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一年生編 春 第十話

 






 暗い教室に集まる数人の女生徒、彼女らの手には一枚の紙が握られていた。



「集まったわね」



 集団のちょうど中心に位置する場所に立つ一人の少女が、全員に視線を送る



「龍徳寺百合、彼女が今回のターゲットよ」



 彼女が指差す先には、無表情でカメラ目線に答える百合の姿が写された写真が置かれていた。








 翌日の朝、昨日とは違い、いつも通りの静かな朝、いつも通りの登校路にいつも通り三人での登校。若干違う所といえば、遠巻きに彼女らを見つめる者が増えたくらいであろう。


 そんな彼女らの視線もさして気にする事も無く校舎入り口へと向かう。



「流石に今朝は昨日よりマシだね」


「そうですわね」



 靴を履き替えながら語る。昨日は号外のせいで靴箱へ行くまで結構時間がかかってしまった。



「ま、流石に二日続けては無いか」


「ええ、でも今朝からこちらを見ておられる方の姿が増えましたわ」


「そうね……って、どうしたの?」



 自分の靴箱の前で訝しげに腕を組み微動だにしない様子の百合に声をかける。



「ん? ああ、どうやら私の靴箱を誰かが勝手に開けたようだ」


「そうなの?」



 閉まったままの靴箱を見て、首を傾げる。彼女はまだ靴箱を開けていないはずなのに、何故そんな事が解るのかと疑問に思う。



「まあ、用心の為にいつもこういった仕掛けを施しているんでな」



 床に落ちている小さな何かを摘み上げる。



「髪の毛? ですか?」



 百合の指先を見つめながら質問する由美。



「いや、髪の毛だと解りづらいのでステンレス製縫合糸を黒く塗ったものだ。これを靴箱の扉の端に仕掛けていて、私以外の誰かが開ければ……」


「糸が落ちて解ると?」


「そういうことだ」


「誰かが、間違えて百合さんの靴箱を開けてしまったのでしょうか?」


「いや、それは無いよ由美、だってうちの学校の靴箱って扉に思いっきり大きく名前が書かれているもん」



 この学園では一度決まった靴箱は卒業するまで、ずっと同じ場所を使用する為大きく名前が書かれたプレートが貼り付けられている。



「どちらにせよ、誰かが私の靴箱に何か細工をしたことには変わり無い」


「また、物騒な」


「でも、そうだとしたらどうしましょう?」



 真剣な表情で物騒な事をのたまう友人の頭を心配する恵と、真面目に心配する由美。



「これは適切な判断が必要だな」


「どうすんのよ?」


「あっ 私知っています。こういう場合どうしたらいいか」



 おずおずと手を挙げる由美。



「シルビアさんから教えてもらったことがあります。確か……」


 顎に人差し指をあてながら、可愛らしく首を傾げながら暫く考える由美。暫くの間『んー』と考えていたが、思い出したらしく、顎に当てていた人差し指を、今度は天井に指差すと誇らしげな表情で言い放つ。



