ、住人に対して全然あってないよね? この部屋」



 室内を見回しながら言う。

 まあ、言わんとすることは理解できる。

 この部屋を一言で例えるならピンクである。薄桃色の壁紙にアクセントとしての濃い桃色をあしらった絨毯。シーツカバーまでその色に染まっていた。ちなみに色は純白である。



「大分慣れた。たまに魘されるが」


「うなされるんだ」


「私は好きですけど」


「ま、何にせよ。あんたには似合わないってことよ」



 言いたい放題だな。まあ、自分自身そう思っているので否定はしないが。



「いっつも思うんだけどこういうのってどこで売ってるの?」



 そう言うと装備品を指す。



「支給品……親からの贈り物がほとんどだ。買おうと思えばネット等でも買える」


「コレをプレゼントとか、どんな親なのよ」


「まあ、独創的ではありますわね」



 独特な色合いをしたチェストリグを持ち上げながら言う。まあ、確かに普通の親は贈らないな。



「色々と特殊な環境で育っただけだ。それに、割と便利だぞ」



 例えばこのカラビナ等は様々な用途で使用できるしな。



「コレとある程度の長さのロープがあれば、例えビルに閉じ込められたとしても窓さえあれば抜け出せる」


「うん、その例えがありえません。てか、普通の女子高生がロープ一本で降りるとか無理」


「そうか? 多少の知識と身体能力さえあれば誰にでも可能だと思うが」


「んー私でもできるのでしょうか?」


「無理だと思うよ? てか多分シルビアさんが全部やってくれると思う。あの人なんでもできそうだし」


「まあ、アレは特別だからな」



 メイド服のままビルから降りる様を想像して苦笑する。



「あんたら、いつもそんな感じなの?」



 三人の会話を黙って聞いていたが我慢できずに口を割る。



「ええ、大体こんな感じですけど」


「そうですわね」


「いいわね。楽しそうで」



 溜息を吐く。なんだ悩みでもあるのか? 同じ事を思っていたのか恵もそんな彼女に



「えーと、もしかしてお姉さまってぼっちですか?」



 ストレートに疑問を投げかける。



「……あんたも中々言うわね」


「ええ、言いたい事ははっきりと言うのがモットーですので」



 不適に笑う。



「それに私なんて、この二人に比べたらマシですよ」



 二人を指差す。



「ぼっち? ぼっちとは何ですか? 百合さんは何かお分かりになります?」


「さあ? 私もよく解らんが、薫……お姉さまに対しての比喩なら……凶暴、やかましいとか」


「それは……そういえば関西方面の方言でぼちぼちと言う言葉がありましわ。確か、ぼちぼちでんな。みたいな感じでしたわ」


「ほう、ぼちぼちでんな 略してぼっちか。で、意味は?」


「さあ?」


「あんたらねえ」



 なんか変な事を言ったか? 

 呆れた表情でこちらを見る二人に対して首をかしげる。



「ぼっちとはクラスにもどこにも溶け込めない人の事、つまり」


「ああ、社会不適合者の事か」


「……」



 沈黙が支配する。誰かのせいで……



「ほんと、あんたって絶対私の事先輩だと思ってないでしょ」


「そんなことは無いぞ。ちゃんと年上と認識はしている」


「まあ、いいわ。そうね、貴方の言う通り独りよ」



 腕を組みながら溜息と共に吐露する姿はどこか悲しそうな雰囲気であった。



「ほら、私ってこんな性格じゃない? それに、髪の色もあって誰も近づいてこないのよ」


「そうですか? あたしは別になんとも思いませんけど」


「そうですわね。私も同じですわ」


「ああ、そうだな。性格は悪いが性根はいい奴だ。それに容姿はどちらかと言えば美人の部類に入ると思うぞ。残念ながら乳は足りないようだが」


「うん、ちょっと百合は黙っておこうか」



 フォローしてやっているというのに黙れと言われてしまった。

 仕方が無いのでしばらく黙って彼女らのやり取りを聞きながら今はこちらの手入れを先に終わらせるとするか。今日もいい天気だ……







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