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一年生編 春 第四話

 









 ここ聖盾女学園では、部活動にもかなりの力を入れている。種類も豊富にあり、メジャーな部活からマイナーなものまで数多くあり、活動内容も様々で、中には活動内容が不明な怪しい部活もあったりする。

 そして、様々に混在する部活動を取り纏める学内組織が部活動連盟である。


 部活動連盟、通称『部活連』は、主だった部活の代表達で構成されており、その長は連盟内の内部選挙によって選ばれる。構成員は10名で、これも主だった部活の部員から連盟長が選抜する。


 基本は選ばれた連盟長が好きに選んでも構わないが、必ず運動系と文化系の構成比を半々にしなければならない。これは部活内での意見交換や反映で偏りが出ないようにする配慮である。それ故に長が運動系部活から選ばれた場合は副長は文科系から、逆の場合も同じで必ず構成するようになっていた。


 しかしながら、部活連での発言力の強さは、部員数が多い部活や実績のある部活の方が有利にあることは否めない。それ故に、この時期に行われる新入生部活勧誘週間での部員達の行動は熾烈を極める……





「ソフトボール部です!一緒に甲子園目指しませんか!?」


「サッカー部!ソフトなんてむさい部活よりカジュアルなサッカー部でワールドカップ目指しましょう!」


「なんですって!?」


「なによ!?」


「皆様~こんな野蛮な部活に入るくらいなら陸上部へ!最速の女王目指しましょう!」


「誰が野蛮よ!?この筋肉ゴリラ!」


「なんですって!?」



 グランドに到着すると既に修羅場とかしていた。運動場なだけに、この場所を主に使用する部活の部員達が、新入生を見つけると争奪戦を繰り返していた。



「……あれ、ここって気品溢れる無垢な子羊が通う学園でしたっけ?」



 溜息を吐きながら、目の前の光景を眺める千里。甲子園とかワールドカップって……



「まあ、色々とストレスでも溜まっているんだろう」



 同じく呆れた様子で眺める百合。



「ともあれ、怒鳴りあい程度なら問題無いだろう。暴力行為や拉致行為などは無さそうだ」


「そうね……あったら、あったで問題でしょうけど」



 苦笑しながら見回りを続ける二人。とりあえず、グランドが通学路より離れているせいか比較的まだ大人しめに見える。



「さて、ここは問題無さそうだな。とりあえず順番にルートを廻るか」


「そうね」








 ……



 ………






「この辺りは激戦区ね……」



 グランドから遊歩道へと見回りを続ける二人、流石に通学路沿いなだけありすごいことになっていた。たくさんのテントの中では部員が帰宅途中の一年生を見つけては勧誘合戦を繰り広げていた。



「そうだな。しかし……」


「なに?」


「いや、思っていたよりは平穏なんで拍子抜けしただけだ」


「そう?私からすればいつもの学園の風景からすれば異常にしか見えないわ」



 周りを見回しながら溜息を吐く。いつもの通学路、その道いっぱいに部員が群がり下校中の一年生を見つけては、大きな声で勧誘を繰り返す。いつもの大人しい雰囲気とは違い、運動部はユニフォームを、文化部はコスプレをしていた。



