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一年生編 春 第九話

 






 ここは三階、聖盾女学園に通う最上級生の教室が並ぶ校舎である。三年A組と書かれたプレートが掛けられた教室内で、静かに談笑する詩織。そんな詩織の姿を確認すると、ツカツカと近づいてくる少女の姿が見える。



「貴方、またやったわね?」



 腰に手をあてながら溜息を吐く。彼女も詩織と同じクラスで、学生総代である。



「何の事だ?」


「とぼけても無駄よ、はいこれ」


「ん?」



 一枚の紙を手渡す。そこに号外の文字、今朝百合達が見たものとまったく同じ新聞部発行の号外であった。



「ほう、三角関係とは面白い。それに、良く撮れているな」



 写真を満足そうに見つめる詩織に対し、



「もう、笑い事じゃ無いわよ」



 更に眉間に皺がよる舞。



「別に噂が流れる程度、可愛いものじゃないか」



 その様子を楽しそうに眺める詩織。



「貴方はいいかも知れないけど、他の委員はたまったもんじゃないと思うわ」


「そうか?」


「それに、この一年生も」


「ああ、それなら問題無い」


「へ?」


「写真を良く見てみろ」


「ん?これって」



 写真を指差す、そこにはめちゃくちゃカメラ目線の二人の姿が映っていた。しかも、かなりのドヤ顔で



「そういうことだ。中々に面白い子だろ?」


「まあ、そうね」



 悪びれない詩織の姿に溜息を吐く。



「しかし、今年は退屈しそうにないな」


「貴方、悪の幹部みたいな笑い方になってるわよ?」



 くくっと笑う詩織に、窘めるがまったく反省する気が無い。



「いいじゃないか、退屈は人を殺すって言うくらいだからコレくらいの刺激は必要だろ?」


「風紀委員長らしからぬ言動ね。でも気をつけないと誰かさんに足元をすくわれるわよ?」


「ま、職権乱用などせんよ。それに、その辺りは弁えるさ」


「まったく、貴方っていつもそうよね」



 心底楽しそうな詩織に一抹の不安を感じるも、彼女が自重しないことを知っているので呆れた表情で首を振る。これから大変なことが容易に解るのでため息を吐く舞であった。











「すごい人だね」


「本当ですわね」



 呆れたようにため息を吐く恵と由美。見れば教室の外、廊下には人だかりが集まっており騒々しい。皆興味深気に室内を覗き込む生徒達。とはいえ、教室に雪崩れ込んでこずに遠巻きに見つめるだけな所は流石といった所であろうか。



「まったく騒々しいな」



 同じように溜息を吐く百合であったが、



「あんたが原因なんだけどね」



 まるで他人事のように振舞う彼女に苦笑する。今朝の号外の件からまだそんなに時間が経過してはいないが、二時間目の休み時間には既に何名か教室前に見に来るようになり、三時限目には増え、そして、



