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一年生編 春 第十七話

夕闇迫る頃、誰もいなくなった教室に一つの影が差す。ここは1年A組の教室で、今は放課後である。

外ではホイッスルの音と共に運動部の元気な掛け声が木霊していた。



「……」



そんな誰もいない教室で一人周りを警戒する少女が一人。

誰を待つでもなく、忘れ物を取りに来た様子でもない。

人の気配が無い事を確認すると、目的の場所へとに向う。

彼女が向った先には一つの机があり、そこの所有者の者であろうか手提げ袋がかけられていた。

その手提げ袋に手を伸ばそうとするも少し躊躇う。まるで何かを警戒するように、静かに触れるが何も起こらない。

何も起こらない事に安堵すると、今度は大胆に袋をこじ開ける。

そうして中身を持っていた鋏で切り刻む。

静かな教室に布を切り裂く音が響き渡る。



「何をしているんですか?」


「!?」



急に声をかけられ驚き振り返る。そこには腕を後ろ手に組み静かに笑みを浮かべる恵がいた。



「なんのことかしら?」



袋を後ろ手に隠す。



「いやあ、たまたま忘れ物を取りに教室に戻ってきたら、キョロキョロと怪しい動きをしていたお姉さまがいたんで隠れて見ていました」


「そう……」


「上級生のお姉さまが1年生のクラスに何か用事でもありましたか?」


「そうね、少しだけね」


「差し支えなければ教えてもらえますか?」


「悪いけど教える訳にもいかないわね」


「じゃあ質問を変えます。なんでこんな事をしようと思ったんですか?」


「こんな事って?」


「しらばっくれなくてもいいですよ? というか、全部見てましたし」


「そう……」



教室がオレンジ色に染まり、少女の顔がはっきりと見えるようになると



「それで、どうします? 自首されるとおっしゃるなら私も一緒に職員室までお供しますが」


「そうね、わかったわ」



諦めたように溜息を吐くと手に持っていた手提げ袋を恵に投げる。空中でキャッチすると中身を確認する。



「なんでこんな酷い事をしたんですか?」



ぐちゃぐちゃに切り裂かれた体操服を見て少し苛立ちながら質問する。



「なんでって、そうね。気に食わなかったと言えばいいのかしら?」



苛立つ恵をあざ笑うかのように答える。



「真面目に聞いているんですが?」


「真面目に答えているわ。ところで貴方一人?」


「一人の方が良かったんですけどね……」


「それはどういう……」



彼女の言葉を遮るようにそれは現れた。



「悪いが全て見ていた」



教室の天井にある換気ダクトの蓋が落ちる音と共に現れる百合。



「どっから出てくるんだぁあ!!!」



いきなり天井から逆さまで現れる少女、しかも腕を組み偉そうに。





……



…………




天井裏に隠れて暫く様子を見ていたら、案の定犯人が現れた。

周りを警戒しながら私の席まで近づき、机の脇にかけていた袋に手を入れると中身を取り出し鋏で切り刻んでいた。

全て見られているとは知らずに黙々と体操服を切り刻む姿は少々異常に思えた。まあ、精神疾患でも煩っているのであろう。

しかし、まさか恵が尾けていたとは想定外だったな。

しかも、私の存在に気づいていたとは。



「ふむ、まさか気づいていたとはな。恵も中々やるな」



完全に気配を消して隠れていたつもりだったのにな。しかし、その割りにはものすごく驚かれた気がしたが、



「そうね。どこかにあんたが隠れているとは思っていたわよ。でもね……流石にそこまで想像していなかったわよ」


「何を言うか、この国では悪事を働こうとする証拠を掴むために天井裏に隠れる伝統的な行為があると聞いたぞ?」



徐に風車を取り出す。これで完璧だ。



「あ、頭が痛い……」


「頭痛か? いかんな日頃の体調管理はしっかりとしないとな。ところで、私はこれをどこへ投げればいいと思う?」


「知るか!!」



心配してやっているのに酷い奴だ。



「とりあえず降りたら?」


「そうさせてもらおう」



確かにこの状態は少々辛い。



「さて、これでチェックメイトだな」


「……」


「2年C組 山口芽衣子」


「あ、名前まで調べてたんだ」


「当然だ」


「というか、さっきから彼女まったく動かないんだけど?」


「ん? そういえば静かだな?」


「……あ、ああ、貴方!?」


「なんだ?」


「あんな所から現れて非常識じゃない!」


「いや、あの……」



恵は思った。あんたには言われたくないと。



「いきなりだな。しかし、他人の体操服を切り刻む異常者に常識を問われても困るんだが」



もっともである。



「大体、貴方が悪いんですのよ? いきなり現れて詩織お姉さまと……」



いきなり泣かれてしまった。

恵に助けを求めるも苦笑しながら首を振られてしまった。

事の発端はあの写真だった。



「ファンクラブ?」


「ええ、それで最初は嫌がらせをしようとして……」


「段々とエスカレートしていったってこと?」



要は好きなアイドルを取られたファンが暴走したといったところである。



「そんなことで、あんな酷い事をしたんですか? 言っておきますけど器物損壊の立派な犯罪ですよ?」


「まあ、そう攻めるな。見ろ今や化けの皮が剥がれて大人しくなっているじゃないか」



最初の雰囲気が一転、泣きじゃくる姿はただの少女である。



「でも……」


「ふむ、それに悪戯した者達にはそれなりに痛い目にあってもらったしな」



非殺傷とはいえ痛みや発熱、倦怠感や眩暈といった苦しみが2~3日は続くはずだし



「あんたも大概酷いわね」


「仕方無いだろう。元はと言えば彼女らが悪い」



人の物に手を出そうとするからには、それ相応の覚悟が必要だ。



「で? どうするの?」


「ん?」


「彼女、このまま職員室に連れて行く?」


「いや、別にそこまでする必要もないだろう」


「それでいいの?」


「まあ、証拠映像もあるし、それに……」



カメラの保存映像を切り替える。するとそこには……



『……はあっ、あっ……あんっ……』


「きゃああっ!!!」



カメラを奪おうと突っ込んでくるのを避けながら



「まあ、なんだ。色々と調査していたら色々とな」


「……あんた、それ犯罪よ?」


「お互い様だろ? さて、解っていると思うが」



怯える彼女の前で笑みを浮かべる。



「どっちが悪者なんだか……」


「うるさい。と言う訳でこれから一切私たちに関わらないと誓うか? もし同じようなことが起きれば……」



先ほどの映像と音声が流れる。



「わー!!解った!解りました。もう二度と致しません。ですから止めて!」



顔を赤らめながら懇願する彼女に思わず同情してしまう。



「何事も平和的解決が一番だな」


「相手の恥ずかしい映像をネタに脅しておいて、何が平和的なんだか……」



こうして苛め騒動は、平和的かつ穏便に解決したのであった。


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