「そう、爆破ですっ」


「はあっ!?」


「ほう」



 思わぬ発言に呆気にとられる恵と、興味深い表情の百合。



「ええと……こういった場合は仕掛け爆弾や細菌兵器など危険物が仕掛けられた可能性を考慮して、高性能爆薬を使用した爆破処理が一番適切……むぅ~ん~ん~」


「すとぉ~ぷっ!もういい、みなまで言うな」



 由美の口を塞ぐ恵。というよりシルビアさんは、この子に何を吹き込んでいるんだと心配になってくる。



「どこの世界に女子高生の靴箱に爆弾や細菌兵器を仕掛けるテOリストがいるのよ!?」


「え? でも……」


「いや、由美の言う事も最もだぞ。確かに中身が解らない以上、あらゆる危険に対処しなければならないからな。そう考えれば爆破が一番適切とも言える」


「百合さん……」



 頬を染めながらうっとりする。



「私はあんたたちを病院に連れて行く事が一番適切な処理だと思います」


「酷いな恵」


「そうですわ」



 呆れた表情で両手を挙げる彼女を非難する。まったくこの二人は真面目なのか、天然なのか、一緒にいるとたまに疲れる。



「しかし、爆破か」


「まさかとは思うけど、あんたまさか……」



 興味深気な表情の百合に一抹の不安を覚える。



「ん? いや、爆破なんかできないぞ?」


「そうよね、流石にそれは無いわよね?」


「C-4を使おうにも、持っていないからな」


「C-4?何それ」


「プラスチック爆薬」


「そう……」



 ということは持っていたらやるんだ、と思う恵。



「まあ、大事にしても意味が無いのでな」



 鞄の中から黒いナイフのような物を取り出すと手元のスイッチを入れる。



「靴箱が木製でよかった。金属だったら意味が無かったからな」



 それを自分の靴箱にかざす



「えっと、もう今更あんたの鞄から何が出てきても驚かないけど……それ、何?」


「なんでしょうか?微妙にピーピーと音が鳴っていますわね」


「ああ、金属探知機だ」



 念入りに翳しながら答える。



「十分大事だと思うわよ?普通の女子が靴箱を金属探知機で調べないから」


「そうは言うが、どうやら靴箱の中に金属製の何か仕掛けられているようだぞ?さっきから反応しているしな」


「まあ、それは大変ですわ」


「『まあ、それは大変』 じゃないわよ! 大体靴箱に金属反応があったからって危険物が仕掛けられているはずないじゃない!」



 二人の反応に突っ込むと、勝手に百合の靴箱を開ける。当たり前の事であるが、爆発とかそういったものは何も起こらない。



「ほら、何も無いじゃない……?」



 そのまま靴箱の中を覗き込むと止まる。



「どうした?細菌兵器にでもやられたか?」


「大変ですわ。急いで保健室に……」



 覗き込んだまま動かない恵を心配する二人。



「違うわよ!?てかあんたら大概酷いわね、もう」



 そのまま振り返ると突っ込みを入れる。



「それはすまなかった。で、どうした?」


「うん、これ見て」



 ふざけていた様子の百合に、真面目な表情で彼女の上履きを見せる。その上履きの中には画鋲が入っていた。



「ああ、画鋲か。だから探知機が反応したというわけか、まったく人騒がせな」


「そうだね。爆弾じゃ無くてよかったね……じゃない!」



 全く気にした素振りの無い百合に詰め寄る。



「何をそんなに怒っている?ただの画鋲だぞ?爆弾や毒ガスとかだったら慌てても仕方が無いが」


「そんなことがあったら普通に大事件だよ!?そういう事じゃなくって」


「それとも爆弾や電撃ならともかく、画鋲程度で私をどうにかできると思っているのか?」


「流石は百合さんですわ。私(わたくし)でしたら、驚いてしまいますもの」



 驚く以前の問題ではあるが、それにしてもこの二人の思考回路が最近同じベクトルで進んでいる事に頭を抱えてしまう。



「そうじゃなくって、あーもう! あのね、これって嫌がらせだよ?」



 世間知らずな二人の言動のせいで余り大事そうに見えないが、かなり悪質な嫌がらせである。



「そうか?まあ、確かにそのまま履いてしまえば多少痛いだろうが、その程度だろ? それに、普通履く前に気づくしな。トラップとしては余りにも幼稚すぎる」


「確かに、奥の方まで入れて何かで固定すれば解り辛いのに、あえて手前に、しかもこれだけの数を入れてしまっては、気づいて下さいって言っているも同然ですものね」



 うんうん、っと二人頷きあう姿にものすごく違和感がつきまとってしまう。



「いやいや、問題はそこじゃないよ?」


「じゃあ、何が問題だ?」


「だから、誰かが百合の上履きに画鋲を入れたんだよ? それって」


「誰かが私を恨んでいる、もしくは、気に食わないってことだろ?」


「そうだよ。それなのに、なんでそんなに平気なわけ?」



 余りにも無関心な百合に、少し苛立つ恵。



「ああ、すまんな。そうだな、簡単に言ってしまえば気にならんからだ」


「気にしないって、こんなことされて腹が立たないの?」


「ああ」


「でも……」



 悔しそうな表情する恵の肩に手を置くと



「お前や由美に仕掛けられていたならともかく、あらゆる武器、爆破物に精通した私に仕掛けてもまったく問題無い。それに……」


「それに?」


「仕掛けられたのが私でよかった。もし、お前や由美だったら私は仕掛けた相手を……」



 恵の肩に置いた手を中空に添えると、そのまま水平に掻っ切るように切る。



「相変わらず物騒だよね」


「ああ、物騒だ。だから気にするな」


「大丈夫ですわ。もし、私に何かあれば、我が豪徳寺財閥の名にかけて、相手はこの世から消えてしまいますもの」


「こっちはもっと物騒だ」



 爽やかな笑みを浮かべながら、物騒な事をいうやんごとなきお嬢様。



「さて、教室に行くか」


「そうだね」


「ええ」



 気づけば、朝のHRの予鈴が鳴っており、慌てて教室へ向かう三人。しかし、百合への嫌がらせは、暫く続くのであるが、この時点では誰も気づいていない……というより、本人はまったく気にしていないのであった……












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