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一年生編 春 第十二話

 








 どうやら私は今、いじめとやらにあっているらしい。その件は内密に事を終わらせようと思ったのであるが……



「吉田さんから聞きました。貴方誰かに嫌がらせを受けているそうですね」



 少し厳しい表情で、私に質問をする女性。黒い髪をサイドに束ねた凛々しい顔立ちをした彼女は、私のクラスの担任教官の『長門 榛菜』 



「いえ、嫌がらせといった程のことは受けておりません」



 実際、ただ体操服一着ボロボロにされただけで嫌がらせとは言えない。しかし、その返答になんともいえない表情をされる。



「一人で我慢しなくてもいいんですよ? 先生には正直に言って下さい」



 正直に言ったつもりだったのであるが……仕方が無い。思ったことをありのまま話すとするか



「はっ! 正直に申し上げますと、まったく気にしておりません」


「え?」



 開いていた足を閉じ、姿勢を但し返事を返すと少し驚いた表情をされる。普段のきりっとした表情からは想像できないくらいに可愛らしい表情だった。



「えっと……」


「教官には心労をおかけします。しかし、ご安心を次はありません。私とて軍人の端くれ、二度と同じ轍を踏むことはありません」


「軍人? 大丈夫ということですか?」


「はっ! 私の持てる全ての力を持って敵を殲滅します」


「え? 殲滅? 貴方一体何を?」



 呆けた表情でこちらを見上げる長門教官、失礼ながら可愛いらしい。



「ですので、ご安心を」



 余りにも不安な表情でこちらを見るので、思わず撫でてしまった。



「あのー私、一応先生なんですけど……」


「はっ!失礼しました。教官が余りにも魅力的だったので、思わず手が出てしまいました」



 真っ赤になって頬を脹らまされても、まったく迫力が無いのであるが、



「はあ、解りました。今回は諦めます。でも、絶対一人で抱え込まないで下さいね。それだけは約束してください」


「はっ! 善処します」


「むぅ」


「は?」


「ええと、教官?」


「約束・です・よ?」



 凄まれてしまった。どうやら、返事が不服だったようで、物凄く睨まれている。しかし、近いんだが? いくら誰もいないとはいえ、この状態を第三者に見られたらどう思われるか……



「ん」


「はあ……解りました。約束します」


「よろしい」



 今更偉そうにふんぞり返られてもと思うと苦笑してしまう。



「それから、私は先生で教官ではありません。何度言ったら解るのでしょうか?」


「えーと、申し訳ありません。つい、癖で」


「どうしたら、そんな癖がつくのか知りたいです」


「色々とありまして……」







 ……



 …………








「はあ……」



 一人溜息を吐く榛菜、原因は先ほどの少女の事である。


 この学園に赴任して早3年、大分教師として慣れてきた。この学園の学生達は他の学園と違い、特殊な環境で育てられた娘達が多い。それゆえに個性が強い生徒も中にはいたが……



 長い海外生活が長かったせいで、自分を傭兵だったと思い込んでしまうなんて……



 確かクラスの自己紹介の際にサボタージュが特技だと言ってましたよね? 最初はサボりが特技なんて、なんてお茶目な子かしらって思っていたんですが……



「後で調べたら破壊活動だったなんて……」



 誰も居ない教室で愚痴ってしまった。大分つかれているのかしら? でも、



「苛めだけは絶対駄目ね」



 自分のクラスの生徒が苛めを受けている。それを聞いた時は悲しくなった、学校と言う閉鎖空間で、逃げがたい密度の濃い集団で生活していると、いつかは発生すると思ってはいた。しかし、いざ自分の生徒が苛めを受けている告発されると、ショックを隠さざるを得ない。



 いくら本人が気にしていないとはいえ……なんとかしないといけません。確かに彼女は強い子です。それでも、まだ子供なんですから、大人が護ってあげないと、



 一人決意を固めると生徒指導室を後にする榛菜、しかし、彼女の心労がこれから消える事は無い。なぜなら、この日を境に毎日が騒がしくなる事に今はまだ気づいていない……






 ……




 …………





 夜、今日も委員会の仕事で帰宅が遅くなってしまった。昨日から散々な目にあってばかりだ、職員室へ呼び出されたかと思えば、今度は委員会だ。同じ質問をされ、同じ返事を返す。まあ、それだけ周りが私の事を心配してくれているということだろうが、しかし、正直何とも思っていないのであるが……



 どうも私の周りにはお人良しが多いようで、とはいえ、このまま放置する訳にはいかない。こういった悪意というのは段々とエスカレートしていくもので、今の所は些細な問題ですんでいるが、これ以上悪化させる訳にもいかない。



