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一年生編 春 第十三話





「まったく、貴方はどれだけトラブルを持ち込んでこられるのですか? フォローするこちらの身になってもらいたいものです」


「仕方が無いだろう? 流石に放っておくわけにはいかないだろうし」


「それは理解しています。ですが、もう少しやり方というものがあります」


「仕方が無いだろう? 両手がふさがっていたんだし」


「確かにそうですが……」



 ちらりとベッドに横たわる女性に目をやるシルビア、どうも納得がいかない表情である。



 気を失った榛菜を、抱きかかえながら寮へと帰宅した百合であったが、まず、入り口前で仁王立ちで待ち構えていた美里に見つかり、大声で叫ばれてしまう。



 その声に何事かとまず、シルビアと詩織が警戒しながら入り口へと駆け出すと、腰を抜かしている美里を発見する。



 この時点で、もう不審者が現れたと推測に至るに十分な判断材料が整っていた。



 そうして、そのまま座り込む美里を尻目に玄関から外へ出ると、



「コーホォー コーホォー」



 成人女性を抱えた変態がそこにいた……











「しかし、美里お姉さまには悪いことをした」



 腰を抜かしたまま立てなくなったようで、泣きながら詩織に肩を貸してもらう姿はかなり可哀想であった。



 ガスマスクを外した百合の姿を見て、心配そうに駆け寄ってくる由美達。見ればスカートはボロボロ、どこかで転んだのか、膝から血が出ていた。



 とりあえず、本当の事を言う訳にはいかないので、長門教官が階段から落ちかけたのを支えようとして自分も落ちてしまい、その衝撃で気絶してしまったので仕方なく寮へと連れてきた。という説明をしたのであるが……



「まあ、どんなに取り繕ってもガスマスクが全てを台無しにしておりましたが」



 溜息を吐く、結局ガスマスクはなんだったのかは全く説明せずに強引に彼女を自室へと連れ込んだ。その間に色々とフォローに回ったがシルビアであった。



「まったく、お嬢様方を納得させるのは少し骨がおりました」


「すまない」


「謝るくらいなら、最初から普通にして下さい。で? 一体何があったのですか?」


「ああ、誘拐されかけた」



 ふざけた口調から少しトーンを落とすと説明する。誘拐しようとした男達の特徴と車の車種、それから大凡の人数など、



「それから、これが車のナンバーだ」



 誘拐に使用された車のナンバーを控えたメモを手渡す。



「恐らく相手は素人、身元はすぐ割れるはずだ」


「言い切りましたね」


「ああ、もしプロの仕業であったなら、今頃彼女は連れて行かれた後だからな」



 そういう意味では運が良かったといえる、流石にプロが相手であの人数を人質を護りながら相手にしようとするなど、それこそ伝説の傭兵とかじゃなきゃ無理だろうな。



「とりあえず、こちらで手配しておきます」


「頼む、ああいう輩は逆恨みが激しいからな。学園関係者に対し報復しかねん」


「そこまで度胸があるようには思えませんが、まあ、ご安心下さい、既に動いてもらっていますので」



 既にナンバーをメールで送ったのか、自分の携帯をしまいながら答える。しかし、セキュリティーは万全だと聞いていたが、ここまで立て続けにこういった事が起こると少し疑ってしまわざる得ない。



「安全故の油断と言ったところでしょうか……それはそれとして、少し面白い話題を耳にしまして」



 厳しい表情をしていたシルビアであったが、急にからかうような表情でこちらを見る。



「ん? なんかあったか?」


「お前、学校で苛められているそうじゃないか?」


「ああ、そのことか……というか、人が嫌がらせ受けているのに、楽しそうな顔するとか、いい性格をしてるな」


「いや、だって、お前が苛めって無理だろ?相手死ぬだろ?」


「楽しそうに物騒なことを言うメイドだな」


「しっかし、お前の周りは騒々しくて退屈しなさそうだな」


「私としては静かに過ごしたいと思っているのだがな」


「まあ、誘拐の件はこっちでなんとかしておく。お前はお前で今の状態を何とかしろ。さもないとお嬢様が、心配する」



 確かに、これ以上やりたい放題されても面白く無い。何より、自分の持ち物を漁られるというのは良い気分では無いしな。



「そうだな、そろそろ犯人には退場願うとするか」


「ま、ほどほどにな」



 色々と考え込む百合に、声をかけ退室していくシルビア。その横では気持ち良さそうに寝息をたてる榛菜。



「さて、そろそろ寝るとするか」



 そのまま、いつも通り寝支度を整えると寝ているベッドに入る百合。流石に色々あって疲れていたのか、すぐに眠りにつくのであった。







 ……



 …………





 ――翌日





 鳥の囀りが聞こえてくる。朝? そう思い静かに目を開ける。目を開けると知らない天井が見える。一体私はどうなったのかしら? 寝起きで頭が回らない……



 確か、昨日は龍徳寺さんに門まで送ってもらって、その後、帰り道に……段々と目が覚めていく。



「私、暴漢に襲われて……それから……」



 頭に手の甲を当てながら思い出す。じゃあ、ここは……



「ん……」



 色々思考を巡らせていると、隣から声が聞こえてくる。誰だろうか? そう思い私は、そのまま首を横に向けた。



「んぅ……」


「なっ!?」


「ん?」


「な、ななななっ……」



 見知った顔、忘れるはずも無い表情、私の隣で眠そうに瞼を擦る少女は私のクラスの生徒なんですが……



「ん……ああ、おはようございます、教官」



 いつものキリっとした敬礼ではなく笑顔で挨拶をしてくれる龍徳寺さん。まったく、毎回注意しても先生と呼んでくれないのですね? まあ、今回はそこは良いんです。問題はそこじゃないんですから、



「すみません、昨夜気を失ったきり目が覚めなかったので、私のベッドを使っていただきましたが……? どうかなさいましたか?」



 ええ、ありがとう。よく眠れたわ。うん、そこはいいのよ? どちらかといえば生徒のお部屋を借りた事が申し訳ないくらいだし、



 ですが……



「何故裸なんですか!?」




 朝の喧騒の中、私の叫び声が木霊した。




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