「お昼休みの今はものすごいことになっていますものね」



 廊下中を埋め尽くさんばかりの人だかりである。



「ま、情操教育を施された子羊とはいえ所詮は女子高生、こういったスキャンダルとか芸能情報は大好きなんじゃない?」


「そういえば、この学園にもおられましたわよね?そういう職業されている方が」


「あー神裂千秋」


「そうです。確か二年……」


「B組だよ」


「あ、さっちん」



 疲れたような表情で三人に近寄る祥子と、



「はう~」



 乱れた髪を整えなが唸る美穂。



「しかし、まいったね。まさか自分のクラスメイトが有名人になるなんて、今のうちにサイン貰っておいたほうがいいかな?」



 そう言って笑う祥子。



「勘弁してくれ……」


「まっ、何にせよ。この学園のトップと親密になるとこういう目にあうんだね」


「いや、単に面白がっているだけだろう?」


「本当にすごい人気ですよねえ」


「でも、好意的な人ばかりじゃないから、気をつけたほうがいいよ」



 少し声のトーンを落とし忠告する祥子。曰く、号外を見た人間の中には百合の事を余り良く思っていない生徒もいる。



「まあ、それは風紀委員会って所もあるんだろうけど」



 風紀委員会、学生を取り締まる委員でもあり権限も強大である。それ故に妬む者がいることも事実で、ここ数年でいくつかの部活が活動停止にされたこともある。



「取り締まる側がスクープされちゃ不祥事じゃないの?」


「問題無い、疚しい事は一切無いしな」


「そうですわね。寮でご一緒させて頂いていますけれども、お二人の仲はとてもよろしいですわ」


「そうだよね。ていうか、あの人誰彼構わずスキンシップとってくるよね?あたしも一回後ろから抱きつかれたし」


「ええ、私もいきなり抱えあげられました」


「その事実は聞きたく無かったね」


「なんと言いますか、本当は可愛い方なのですね」



 恵と由美の話を聞いて、驚きながらも苦笑する美穂と祥子。



「いやいや、それを言ったら百合なんて酷いもんだよ」


「百合さんがですか?」


「ええ、そうですわね」



 嫌らしい笑みを浮かべる恵に対して、苦笑いになる由美。



「へえ、どんな感じ?」


「例えば、下着姿で徘徊したり、酷いときは全裸だったり……」


「ええ、目のやり場に困るときがありますわね」


「それは」


「なんでしょうか、一度見てみたいですねぇ」



 興味深く見られる。しかし、全く気にした素振りも無く



「ん?別に同性しかいないんだ。見られても困らんだろ?」



 頬杖をつきながら返答する。



「へえへえ、それは見られても困らないお身体ですからね」



 ジト目で見る恵。その視線の先には巨大な二つの丸い物体が重力を無視して聳え立っていた。



「百合さんって出る所は出て引っ込むところは引っ込んでいるだよね」


「背も高くてうらやましいです」



 余り背が高く無い美穂が羨ましそうな表情で溜息を吐く。



「そうか?」


「ほ~んとっこのおっぱいお化け」



 と叫びながら思いっきり百合の胸を揉む恵。



「ちょ、恵さん、またそんなことを」



 慌てて止めようとする由美に対して



「えーそう言う由美だって実は揉みたいんでしょ?」



 いやらしい笑みを浮かべては、やわらかい感触を楽しむ。



「それは……」



 その様子に指を交差してもじもじとする由美。



「ほらほら~今ならやりたい放題だよ?」



 揉むのを止めると今度は百合の両手を掴み、そのまま大きく開く。



「……別に私はかまわんぞ?」



 万歳のポーズをとらされた時点で諦めたのか、ため息を吐く百合。



「そう、それじゃあ失礼して」



 先に動いたのが祥子だった



「じゃあ、失礼しますね」



 次に美穂も



「あ、ほんとだすごいやわらかい」


「マシュマロみたいですね」



 万歳させられて二人に揉みしだかれるも、まったくの無表情で対応する。



「お二人まで」



 まさか二人がやるとは思っていなかったのか項垂れる由美。



「あはは、こういう機会ってあんまり無いって思って」


「ごめんなさい」



 その様子に謝る二人、しかし、笑みを浮かべている辺りはそんなに反省しているように見えない。



「もう恵さんも、やりすぎですわよ」


「は~い」



 由美に窘められて渋々手を放す恵



「それから百合さんも、こういうことはきちんと拒否なさってください。でないと、恵さんにおもちゃにされますよ」


「ん、解った」



 同じく百合に説教する。怒っているのであるがあまり迫力が無い為苦笑してしまう。



「しかし、この学園にきてから色んな奴に胸を揉まれるが、女子高生ってのは皆そうなのか?」



 腕を組みながら溜息を吐く。



「まあ、そんなもんじゃないかな?いくら情操教育されていたとしても、色々やりたい盛りの年頃なんだし」


「逆に異性が少ないとそういった方面に開放的になるといいますしねぇ。取り繕ったりしなくてもいいですし」



 ぶっちゃけた発言に苦笑してしまう。



「あ、やっぱり普通に同性同士で付き合ったりとかあるんだ」



 興味深そうに会話を続ける。



「放課後なんてよく恋人繋ぎするお姉さま方をみかけるよ」


「あれ、目のやり場に困るんですよねぇ」


「ああーわかる。寮でも姉妹で結構イチャイチャしてるし」


「そうですわね」


「まあ女子校なんて、どこも同じなんだろうけど」



 祥子曰く、外界から隔離された広い敷地内、周りにいる人はほとんどが同性である女子高での生活。外の世界に行くことはほとんど無く、異性との接触は家族か学校職員くらいしか無い上に遥かに年上ばかりになると、自然とそうなっていくらしい。



「流石、小中高と全部女子校だったさっちんが言うと説得力あるよね」



 感慨深く頷く恵。



「異性のいない環境のせいか、スポーツができる子、勉強ができる子とか、後容姿がかっこいい子とか可愛い子はもててたよ」


「結局、異性でも同性でもモテ要素はかわらないってことか」


「そうですわね。多分、共学だったら後ろに『男の子』ってつくだけですものね」


「そうですけど、由美さんも結構言いますねぇ」



 由美のぶっちゃけた発言に、皆が笑う。そんな中興味無さそうに聞いていた百合がふと口を開く。



「つまり、雌としての本能が環境に適応して同性で補おうとするということか」


「それはちょっと」


「わいるど、ですねぇ」



 その発言に苦笑する。



「流石は百合さんは、言う事が他と違うね」


「さっちん、そこ褒めるとこと違う」



 苦笑しながら百合の方へと視線を送る。



「まあまあ、いいじゃないですか。それに百合さんて前々から結構人気があるんですよ」



 同じく笑みを浮かべる美穂。



「そうなん?」



 美穂曰く、元々容姿が良く、密かに人気はあったようであるが、余り他人を寄せ付けない独特な雰囲気がある為に誰も近づけないでいたそうだ。



「それが今回の記事で一気に加熱したってことか」


「ともあれ、しばらくはうるさくなりそうだね」


「そう、ですわね」



 五時間目の予鈴が鳴り響く、廊下の人だかりも気づけば消えており、何事も無く午後の授業が始まるのであった。
























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