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一年生編 春 第三話

 







 風紀委員室本部、12畳ほどの部屋の中に集まる風紀委員。委員長を含め全員で11人。全員腕に腕章をつけていた。



「さて、今年もこの時期がやってきたわけだが」



 床の間でいえばちょうど上座の位置に立つ詩織が、机に手を置きながら説明する。



「毎年、この馬鹿騒ぎに乗じてルールを逸脱する輩が増えている」



 輩って……確かここはお嬢様が通う学園だったような。思わず苦笑しそうになる百合。



「新入生をとりあい、もみくちゃにされる被害も年々増えてきている。幸い重要な事故にならずに済んだが、年々過激になってきているのは否めない。これは有力な部員を獲得することで、各部の予算配分が変わってくるからだ」



 確かに、学生に自治権を任されている以上、各部活は実績と人員を確保することは最優先事項となる。どんなに熱意を持って部活動をしようが、人員がいなければ活動もできない上に予算が無ければ滞ってしまう。



「それ故に、その争奪合戦は戦場といっても過言ではない」



 物騒な単語が並ぶ。



「では、各自の配置を通達する」



 全員が頷いたのを確認すると、指示を飛ばす詩織。



「まず、芳江、雪は運動部が多い体育館周辺から」


「「はい」」


「文科系校舎は、絵里と美由紀」


「「はい」」


「校舎への表通りは静に、琴江、それから理恵」


「「「「はい」」」」


「新人二人は、運動場周辺から廻れ」


「はい」「了解」


「私と美里は本部に詰めて、指示を出す」


「「「「はい」」」」


「以上だ。質問があれば受け付ける」



 全員への指示を終え、見渡す。



「いきなり新人同士で組ませて大丈夫なんですか?」



 健康的な小麦色の肌をしたボーイッシュな印象の少女が懐疑的な目で見る。



「大丈夫だ、静。二人ともかなりの実力の持ち主だ、それに度胸もある」



 心配無いといった表情で答える詩織。



「静、詩織お姉さまの言う通りよ。不本意ながら度胸だけはこの中の誰よりもあるんじゃないかしら」


「へえ、委員長だけでなく、副委員長が認めるなんて珍しいじゃない?」



 静の横に立つ、かなり背の高い女性。



「認めてないわよ?度胸があるってだけよ琴江」


「同じ事じゃん」


「まあ、習うより慣れろっていうくらいだし、良いんじゃない?」



 各々好き勝手に発言する。その様子に少し居心地悪そうに立つ千里と、まったく気にした素振り無く成り行きを眺める百合。



「まあ、戦場には慣れているしな……」



 ぽつりと呟く。



「え?」



 隣にいた千里が聞き返すが、



「いや、なんでもない」



 とまた無表情で美里達を見つめる。



「それで、具体的に何をしたらいいんだ?千里」


「ええと……騒ぎに乗じての騒乱行為や違法行為の取り締まりと、さっき説明してたわ」


「なるほど……」



 腕を組むと顎を撫でながら考える百合



「つまり暴れる奴、違反する奴は問答無用で始末したらいいということか……」


「そうそう、その通りって……違うわっ!」


「良い突っ込みだ」


「ね、度胸だけはあるでしょ?」



 腕を組み満足そうな百合と、渋い表情の千里を指差して溜息を吐く美里。その様子に皆笑みを浮かべてしまう。



「ところで、言われた物はもってきたか?」



 一頻り笑った後、詩織が仕切りなおすと二人に向かい質問する。



「ええ、一応持ってきましたが……」



 麻布に包まれた短い棒のような物を持ち上げ答える千里。



「しかし、こんな物を携帯するほど物騒なことが起こるとは思えませんが」



 訝しげな表情で、布を解くと短い刀が現れる。



「ほお、小太刀か」


「ええ、実家が古流柔術の道場を営んでいますので……」



 見ればメンバー全員何かしら武器を持っていた。



「まあ、これはデモンストレーションみたいなもので実際使用することは無い。私のこれも刃は落としているからな」



 腰にある日本刀を見せながら説明する詩織。



「まあ、私のも練習用の模擬刀ですけど……」


「示威行為に必要なんだろう?こういう組織にはよくあることだ」



 持ってきたバックを漁りながら詩織の説明の補足をする百合。彼女だけ大荷物なのを疑問に思う千里。



「さて、と」



 カチャカチャと中身を取り出しながら、まずタクティカルベストを装着すると、ポケットにマガジンを入れる。



「むう、やはり胸がきついか……」



 ぶつぶつ文句を言いながら、マガジンの抜かれたアサルトライフルを取り出し、セレクタレバーがセーフの位置になっているかを確認すると机に置く。それから拳銃も取り出し、同じ動作をする。



「素足で装着するのは初めてだな」



 と、言いながらふとももにレッグホルスターを装着すると、拳銃にマガジンを差し込むとスライド引く。チェンバー内に弾が入った事を確認するとホルスターへ収める。次に、アサルトライフルを取ると、弾が入っていなことを確認し、バレルをチェックをすると、銃口を斜め下にし構える。


 その様子を黙って見ていたが、



「えっと……手馴れているわね?それってモデルガン?」



 傍で見ていた静が興味深そうに質問する。



「ん?……ああ、そうです。モデルガンです。弾はくんれ……ゴム弾を使用しています」



 本物ですとは言えないので無難に誤魔化す。



「それにしては、少々本格的な……」


「それに関しては、私の父が軍人だったものでこういう物の取り扱いに慣れているだけです」


「そう……」



 これ以上聞いても仕方が無いので、あきらめる。そのやり取りを面白そうに見つめる詩織と、頭を抱える美里。





 ……



 …………





「では準備ができたな?」



 個々に武装した少女達を見渡す詩織。各人真面目な表情で、頷く。



「では、行動開始!」



 それを確認すると号令を発する。そうして、全員整列して委員会を後にする。










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