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一年生編 春 第十一話

 




 苛め……苛めは人間関係が複雑に入り混じった集団、つまりは仲良しグループでのカースト制度、集団において絶対的ボスと、それに従事する仲間で群れ。その群が大きくなり過ぎたり、人間関係が濃厚になり過ぎた際に起こる些細な欠陥、例えば、周りの考えと違う発言をしたり、皆との約束を反故したり、きっかけは些細な事象である。しかし、その些細な小さな穴が、いつの間にか広がり、奥深い落とし穴になり、奈落へと墜ちていく。それが苛めである。


 何より、この苛めの性質の悪い所は、一度欠陥品を奈落へと叩き落せば、次の欠陥品を探す傾向にある。つまり、集団において一度欠陥品になったら奈落に落とされる事は無い。生かさず殺さず、じわりじわりと精神を蝕んでいく。何故なら、今の欠陥品が無くなれば、次の欠陥品を探そうとするからだ、そして、それは誰にでも起こりうる事象であり、例え群のボスであろうと例外は無い。


 そして何より、逃げ出せない容易に抜け出すことができない集団である学校といった限定的な場所で起こりやすい傾向にある。どちらにせよ、一度火がついたこの行為は誰にも止められない。





「ふむ」


「次、体育だよ? 早く更衣室行こ?」


「今日は何をするのですの?」


「ん、確か、今日はテニスだったけ?」


「そうだね。でもあたしは苦手だな」


「私もです」


「さっちんは別としてみぽりんは全部駄目じゃん」


「酷いですね。恵さん」


「あはは、ごめん、ごめん」



 楽しく談笑しながら教室を後にしようとする恵達、しかし、一人机の前で腕を組みながら動かない百合。



「どうしたの百合? 早くしないと授業はじまっちゃうよ?」


「そうですわ。急がないと着替えが間に合いませんわよ」



 その様子を気になった二人が声をかける。



「ああ、すまんが先に行っておいてくれ。後で私も行く」



 先に行くように促す百合。その様子を不信に思う二人。



「なんで? 体操着を忘れたとか?」


「そんなはずはありませんわ。今朝、百合さんが持ってるのを確認しましたもの」


「いや、そのはずだったんだがな」



 一向に二人が先に行かないので、見つめていた鞄を閉じると諦めたように白状する百合。



「え? どこか別の場所に忘れたとか?」


「いや、まあなんだ。どこかへやってしまったようだ」


「……」



 珍しく歯切れが悪い。今朝の靴箱の画鋲事件があった事といい、嫌な予感がする二人



「どうやら、持ってきたつもりだったようだな。とりあえず、替えが無いので、体育の教官には今日は見学させてもらえるよう頼んでおく。だから先に行け」



 苦笑しながら二人を見送る百合。しかし、



「なんか様子が変だよ? ちょっと鞄見せて……」



 様子がおかしい百合を怪訝に思い、彼女の鞄を半ば強引に覗き込む恵。



「何よ? これ……」



 鞄の中を確認すると厳しい表情になる恵。



「どうなされたのですか?」



 心配そうな表情で同じように、鞄の中を確認する由美。



「ふむ」



 見られてしまっては仕方が無いと諦めた表情をする百合。彼女の鞄の中から体操服は無くなっていなかった。



「どうやら、誰かが私の体操服に悪戯を施したようだ」



 鞄の中にはズタズタになった体操服が入っていた。



「悪戯って……どう考えても苛めじゃん! いや苛めより性質が悪いよ! 私先生に言ってくる」



 鼻息荒く怒り出す恵。



「ああ、気にするな」


「気にするな、じゃない! 私こういうのが一番許せない! 絶対に」


「だから、はあ……まったく、由美なんとかしてくれ」



 完全に切れているようで、聞いてもらえそうに無い。仕方が無いので由美に助けを求めようとする百合。



「ふふふ……恵さん? 先生に報告したところで何の解決になりませんわよ?返って大事になるだけですわ」


「でも……」



 やわらかい笑みを浮かべ、説得する由美。しかし、未だ納得できないのか俯いて悔しそうな表情をする恵。


 やっと落ち着いたな、と安堵する百合。しかし、このままでは今日は体育は受けれない。それから、ズタズタになってしまったので体操服も買い直さないといけない等、どうしようかと考えていると