「しかし、変な格好している奴もいるもんだ」



 何かのアニメのキャラクターであろうか、大きな筒を持ったセーラー服姿の姿を見て呟く。



「ああ、あれって最近流行ってるアニメで、えーと、確か……国防娘」


「国防娘?」


「そう、国防軍の兵器を擬人化したか何かで、最近流行っているそうよ」


「ほう、ということはあの筒は主砲を意味しているか?国防軍のカラーリングは独特で好きだが、それにしては露出が高くないか?」


「あれでも大人しい方よ。中にはほぼ下着なのもいるから……」


「まあ、趣味は人それぞれだが……」


「そうね。貴方の趣味も大概だと思うわよ」



 呆れた様子の百合の格好を指差し、指摘する千里。



「お前が言うか?ああ、お前の場合は趣味というよりは性へ……」


「わーわー!!」



 慌てて彼女の口を押さえると、周りを警戒する。幸い、喧騒のおかげか誰も聞いている者はいなかった。それを確認するとほっとする。


「ああ、すまんすまん」


「もう……」


「ふむ、今日は抑えているようで何より、また発情されたら適わんからな」


「人を獣みたいに言わないでよ」


 頬を膨らませる千里に苦笑する。談笑をしながらも、ゆっくりと巡回する二人。騒がしく叫ぶ女生徒達の姿を眺めながら進んでいく。


「思っていたより普通だな」


「そうね。まあ、女子高だし、その辺りは抑え気味なんじゃない?」


「そうだと言いがな……」


<貴方達が先にっ!>


 緩い空気を切り裂くような甲高い叫び声が木霊する。


「え?」


 叫び声がした方角へ視線を移すと既に、駆け出していた百合の後姿が見える。


「……はやっ!?ちょっと、待ってよ!?」


 遅れて走り出す千里。


 人ごみを掻き分けながら、走っていく。暫く走ると更に人が集まっている場所が見える。その集まりの中心点、ど真ん中で言い合う生徒が二人。



「どういうつもりですか?」


「それはこっちの台詞です」



 ものすごい剣幕でにらみ合う二人、片方は良く知る顔。



「私達は風紀委員として、そちらの生徒に対して注意勧告をしただけです」



 同じ風紀委員の山岡静である。



「彼女達は、別に何も悪い事をしていません」



 もう一人、部員達を庇うように立つ少女。



「む、遅かったな」


「貴方が早いのよ。で、一体これは?」



 言い合う二人の傍で、黙って立つ百合を見つけると声をかける千里。見れば、静と共に巡回に廻っていた琴絵が、困ったような表情をしていた。



「えーと、実はちょっと困った事になっちゃってね」



 経緯を説明する琴絵。


 事の発端は、静と言い合っている少女の後ろにいる生徒達が帰宅中の一年生を強引に勧誘したという事らしい。しかし、琴絵はその詳細を見ておらず、彼女だけが目撃しており、尚且つその叱責から部員達はすっかり怯えてしまった。それをたまたま通りがかった少女、名前は『米倉芽衣子』二年生で、生徒総会執行員である。



