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一年生編 春 第七話

 









「はあ……」



 昼休み、クラスメイト達が各自で昼食や談笑を楽しむ時間。自分の席に座り、外を眺めながら溜息を吐く百合。



「珍しいね、百合が疲れているなんて」


「大丈夫ですの?」


「ああ、問題ない」



 そういうが表情は余りよくない、それを心配そうにする由美。



「そういえば、ここ最近帰りも遅いしね」


「ええ」



 最近風紀委員の仕事が忙しくて、帰りが遅くなる事が多い。とはいえ、夕食の時間には間に合っているので、そこまで問題ではないが……



「勧誘週間……正直舐めていた」


「そう、なんですか?」


「ああ、酷いものだ」


「百合が酷いって言うくらいだから、よっぽどなんだろうね」



 焦燥しきっている様子を見て、思わず苦笑してしまう。



「ああ、まず校内を馬に乗って新入生を集団で掻っ攫う集団と遭遇した」


「どこの山賊よ!?」



 飲んでいたジュースを噴出す恵



「確か、この学園には馬術部がありましたわよね」


「馬術部って……もっと優雅で格調高い協議じゃなかったの?」



 最もな意見である。



「それから、その騎馬集団に対して、競技用ライフルを持った集団が対抗していたな」


「長篠!?長篠の戦なの!?」


「射撃部ですわね」


「射撃部って……年齢的にいいの?それ」


「学内ですし、よろしいのでは無いですか?実際私もクレーン射撃など、おじ様から教わりましたし」


「この国の法律は良く知らんが、とりあえず壮絶だった」



 腕を組みながら感慨深く頷く。



「それは大変でしたのですね」


「いや、大変ってレベルじゃないよ?それ」



 心配そうに労う由美に突っ込む恵。



「ああ、とりあえず数では向こうが上だったからな。しかし、経験では私の足元にも及ばん」


「えっと、余り聞きたく無いんだけど……どうしたの?」



 嫌な予感がする。



「ああ、とりあえず閃光弾(フラッシュバン)を投げ込んで……」


「ストォップ!やっぱいいや。結果だけ教えて」


「ん?解った。とりあえず、首謀者は拘束して委員会懲罰室へ連行、後は厳重注意としておいた」


「そう、死人が出なくてよかった」


「当たり前だ。あくまでも平和的武力によって制圧したに過ぎん」


「そんな矛盾した単語聞いた事ありません」



 ドヤ顔で語る百合に項垂れる。



「他には?他の部活の方々はどのような勧誘をされておられたのですか?」



 恵とは対照的に興味津々な由美。



「ああ、後は剣道部と剣術部の殺陣……」


「あ、それはまともぽい」


「をしている最中に弓道部と長刀部が参戦してきての合戦」


「いつの戦国時代よ!?」


「ああ、事の発端は確か」



 それは運動場での出来事であった。剣道部と剣術部が共同で行った殺陣の最中に、どこからともなく飛んできた矢が剣道部の部長に命中、その拍子にタイミングがずれて剣術部の部長に思いっきり頭頂部への面攻撃が入り、その衝撃で思わず手を放した木刀が飛び、同じく演舞をしていた長刀部の部長の後頭部に命中した。



