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一年生編 春 第一話

 風紀委員会本部、学園の中心にある学園総本部学舎二階にある。他の階と違い仰々しい佇まい、きっちりと整理されている用具。そして、何より規律を重んじる風土のせいかここにいる生徒は皆きびきびと動きが洗練されていた。


 長い廊下の一番奥にある風紀委員長室から順番に第一、第二、第三、第四課室と合計5部屋に分かれていた。また、各第一から第四までの委員の業務も分かれており、実働部隊である武闘派の第一課、知能派である情報管理する第二課、各部活の予算、経費管理を監督する監査的役割の第三課、そして、学園に通う生徒達の相談を受ける窓口的立場の第四課、最後にそれら全ての課を統括し運営の全ての権限を有する風紀委員長である土方詩織である。


 一般の学校と違い、ここ聖盾女学園セイジュンジョガクエンの風紀委員の権限は大きく、学内での違反者に対しての拘束力もあり、場合によっては委員会の独断で生徒を停学処分に科すこともできる。無論、様々な手続きと違反者に対する捜査などを調査して協議して間違いが無いかどうかを話し合い最終的に風紀委員長が違反者に対して処分の決定を告げる。


 そういった事もあり一部の生徒からは疎まれ憎まれている。それは、過去に何度か風紀委員の権限を悪用した者や、行き過ぎた正義を振りかざす者がいたためである。


 そんな厳しい雰囲気の風紀委員長室に訪れる百合。この間勧誘され、保留していた件の返答をしに訪れたのであった。



「それで、答えはでたのかね?」



 重厚な椅子に腰掛けている詩織が問いかける。前回と違い部屋には彼女以外にもう一人来室者がいた。黒いロングの前髪を綺麗に揃え、整えられた眉に銀縁の眼鏡をかけた少女。襟のタイの色から同じ一年生である事がわかる。


 無言でこちらをじっと見つめる少女の視線を少し気にしながら詩織に向かうと



「はい、私でよければ委員会への所属を希望致します」



 丁寧に敬礼で答える百合。その様になった姿に少し驚くが、すぐに表情を変え隣にいる少女の方へと視線を移す。



「彼女は君と同じで新人の佐々木千里だ。クラスは……」


「D組です、委員長。始めまして、佐々木千里です」



 百合の前まで近づくと手を差し出しだす。



「ああ、よろしく」



 同じく挨拶を交わす。



「さて、お互い挨拶がすんだことだし委員会の説明をさせてもらっても良いか?」


 二人に向かい話し出す詩織。



「まずは、これを渡しておく」



 白地に赤い盾のマークが入った腕章を渡される。



「委員会の活動時には必ずこの腕章の着用を義務づけてある。いつでも着用できるように保管しておくように」



 頷きながら腕章を受け取る二人。



「これをつけている限りは当学園内での風紀委員会権限が発動される。それは風紀委員が、学園の秩序を維持するために生徒に命令、強制をし、その自由を制限することができる。それ故に権限を悪用した場合厳罰に処した後、除名処分はもちろんのこと、場合によっては退学処分より思い処分を課す事もある」



 厳しい表情で説明する。



「いいか、これの重みを忘れるな。以上、質問があれば受け付ける」



 そう言うと着席する。



「では」



 挙手する百合。



「まず、学園の秩序を維持するとありますが、実際はどういった活動を行うのでしょうか?」



 もっともな質問である。曲りなりにもここはお嬢様が通う学園でしかも共学ではなく女子高である。所謂不良と呼ばれる者もいなければ、不純性異性行為などが起こるはずもない。ともなれば秩序が乱れるといった事が起こることなど皆無である。それなのに、この重々しい規律に権限は行き過ぎではないか?



「最もな質問だが、当学園の自治が生徒の自主性に任されている事は知っているな」


「はい」


「生徒の自主性を重んじるという理事長の考えから学園から縛られる事が基本無い。つまり、校則であれ、生徒指導であれ、全てが学生任せということだ」


「結構めちゃくちゃですね」



 思わず苦笑してしまう。



「まあ、そうだな。だからと言って教職員を蔑ろにしている訳ではない。基本学生でできることは学生にさせるというだけで、学生の領域を超えた事に関しては大人が対応するのでな」



 まあ、当たり前だろう。いくら自治権が学生にあるとはいえ、犯罪行為などを私刑で裁くわけにはいかない。



「つまり、自治権があるゆえの越権行為を見逃さない為の組織だということですか」


「察しが良くて助かる」



 要は権利を主張しすぎて騒乱を起す生徒を取り締まる仕事だということである。



「さしあたって、明後日から始まる新入生部活勧誘週間、通称『新勧合戦』が君たちの初勤務となる」


「新勧合戦ですか」


「ああ、ものすごいぞ。それこそ、揉みあい、殴り合い、奪い合い……」



 ここはお嬢様が通う学園だったような。そんな野獣がいたんだろうか?