 攻撃対象が自分だけならいいが、他者に危害が及ぶ可能性も出てくる。対象自身に効果が無い場合は、手段をより悪い方向へと矛先を変える。


 つまりは対象者の近しい存在、友人や親兄弟、はたまた関わる全ての人に対し攻撃を仕掛ける場合がある。こういった行為を繰り返す事で、攻撃対象を孤立させる。実際、ほとんどの苛めがこの方式をとっている。



 独りになるのは慣れているので問題無いんだが、流石に皆を巻き込む訳にはいかないな。



 孤立するのは別に構わない。しかし、大事な人を攻撃されるのは許せない。この学園にきて、最初にできた友人、先輩、そして、教官。彼女達に迷惑をかけるわけにはいかない。



 仕方が無い。余り大事にしたくは無かったが……



 明日からの事を考えながら寮への道を歩く。街灯に照らされた遊歩道を歩いていると、目の前に人影が見える。



 こんな時間に誰だ? 少し警戒しながら静かに人影へと近づく。暫く警戒をしていたが、それが見知った人物と解ると警戒を解く。



「こんな時間までお仕事ですか? 長門教官」


「ひゃっ!?」



 しまった、気配を消したままだった。後ろから声をかけると、思い切り驚かれてしまった。



「……龍徳寺さん? もう! いきなり後ろから声をかけないで下さい。びっくりしたじゃないですか」



 涙目で訴えかけてくる長門教官。



「失礼しました」


「もういいです。それで? 龍徳寺さんは委員会の帰りですか?」


「はい、色々と事務処理が長引きまして」


「そうですか、大変ですね」


「いえ、それよりも、夜道の一人歩きは危険ですので、自分がお送りします」



 何故か?きょとん、とされてしまった。私としては彼女のような女性が一人だと心配で総心配したのであるが、



「えーと、それは先生が頼りないって事ですか?」


「いえ、そういう事では……ただ、教官は女性ですし」


「先生からしたら貴方の方が心配なんですが」



 溜息を吐かれた。



「それなら心配ありません。それに一般人を護衛するのも自分の役目ですから」


「えーと……」



 しくった、今は違った、つい、昔の癖で言ってしまった。



「コホン、あー風紀委員として、です」


「あーそういうことですか。では門までお願いしますね」


「了解しました」



 ふんわりとした笑みに敬礼で答えると、更に笑われてしまった。長年染み付いた癖はそう簡単に無くす事はできない。


 そうして、二人学園の門へと向かい進んでいく。遊歩道にはたくさんの街灯があり、一晩中明かりが灯されており、例え学生が一人で出歩いても危険なことが起こる事は無い。学園敷地内に入れる者は限られており、一般人が侵入することが無いからだ。しかし、いくらそうだとしても、夜道が絶対安全とはいえない。



 いくら厳重な警備だといっても完全では無い。前に侵入を許した経験があるだけに、尚更警戒するにこしたことは無いだろう。



 などと考えながら歩いていると、目的地までたどり着く。一際明るい終着点、この学園の表玄関である南門に到着する。鉄でできた大きな門は侵入者を拒むように固く閉じられていた。警備員の姿が見えない。今の時間は交代か、それとも用でも足しに行っているのであろうか?その事が少しひっかかる百合。



 監視員がいない? 監視カメラがあるとはいえ無用心過ぎないか? それに……



 門の隙間から見える一台のバン。ヘッドライトは消えているが、人がいる。



 こんな時間に、こんな場所に路上駐車、しかも、乗っている状態で……



 少し様子を伺いながら歩いていると、バンが走り去る。



 考えすぎか……



 たまたま、タバコか地図か、それとも電話か何かで路上に止めていただけに過ぎない。いくらなんでも、そうそう誘拐犯とか現れるわけが無い。



 どうも、抜け切れんな……



 思わず自重の笑みを浮かべてしまう。



「ここまででいいですよ」



 カードでロックを解除する長門。大きな門の右側にある分厚い鉄でできた扉、関係者が通る事ができる出入り口である。



「いえ、別に問題ありません」



 流石に考えすぎだと思うが、念の為に一緒に出ようとしたが断られた。



「駄目ですよ? 学園内と違って外は危ないですから、私の家は歩いてすぐですし、大丈夫」



 確かに、流石に学生を外に出して何かあっては教師としては問題だ、仕方なく頷く。



「解りました、では、お気をつけて」



 そのまま笑顔で敬礼をする。



「はい、さようなら」



 そのまま笑顔で答えると扉を閉める。暫く閉じた扉を見つめていたが、何事もなさそうなのでそのまま寮へと踵を返す。



 さて、遅くなってしまったな。また美里お姉さま辺りが怒っているのだろうな。


 どうも、余り好かれていないようでよく叱られる。まあ、こちらにも問題はあるんだろうが、



 などと、考えながら歩いていると、甲高いゴムが摩れる音が闇夜に響く。



 ブレーキ音!? しくった!?