「ドOフ!?」


「さっきからうるさいな」


「それで、どうなったんですか?」



「ああ、結局四つ巴の乱戦状態だったのと、こちらの人員が私と千里だけだったんでな。とりあえず、爆破しておいた」


「爆破!?」


「まあ、それは、大丈夫ですの?」


「問題無い。確か、コント用?の特殊な迫撃砲弾を打ち込み、その後は訓練用の突撃砲で制圧射撃と千里の近接戦闘で全員をノックアウトしておいた」


「ここってお嬢様学園よね!?どっかの紛争地域じゃないよね!?」


「何を言っているんだ?紛争地帯とか物騒だな」


「あんたがよ!」


「まあまあ」



 思わず殴りかかりそうになる恵を止める由美。周りも止めない所を見ればもう慣れたものである。



「で、それで、今日は休み?」


「ん?ああ、今日はオフだ」


「それはよかったですわ」



 最近中々三人で帰ることが無かった為、喜ぶ由美。



「ともあれ、疲れた」


「ま、確かにそれだけ暴れれば疲れも溜まるわね」


「でも、風紀委員には他にも委員がおられるはずですが……」



 風紀委員は委員長含め全員で11人が所属しており、今年のメンバーは3年が三名、2年が六名、そして1年が二名である。



「最終的には全員外回りで詰め所を生徒会に任せることになった」


「それは大変でしたわね」



 結局委員会本部にいた要員も全員外に出して対応に追われることになり、代わりに生徒会長の美咲が暇だからと言って留守番を申し出た。



「それは、贅沢なお留守番ですわね」


「でも、生徒会と風紀委員って確か、学生総会とあわせて三つ巴の仲じゃないの?」



 一般的に、学園を仕切る生徒会と、学生の代表である学生総会、その二つを監視する風紀委員会とされているが現実は、



「ああ、代表三人はいつも一緒にいることが多い」



 普通に仲良し三人組である。



「そんなものよね。大体華の女子高なんだし、堅苦しい規律とかはある程度は緩やかにしなやかにしないとね」


「しなやか、ですか?」


「そ、しなやか」


「しなやかかどうかは知らんが、公私は完全にわけているぞ?」



 一応は学園の重要機関である。学生主体で運営をしている上で、様々な面で対立する事が多い。



「ま、あたしらには関係の無い話だけどね」


「なんだ、恵は部活に入らないのか?元バレー部エース」


「うぐぅ……変な事は覚えているのね」



 いやらしい笑みを浮かべる百合に対し、項垂れる恵。



「それより、今日はお休みでしたら帰りにどこか寄っていきません?」


「あっ、いいねえ。前行ったお店は?確か……」


「ああ、あそこなら閉店した」


「え?そうなの?」



 カフェ『Lapin』西洋風の建物をモチーフにした佇まいに、欧州の珍しい菓子とお茶を楽しむ店として流行っていたが、突然閉店してしまった。



「それは残念です。おいしかったのに……」


「やっぱり世間は不景気なんだ」


「いや、そうでもないぞ?先週の株価が39000円台を超えかけたはずだ」


「ま、ここではそんなことは無関係だけどね」


「そう、ですわね」



 世間とは隔離された半島に作られた大きな学園。ここに通う学生の大半が資産家の娘や有力な権力者の娘である。



「でも、ここを卒業したら私たちもそういったものと関わっていくのですよね」


「んーどうだろ?あたしなんか、親父……父親の仕事余り好きじゃないし」


「私は……」



 ふと考え込む百合。物心ついた頃からずっと戦場暮らし、周りは皆大人ばかりで同世代の友人などおらず、勉強や語学、銃の扱いから体術など様々なものを教わってきた。だから、きっとこのまま皆と一緒にここで生涯を過ごすんだろうなと思っていた。それが今や、



「ふむ……私はどうなりたいんだろうな?」



 同世代の同性と一緒に楽しんでいる。それが不思議で仕方が無かった。



「何、それ。ま、そんな先のことより、とりあえず放課後どこ行くか考えようよ」



 真面目におかしなことをのたまう百合に笑みを浮かべながら、今日の事を相談する恵。



「それに来週にはゴールデンウィークが待っているのよ」


「黄金週間か」


「なんだろう日本語にするとなんか嫌」


「まあまあ、皆様はどうなさるのですか?」


「特に予定は無いな」


「あたしも」


「でしたら、皆でどこか行きません?」



 二人にそう提案する由美。



「マジで?それはいいかも」


「そうだな。たまにはいいな」


「でしたら、シルビアさんにお願いしておきますね」


「OK~」


「解った」



 そうしている間に、五時限目の予鈴が鳴る。それを確認すると次の授業の準備をするのであった。








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