「つまり、生徒総会として、静お姉さまの行為が過剰であると抗議したわけですか」


「んー正解」



 えらいといった感じで答える琴絵。確かに、部員達の怯えようを見るとそんな強引な勧誘をしそうには見えない。かといって静が嘘を言うとも思えない。そうなると……



「そ、平行線」


「でも、それなら、勧誘された新入生に直接聞けば……」


「残念ながら無理、その新入生はどさくさにまぎれて帰っちゃったから……それから、もちろんだけど目撃者は無しね」


「それって、どうしようもないじゃないですか」


「そ、だから平行線」



 お手上げっと言った感じで答える琴絵。そんな彼女の姿に苦笑を浮かべる事しかできない千里。



「ふむ、とりあえず迷惑行為をしている中心人物を取り締まればいいのだろう?」


「え?」



 斜めに構えていたアサルトライフルを構えると、そのまま言い合う二人の方へと歩いていく。そうして、ゆっくりと進んでいき、銃口を一度空へと向け引き金を引く。




<パーンッッ!!>




 大きな銃声が鳴り響く。



「「!?」」



 その音に驚き振り返ると、



「向こうを向いて手を挙げろ」


「はぁ!?」


「ちょっと貴方、何なの?」


「風紀委員だ。往来での迷惑行為で現行犯逮捕させてもらう」



 そのまま銃口を二人に交互に向ける百合。



「ちょっ、私は同じ……」


「問答無用」


「はぁ!?ちょっと静?貴方の所の人間でしょ?なんとかしなさいよ?」


 とりあえず、両手を挙げながら後ろを向いた二人。


「えーと、龍徳寺……さん?どういうつもりで……」


「喋るな」


「なっ!?上級生に対して、その口の聞き方は何?」


「生憎とテロリストを敬う性格では無いのでな」


「誰がテロリストよ!?」


「……貴方の所の新人、頭のネジをどこかに置いて来たのでは無いですか?」



 憤慨する静に溜息を吐く芽衣子。何を言ってもまったく聞く耳持たない百合の態度に半ば諦め、大人しく従う。


 その様子を唖然と眺めていた千里であったが、



「ちょ、ちょっと待った、待った。百合さん、その二人は……」



 慌てて止めに入る。



「千里か、ちょうどいい。この二人を拘束するのを手伝ってくれ」



 全く無視をして、しかも、二人を縛るのを手伝えと要求してきた。



「いやいやいや、駄目だって」


「何故だ?」


「だって、二人共委員会の人間だし」


「関係ない。我々の任務は、騒乱行為や迷惑行為の取り締まりだ。私が見る限り今、騒ぎを起している元凶はこの二人だ」


「いや、風紀委員が風紀委員を取り締まるなんて聞いた事無いわよ!?琴絵お姉さまも何かおっしゃってください」


「えーと……まあ、仕方が無いんじゃない?」



 助けを求める千里の視線に、首をかしげながら頬に指をあて苦笑する琴絵。



「それに、百合さんの言ってこともあながち間違いじゃないしね」


「それは、そうですけど……」



 周りを見渡しながら説明する。確かに、現在この場で一番騒いでいるのはこの二人。帰宅途中の新入生はもちろんのこと、部員達も勧誘せずに状況を見守っていた。



「二人の喧嘩のせいで、往来の邪魔をしていたのは事実、後は私が引き継ぐから、龍徳寺さんと佐々木さんは見回りを続けてもらえるかしら。静、芽衣子?とりあえず、委員会本部まで来てもらえるわね?」



 微笑みながら、百合の手に自分の手を添える。



「了解しました」



 それに納得したのか、銃口を下に下ろす百合。



「……ちょっと、私と態度が違いすぎない?」



 その態度に、納得できない表情をする静。



「ふふ、それは貴方が悪いわよ?静」


「はいはい」


「まあ、止めなかった私も悪いんだけどね」



 思わず苦笑してしまう琴絵。



「とりあえず、助かったわ。琴絵、私も委員会に行けばいいのよね?」



 ほっと溜息を吐く芽衣子。



「ええ、申し訳ないですけどご同行願えますか?」


「かまわないわよ?この子に拘束されるより何倍もマシだから」



 百合を指指しながらうなだれる。その様子に先ほどまでの覇気は全然感じられない。



「それじゃ、二人共後はお願いしますね。それから理恵と合流したら本部戻っているって伝えておいて」


「わかりました」


「はっ」



 二人の返事を確認すると、立ち去る。



「……さて、皆様お騒がせ致しました。どうぞ、活動をお続けください。ですが、聖盾女学園の学生として、節度を持って行うようお願いしますね」



 周りを見回しながら大きな声で、説明する。



「部員の獲得が各部活にとって最優先なのは解りますが、違反行為や、行き過ぎた行為を行った者はしょ……」


「射殺する」



 千里の言葉に合わせてとんでもない発言が聞こえた。



「……処罰の……対象となる……」



 余り聞いた事の無い単語に、場が騒然となる。



「えーと、違反者に対しては」


「射殺する」


「いや、だから……」


「何か、問題でも?」



 真顔で返される。



「はあ、もういいわよ。とりあえず、彼女に関わり合いたく無ければ、節度を守って行動して下さいね」



 それは脅迫では?と思うが、百合の姿を見て抗議する気も失せてしまう。まったく躊躇が無い表情をする彼女に溜息が漏れる。



「さて、それじゃあ。見回りを続けるか」


「そうね、お願いだからいきなり行動に移るのだけは止めてね」


「善処する」



 そのまま、歩き出す二人。あからさまに避けられる様子に苦い顔をしながら見回りを続ける。










 ……




 …………









「へえ……一年A組、龍徳寺百合か……面白いわね」



 木陰に隠れて、様子を見ながら舌なめずりする少女。心底楽しそうな表情で見つめる先には、百合と千里の背中が見えていた……







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