 踵を返し駆け出す。門の方へと走っていくと、複数の声と女性の声が聞こえる。女性の声は聞いた覚えがある声である。



 監視員は……やはりいない。扉の鍵は……無い……となると、



 大きく溜息を吐きながら空を見上げる。大きな鉄でできたアーチ門、元々侵入者を拒むためにできているために、通常のよりは高く、しかも先は鋭利に尖っている。



 はあ、仕方無いな……



 そのまま門を器用に上る。5Mはある頂点にたどり着くと、慎重に折り返す。ビリッという衣が破れる音とともにそのまますると外へと降りると、駆け出す。


 流石に走り難いか……



 走りながらスカートの裾を掴むと、そのまま破り捨てる。そうして太ももをさらけ出すと、手持ちの武器を確認する。



 ハンドガンが一丁に、ナイフが二本……十分だ。



 普段スカートに隠しているホルスターに収めている銃と、腰に差しているナイフ。大凡女子高生が装備するには物騒であるが気にしない。


 門から少し進んだ先に先ほどのバンが見える。その脇には複数の男達と、抵抗する長門教官。



 相手は……とりあえず見えている範囲で三人……車内にも何人かいるな……



 とりあえず、外の奴らから排除しないとな。そう思いながらスモークグレネードの安全装置を解除する。






 ……




 …………





「止めて下さい!? 警察を呼びますよ!」


「いいじゃん? 俺らと遊ぼうぜ?」


「ひゅう~♪ 流石聖盾の女教師~めっちゃイケてね?」



 下卑た笑みを浮かべながら私を見る男達、先ほど龍徳寺さんと別れて、家路へと急ぐ私の横に車を寄せたかと思ったらいきなり降りてきて、妨害された。



「だから、興味ありませんから! いい加減にしてください!」


「へえ~気が強いんだ? でも、そんな女に限ってベッドでは甘えてくるだよな」


「おい、どうでもいいけど早く拉致ってまおうぜ。誰かに見られる前によ」



 男達の言葉に血の気が引いていくのを感じる。彼らは私を誘拐するつもり、そして、私を犯すつもりでいることに



「あ、ああ……」


「ほらあ、怖がっちゃって、大丈夫だって~最初だけだから」



 恐怖のあまり、その場に座り込んでしまう。こんなことなら彼女に一緒に来てもらったらよかったと、


 違う、もし彼女がいたら彼女まで巻き込まれてしまっていた。



 そう考えると、少しほっとする。そうして、車からもう一人男が降りてきたのを見て、彼女は諦めの表情をする……



「あ? なんだ?」


「煙? ゴホゴホっ!」



 もう駄目だと目を瞑った瞬間、自分の身体が何者かに持ち上げられた事に気づく。一瞬何が起こったのか理解できずにいた榛菜であったが、誰かが自分を抱えながらどこかへ移動していることが解ると目を開ける。



「ゴホッ……? 誰?」


「コーホォーコーホォー」



 制服を着たマスクマンが自分を抱え上げ走っている姿が……



「ひっ!?変態!?」





 ……




 …………






「なんだ? 煙? どこから?」


「車の下からだ!おい!燃えてるのか?」


「知らねえよ!? おい!やべえって」


「おい! 以上だって……ゴホッゴホっ」



 うまい具合に相手を翻弄する事に成功したな。さて、教官は……いた!



 ゴーグル越しに教官の姿を発見すると、そのまま抱え上げ駆け出す。思っていたより彼女は軽く、いい感じに力を抜いてくれていた。いきなり車の下から大量の煙に巻かれた事で盛大にパニックになっている男達を尻目に駆け出す。



「ゴホッ……? 誰?」


「コーホォーコーホォー」


「ひっ!? 変態!?」



 ……変態? 誰の事だろうか? まあいい、とりあえず安全な場所まで運ばないと



 そのまま首の後ろで騒ぐ榛菜を無視して、走り続ける。時折後方を確認するが、追ってくる気配は無い。警戒しながら学園の南門まで到着すると



「ふう、もう大丈夫です」


「え? 龍徳寺さん?」



 ゆっくりと榛菜を降ろし、ガスマスクを外し声をかける。聞いた事がある声に驚きながら、確認するかのように、こちらを見つめるが、



「とりあえず寮へ……?」



 どうやら気を失ったようである。仕方が無いので、そのまま彼女を抱えながら寮へと向かう百合。その道すがら、この状況をどう説明しようかと考える。どちらにせよ説教は覚悟しておかないといけないなと苦笑してしまうのであった。











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