「まあ、その辺りは当日の顔合わせの際に説明しよう。質問が無ければ以上だ」



 二人が納得したところで話を終えると退室を促す。それに答えるように頷くと退室する。静かな部屋に扉の閉まる音が響く。













 学舎を出た所で不意に千里が、百合の前に出る。



「少しいいかしら?」


「ん、なんだ?」


「貴方、スポーツか何かしてたの?」


「ん、いや特には何もしていないが?」


「そう……」


「なんだ、変な質問をする。何が聞きたい?」


「そうね、スポーツしたことない人にしては良い身体をしているので不思議に思っただけよ」



 撫で回すように百合の身体を触る千里。拒絶しようと思ったが、敵意がなさそうなのでそのままにしておいた。



「固い腹筋に、しなやかな肢体……本当に綺麗」



 なんだろうか、抵抗しないことをいいことにスキンシップが激しい。



「ああ、スポーツはしていないが、鍛えているからな。それと、そろそろ止めてもらいたいのだが?」



 流石にスキンシップが激しすぎるだろうと、苦笑する百合。しかし、余り気にした様子も無く離れる。



「あら、ごめんなさい。余りにも触り心地が良くて夢中になってしまったわ」


「風紀委員が風紀を乱すようなことは感心しないな」


「嫌味ね。ただ、少し気になっただけよ」


「そうか」



 なんとなく苦手なタイプだなと思う。切れ長の瞳でこちらを見る姿が、何故だか獰猛な猛禽類にでも睨まれているような感覚に陥ってしまう。


「……」


「警戒されちゃったかしら?」


「まあ、いきなりだったからな」



 無言が続く、お互い目を離さず見詰め合うが、



「ごめんなさい!」



 いきなり思いっきり頭を下げられる。流石にそうくるとは思わなかったので驚いてしまう百合。



「えーと、どういうことだ?」



 余りにも唐突なので、首を傾げる。そんな彼女の耳元まで近づくと



「実は私……身体フェチなんです」



 と小声で説明する千里。



「はぁ!?」



 思わず仰け反り大きな声を出してしまう百合。



「しぃ!声が大きい」



 百合の口に手をあてながら、人差し指を自分の口元にあて周りを警戒する千里、表情は真っ赤である。しかし、周りに誰もいない事が解ると安堵する。



「はあ、すまん」


「いえ、こちらこそ」


「ところで……」


「はい?」


「いや、悪いんだが、それを止めてもらえると助かるのだが」



 困惑した表情する百合、見れば思いっきり彼女の胸を揉んでいた。



「はあ、なんて張りの良い……最高……」



 おかしい、通常ならこの辺りで止めて離れるはずが、何故か未だに揉まれている。しかも、微妙にうまい。



「あーちょっと待て待っ……んっ……」



 胸の先の方まで弄られこのまま放置すると色々な意味でまずい、そう思いおもいっきり引き剥がす。



「はっ!私ってば、また……」


「はあ、まったくその癖は酷いぞ」


「あ、あの、その……ごめんなさい」



 自分の胸を抑えながら抗議する、頬が赤いのは少し感じてしまった事によるものだろう。その様子を見た千里がまた思いっきり頭を下げる。



「それで?」



 何が目的だ?とでも言いたそうなジト目で睨まれ恐縮する千里。



「私、駄目なんです。なんていうんですか、鍛え上げられた筋肉とか、しなやかな肢体とか、柔らかそうな胸とか見ると我慢できなくて……」


「いや、そこは自重したほうがいいと思うぞ?」


「ごめんなさい」



 大きく項垂れる。しかし、初対面時の印象が粉々に砕け散ってしまった。



「じっと睨まれていたので、敵意を向けられていたのかと思っていた」


「そ、そ、そんな事無い。私、理想的な女性に会うと性格まで変わってしまうんです」



 確かに、最初の方の高圧的な感じからすると、今はまるで別人に思えてしまう。



「まあ、悪意が無いならかまわんが、余りやり過ぎると問題だぞ?しかも、剥がし難い」


「ああ、それは私柔術やってたから」


「それでか、しかし、私は別にかまわんが、他の生徒にすれば問題だぞ」


「それは大丈夫、今まで私の性癖ばれた事は無いから」


「……あれだけの事をしておいて、よく言える」



 呆れてため息を吐く百合。



「ち、ち、違うのよ。貴方が初めてなの、だからっ」



 頬を染めながら否定する。そうして、意を決したような表情で、



「たまにでいいです。お願いですから身体触らせてください!」


「はあ!?」



 思いっきり頭を下げながらとんでもない事をお願いされる。流石の百合も今回ばかりは大口を開けて呆けるしかなかった。そんな自分に気づき、表情を直すと



「断る!」


「そんなっ!酷い」


「酷いのはどっちだ」


「後生ですから」


「駄目なものは駄目だ」


「さきっぽだけでも……」


「何の先っぽだ、阿呆が」


「痛っ!?」



 まったくとんでもない者と知り合ったものだと溜息を吐く百合。目の前で涙目になりながら、こちらを抗議の目で見つめてくる少女を見ながら、委員会に入った事を早速後悔してしまうのであった。




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