「ふふ……先生如きに何かできるわけありませんもの……私の……豪徳寺の名にかけて必ず犯人を見つけ出して差し上げますわ……シルビアさん」


「はい、ここに……」


「え?」



 いきなり由美の後ろに現れるシルビア。



「シルビアさん? 私の言いたい事は解りますわよね?」


「はい、お嬢様」


「では、今すぐ行動なさい……Search & Destroy」


「Yes, my master」



 いつも通りのふんわりとした表情で物騒なことを言う。どうやら恵以上に怒っていたようでかなり怖い。



「阿呆が、やり過ぎだ」


「きゃんっ」


「貴様、お嬢様に何をする」


「何をする……は私の台詞だ。お前は学園で戦争でも起すつもりか?」


「お嬢様がそう仰せなら、私は従うのみ」


「はあ、もういい。この件はこっちでなんとかするから、お前達は気にしなくていい」


「ですが……」


「でないと恵が固まったまま戻ってこん」


「はっ!? 一瞬気を失ってた? ていうかどう考えても由美の方が大事だよ!?」


「あー遅いお目覚めだったな恵」


「そりゃそうだよ。いきなりシルビアさんが現れたり、物騒な事言ったりするから!」


「ああ、そうだな物騒だな。だから、そろそろ更衣室に行ったらどうだ?」


「でも」


「大丈夫だ、それに……」



 そのままシルビアの方へと視線を移す。



「はあ、もうネタばれですか……ではこちらをどうぞ」



 彼女が手渡したのは紙袋であった。



「ふふ、少し冗談が過ぎましたね。これは私の予備の体操服です」


「えーと、何がなんだか……」



 混乱する恵。



「恵様、実は万が一の事を考えて由美お嬢様には予備の体操服をご用意させて頂いておりまして、それから、後で百合様の体操服も新しくご用意しておきますのでご安心を」


「ありがとう。シルビアさん」


「もったいないお言葉でございます」


「つまり、シルビアさんはただ由美の予備の体操服を届けに来ただけ?」


「そうでございます」


「でも、一体どうやって? だって百合の体操服がボロボロにされたの気づいたのってさっきだよ?」


「その件とは関係ございません。私はいついかなる時もお嬢様に何かあれば駆けつけます。そして、何があっても良いように万全の準備をしておりますので」



 静かに目を伏せお辞儀するシルビア。



「そう、ですか……じゃ、じゃあっ、さっきの由美のあれは?」



 今度は由美の方へと矛先を向ける恵



「え? おほほ……」


「笑って誤魔化さないっ!」


「ひゃいっ! なんと申し上げたらいいのでしょうか……つい、勢いで?」


「勢いで、って……」



 勢いで見敵必殺って物騒な事をのたまうんですか、このお嬢様は……


 余りのことに項垂れる恵に苦笑する。



「と、いう事ですので、お三方は早く更衣室へ向かわれた方がよろしいかと。そろそろ授業に間に合わなくなってしまいます」



 時計を見れば後10分も無い。



「むう……色々と納得できないけど、今回は納得することにする。二人共走るよ」


「はい、ではシルビアさんありがとうございますね」


「いえ、お嬢様こそお気をつけて」



 そのまま急いで更衣室へと駆け出す。



「……すまんな。一つ借りだ」


「……別に貸したつもりは無いが、まったく貴様も油断したな」


「素人と思って油断しただけだ、次は無い」


「とりあえず、相手は唯の女生徒だから、あんま無茶をするんじゃないよ?」


「ああ、大丈夫だ」



 忠告に感謝すると駆け出す百合、その後姿を見つめながら溜息を吐くシルビア。しかし、彼女らの背中が見えなくなった頃にふと思い出しように呟く。



「……サイズのことを考えて無かったな」



 しかし、考えたところでもう遅いと結論づけ、そのまま静かに寮へと帰ることにするシルビア。







 一方その頃更衣室では……






「ふむ、少しきついが着れない事も無い」


「ぶっ!? それ絶対アウトだよ! というかお腹見えてるから!」


「まあまあ」


「あんたら、いつも楽しそうでいいね」


「といいますか、あれで体育出るんですかねえ」





 由美の体操服だとサイズが違い過ぎて余りにも卑猥な姿になってしまったので、結局は体育を見学する羽目になってしまうのであった。





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